現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

3)既製杭

2020/07/30

軟弱地盤における既製コンクリート杭の杭心ずれ

工事の概要とトラブルの内容

路橋の橋台の基礎として、中掘り根固め工法によりPHC杭を施工した(図-1)。PHC杭の仕様は杭径φ700mm、杭長38mで、杭の構成は下杭(A種)14m、中杭(A種)14m、上杭(C種)10mとなっていた(図-2)。施工地盤は、GL-17.0mまではN値0~2の軟弱粘土層、GL-38.5mまではN値10~18の細砂層、それ以深はN≧50の支持層(砂礫層)となっていた。地下水位はGL-4.0mであった。杭の打設機械は、三点式杭打機で全装備重量は88tであった。

現地は軟弱地盤であったため、杭の施工に先立ちセメント系固化材を添加して厚さ0.5mの表層改良を行うとともに、敷鉄板2枚敷きで杭打機の安定を確保して、杭の打設を行った。

Ⅰ期工事の杭打ち完了後、フーチング構築のための掘削を行ったところ、杭心のずれが数多く発生していることが判明した。なお、杭心ずれの規格値は、本工事では10cm以内(D/4かつ10cm以内の最小値)であったが、全8本のうち3本がこれを上回った。

図-1 橋台基礎 杭伏せ平面図図-1 橋台基礎 杭伏せ平面図

図-2 PHC杭の概要及び土質柱状図図-2 PHC杭の概要及び土質柱状図

原因と対処方法

当現場は軟弱地盤であったが、杭打機の安定上は上記の対策(0.5mの表層改良と敷鉄板2枚敷き)で対応可能と判断していた。しかし、予想以上に地盤が軟弱で、杭打ち機の自重の影響により表層地盤が側方移動し、杭心のずれが発生したものと想定された。また、下杭の打設中は排土をあまり行わなかったために、本来地上に排出される必要があった土砂が側方へ押し出され、その影響で打設済みの杭が横移動したことも杭心のずれの原因となったものと考えられた。

Ⅱ期工事(施工地盤はⅠ期工事とほぼ同等)における対処方法としては、まず表層地盤の地耐力をさらに向上させることにした。具体的には、表層部地盤の改良層厚を1.5mとし、セメント系固化材を100kg/m3添加して、250kN/m2の地耐力を確保できるようにした。なお、地盤改良による地耐力の検討には、「セメント系固化材による地盤改良マニュアル1)」が参考になる。

さらに、杭打ち工事に先行してフーチング周囲の土留め用仮設鋼矢板(L=9m)の施工を行うことで、土砂の側方移動の抑制を図った。

加えて、杭打設直前に杭心表示棒(杭芯を表示する仮杭)を引き上げる際に、トランシットで杭心位置の再チェックを行った。

杭の掘削沈設に際しては、掘削土砂の地上への排出を確実に行うこととした。このため、軟弱粘土層では杭の自沈を防止するために杭頭部を保持して掘削・沈設速度は2m/分以下とし、杭沈設1本毎に(次の杭の接合前にも)スクリューを引き上げて、適切な排土量を確認することで、排土を確実に実施した。一般的な中掘り杭工法の掘削・沈設速度の目安としては、「杭基礎施工便覧2)」に土質別に示されたものが参考になる(表-1)。

さらに、予備のヤットコを準備し、杭打設後においてすぐには引き抜かず、後施工の杭によって位置ずれを生じていないか、翌日残置したヤットコを用いて位置測定を行った。

これらの対策により、Ⅱ期工事においては、杭心ずれを最大50mmに抑えることができた。なお、Ⅰ期工事における杭心位置のずれの対処方法については、発注者の承認を得てフーチングの補強で対応した。

表-1 中掘り杭工法の掘削・沈設速度の目安1)表-1 中掘り杭工法の掘削・沈設速度の目安1)

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

軟弱地盤での中掘り杭の施工においては、地盤の側方移動による杭の横移動防止に、施工速度の抑制や十分な土砂の排出が極めて重要であることに留意しておくことがトラブル防止に役立つ。また、杭基礎工事の施工地盤が軟弱地盤である場合には、杭打ち機の転倒等の重大な災害を招くことがないように、地耐力が杭打機の接地圧に十分耐えうるようにしておくことが極めて重要である。

地耐力不足が懸念される場合には、表層改良等の対策を立案・実施しておく必要がある。対策立案においては、ボーリングデータ等の地盤調査情報に加えて、事前の撤去工事の埋戻し箇所等でさらに緩い箇所がないか、現地の状況を正確に把握したうえで検討を行うことが重要である。そして、表層部の地盤改良は、杭の施工精度向上にもつながることを認識しておく。

施工地盤の地耐力の確認には、簡易な支持力確認装置3)(商品名:キャスポル)が開発されており、これを活用して地耐力確認箇所を増やすことでリスクを低減する方法もある。

参考文献

1) セメント系固化材による地盤改良マニュアル(第4版) 平成24年10月 (社)セメント協会

2) 杭基礎施工便覧 pp.177 平成27年3月 (公社)日本道路協会

3) 簡易支持力測定器(キャスポル)利用手引き 平成17年6月 近畿地方整備局 近畿技術事務所

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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