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2016/04/27
今回の現場探訪/話題の現場は、青森県南東部、岩手県との県境「八戸市」に校舎のある八戸工業大学を訪問しました。取材当日の3月10日は、新4生を対象とした「学生と企業の就職懇談会」が開催されており、雪が降る中、多くの学生が会場である体育館に向かっていました。平成27年度も就職率100%を実現した八戸工業大学の土木建築工学科、就職指導担当の金子賢治教授に、その取り組み、学生指導などについてお聞きしました。以下に紹介します。
~震災以降インフラの重要性を意識した学生も増加~
八戸工業大学は、青森県で唯一『土木・建築』を専門に学ぶことのできる大学です。以前は「環境建設工学科(旧 土木工学科)」と「建築工学科」の2つの学科でしたが、2009年に土木建築工学科を新設し、2年生進級時に「土木工学コース」「社会デザインコース」「建築工学コース」の3つのコースを選択して専門教育に入るようになりました。社会資本に関わる土木工学と、工業・技術分野でありながら文化・芸術的な側面もあわせ持つ建築学の両者を総合的に学びながら、関心の高い分野の専門性を追究できる教育体制を整えています。
定員数は各学年70名で、うち女子学生の割合は1割前後です。青森