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北陸地方整備局 信濃川河川事務所の取組み

北陸地方整備局
信濃川河川事務所の取組み
~大河津分水路の改修事業について~

2019/11/28

はじめに

新潟県のほぼ中央部、燕市と長岡市を隔てる放水路「大河津分水路」で、全長約3.3kmにもおよぶ改修工事が進められている。大河津分水路は、信濃川上流で発生した洪水を下流部(新潟市内)へ流さないよう、可動堰と洗堰で流量を調節する機能を持っている。

資料1)可動堰と洗堰の仕組み※大河津分水路パンフレットより資料1)可動堰と洗堰の仕組み※大河津分水路パンフレットより

大河津分水路の根幹的な施設は、分流部の洗堰(信濃川本川側)、可動堰(分水路側)、第二床固(分水路最下流部)からなる。すでに平成14年(2002年)に洗堰、平成26年(2014年)に可動堰の改築が終了。現在は最後の改修工事となる第二床固の改築、日本海に近い部分での川幅拡幅を目的とした山地部掘削工事等が進められている。特に第二床固付近は、山あいの狭窄部であり、川幅が狭く極めて大きな流速となり、河床低下を招く恐れが高いため、放水路建設当初から懸念されていた部分でもある。この川幅の拡幅こそ、大河津分水路の安全性をさらに高めるための課題であり、悲願でもある。

平成27年(2015年)度に着手されたこれらの工事は、令和14年(2032年)度の完成へ向けて、着実に整備が進められている。事業期間18年、全体事業費約1,200億円となる当事業は、度々洪水被害に見舞われてきた信濃川下流の新潟市街地等を洪水氾濫から守り、浸水被害を軽減させるための一大事業である。

今般コンコムでは、北陸地方整備局 信濃川河川事務所より、「大河津分水路改修事業」について説明をいただく機会を得た。また、信濃川の歴史や当事業の目的等を広く紹介している施設「信濃川大河津資料館」もご案内いただいた。貴重な時間を割いてご説明、情報提供をいただいた関係の方々に心からの謝意と敬意を表すとともに、事業の概要を紹介する。

1. 信濃川の水害の歴史

資料2)横田切れの様子(流される親子)※大河津分水路パンフレットより資料2)横田切れの様子(流される親子)※大河津分水路パンフレットより

江戸時代の信濃川では、洪水が頻発し、越後平野全域にわたって水害をもたらしていた。明治に入り、分水路工事を求める請願活動が活発化し、当時の政府は明治3年(1870年)、第一期工事として分水路の掘削を開始。しかし、当時、新潟港改築のための調査を行っていた外国人技師から「大河津分水路によって、信濃川河口部の水深が浅くなり、船の出入りが出来なくなる」との報告が出され、明治8年(1875年)に工事は中止されてしまう。その後、堤防の築堤工事等を進めていたが、洪水の脅威は治まることはなかった。そして明治29年(1896年)7月、降り続いた大雨で、横田村(現在の燕市横田)をはじめ、各地で堤防が決壊した。水害史に残る「横田切れ」である。越後平野のほぼ全域が約一か月にわたって浸水し、浸水家屋43,684戸、浸水農地58,254haにおよんだ。この時の被害総額は、当時の新潟県の年間予算に匹敵すると言われている。この大災害を契機に、大河津分水路の建設再開の機運は高まっていった。

2. 大河津分水路の建設工事

写真1)イギリス製岩盤掘削機※大河津分水路パンフレットより写真1)イギリス製岩盤掘削機※大河津分水路パンフレットより

大河津分水路工事の第二期工事は、明治40年(1907年)~昭和2年(1927年)の20年間におよぶ大プロジェクトとなった。イギリス製の岩盤掘削機等、海外から輸入した当時最新の大型土木機械を使用し、延べ1,000万人の人々が工事に携わった。その多くは、これまで水害に苦しんだ地域の人々で、極寒の真冬にもかじかむ手で黙々と作業を進めたという手記も残っている。掘削延長は約10km、3つの堰(洗堰・自在堰・固定堰)を建設する工事は、その規模、求められる土木技術ともに、非常に難しいものだった。明治42年(1909年)に本格着工した後も、大正4年(1915年)、大正8年(1919年)に山地部で大きな地滑りが発生。工事はさまざまな要因で困難を極めた。ようやく分水路の通水にたどりついたのは大正11年(1922年)。しかしその後、昭和2年(1927年)にも地滑りが発生、河床洗堀により基礎が吸い出されたことによる自在堰の陥没等、大規模な補修工事を余儀なくされた。

この時、補修工事を指揮したのが「パナマ運河」建設に携わり、後に「荒川放水路」建設でも指揮を執った「青山士(あきら)」、新潟土木出張所長である。部下である「宮本武之輔(たけのすけ)」とともに、昭和2年(1927年)から昭和6年(1931年)というわずか4年間で、可動堰と2基の床固、4基の床留を建設した。

  • 写真2)完成した可動堰(左)と第二床固(右)※大河津分水路パンフレットより写真2)完成した可動堰(左)と第二床固(右)※大河津分水路パンフレットより
  • 写真2)完成した可動堰(左)と第二床固(右)※大河津分水路パンフレットより

3. 大河津分水路の恩恵

写真3)越後平野の主要交通網※大河津分水路パンフレットより写真3)越後平野の主要交通網※大河津分水路パンフレットより

大河津分水路の通水は、越後平野に大きな発展をもたらした。洪水被害が減少し、信濃川下流部の水位低下により排水性が向上。これにより土質が変化し、高品質の米栽培が可能となった。 また、通水以前に建設されたJR信越線は、越後平野を避け、地盤の高い山沿いを通過。旧国道8号も堤防兼用の道路として中ノ口川沿いに建設されていた。通水後は越後平野の安全性の向上に伴い、新ルートでの国道8号、北陸自動車道、上越新幹線が次々に整備された。大河津分水路の整備によってもたらされた交通網の飛躍的な発達は、今日の新潟の発展に大いに寄与している。

4. 大河津分水路改修事業の概要と効果

第二期工事、補修工事以降も、河床洗堀への対応や堰の嵩上げといった維持・補強工事、洗堰や可動堰の改築等を計画的に実施してきた。しかしながら、補修工事から80年以上が経過し、施設の老朽化や堰の安定性の低下等の問題が顕在化。また、近年の記録的な大雨等の気象状況の変化もあり、洪水処理能力不足も懸念されたため、分水路上流の長岡市を含め、燕市、新潟市の安全安心な暮らしの確保へ向けた大規模改修が必要となった。この大規模改修工事が「大河津分水路改修事業」である。

大河津分水路改修事業の概要

写真4)大河津分水路改修事業の概要写真4)大河津分水路改修事業の概要

改修の目的は、大河津分水路の課題となっている洪水処理能力(流下能力)の不足や施設の老朽化(第二床固)、河床低下による構造物の安定性低下(地滑りの危険性)対策である。

事業期間 平成27年(2015年)度~令和14年(2032年)度
事業箇所 新潟県長岡市、燕市
事業内容 放水路の拡幅(山地掘削、第二床固改築、野積橋架替等)
全体事業費 約1,200億円
写真5)改修前の状況 写真5)改修前の状況
写真6)改修後のイメージ 写真6)改修後のイメージ
写真7)現在の第二床固と山地部掘削予定地 写真7)現在の第二床固と山地部掘削予定地

平成27年(2015年)度に着手した改修事業も、すでに準備工事として、河口部には新第二床固の基礎を構築する鋼殻ケーソンの係留施設建設工事が終わり、山地部掘削に必要な工事用道路も概成。平成30年(2018年)度には、野積橋架替工事も含め、本格的な改修事業が始まった。現在、施工中の工事は20(令和元年10月1日現在)。まさに地元の建設業者、技術者のチカラを結集した大プロジェクトである。

この改修によって、戦後最大規模と呼ばれる昭和56年(1981年)8月の洪水と同等の流下に対しても、水位低下効果を発揮し、堤防の決壊等による洪水被害の危険度を大幅に低減させる。また周辺地域の浸水被害も解消されることが期待される。

  • 資料3)戦後最大規模の洪水に対する改修前後の浸水被害シミュレーション資料3)戦後最大規模の洪水に対する改修前後の浸水被害シミュレーション
  • 資料3)戦後最大規模の洪水に対する改修前後の浸水被害シミュレーション

5. 信濃川大河津資料館

写真8)信濃川大河津資料館写真8)信濃川大河津資料館

大河津分水路を臨む土手のそばには「信濃川大河津資料館」がある。信濃川と越後平野の歴史や風土、大河津分水路建設工事の歴史を学べる常設の資料館である。分水路のしくみや役割を知ることができるシミュレーターや建設に携わった青山士や宮本武之輔の功績や人柄を紹介した資料、実際の工事で使用された設計図や「鍋トロ(土砂運搬に使われたトロッコ)」等、大河津の今と昔を体感することができる。気軽に挑戦できる「しなのがわクイズ」は、周辺の小学生にも人気のコーナーだ。また、分水路の2000分の1の模型が展示された4Fの展望台からは、信濃川と分水路の風景を眺めることもできる。資料館の周辺も、ウォーキングコースが整備され、補修工事竣功記念碑等の石碑、新旧の可動堰・洗堰を間近に見ることができる。

  • 写真9)2F展示コーナー写真9)2F展示コーナー
  • 写真10)鍋トロ 写真10)鍋トロ
  • 写真11)設計図 写真11)設計図
  • 写真12)2000分の1模型 写真12)2000分の1模型
  • 写真13)しなのがわクイズ 写真13)しなのがわクイズ
  • 写真14)補修工事竣功記念碑 写真14)補修工事竣功記念碑
  • 写真15)記念碑に刻まれた青山士の言葉 写真15)記念碑に刻まれた青山士の言葉
  • 写真16)旧可動堰 写真16)旧可動堰

最後に、改修工事を監理する北陸地方整備局 信濃川河川事務所より、当工事に携わる技術者へのメッセージをいただいた。ここに紹介する。

6. 分水路改修工事に携わる技術者の皆様へ

今回の大河津分水路改修事業は、越後平野を水害から守るため、近年では洗堰・可動堰の改築に続く大事業であり、地域の長年の悲願でもあります。

明治40年から始まった第二期工事では、海外から輸入した最新の大型掘削機を使用すると共に、延べ1,000万人の作業員が携わり、当時としては驚異的な工期で完成しました。

現在、建設業界は技術者の担い手確保が喫緊の課題であり、このため、担い手三法やi-Constructionの推進などを通じて、生産性の向上、労働環境の改善に取り組んでいます。

その一環として、当事務所は、全国10事務所の一つである「i-Constructionモデル事務所」に指定され、さらに大河津分水路改修事業は「3次元情報活用モデル事業」に指定されたことから、測量・設計から施工に至るまでBIM/CIMを活用し、建設生産・管理システム全体の効率化に取り組んでいます。

このように、最先端技術を取り入れた大河津分水路改修事業の早期完成に向け、工事を安全かつ効率的に進めるためには、受発注者が一丸となって取り組むことが必要であり、中でも現場の第一線で活躍されている技術者の皆さんの技術力が不可欠です。

また、北陸を代表する河川の大規模事業であることから、対外的な事業の周知はもとより、地域活性化に向け、関係者と協働でインフラツーリズムにも取り組んでまいりますので、今後ともご協力のほどよろしくお願いいたします。

7.おわりに

今年の初夏、コンコムの「土木遺産を訪ねて」の取材で、「萬代橋」周辺を散策しました。萬代橋を渡りながら眺めた信濃川は雄大で、ゆっくりと流れていました。その河口の遥か上流に、信濃川と越後平野を守る分水路があり、大規模な改修工事が進められていることは、今回の取材で初めて知りました。現在の萬代橋が永久橋として架けられたのも、分水路建設によって信濃川の流れが安定し、川幅が半分以下になったおかげともいえます。

取材に訪れた数日後(令和元年10月12日~13日)、台風19号が各地で猛威をふるいました。大河津分水路でも大正11年(1922年)の通水以来最高の水位を計測しました。また、大河津水位観測所では、約10時間にわたって計画高水位を超過し、堤防決壊のおそれのある危険な状態が続いたそうです。こうした中、分水路は上流・中流の洪水を日本海に流し続け、越後平野への氾濫を防いだとのことです。これまでの改修の効果が発揮されたといえます。しかし今後も、さらに大きな台風や長雨が信濃川を襲う可能性もあります。改修事業が予定通り進められ、越後平野の安全がさらに高まることを願います。

大河津分水路までは、北陸新幹線「燕三条駅」からは車で20分ほど。マイカー、レンタカーで新潟観光をする際には、ぜひ足を延ばしてください。余談ですが、資料館では、今人気の「堰カード」が2種類配布されています。

(文責/コンコム事務局)

土木遺産を訪ねて
取材協力・資料提供
参考資料

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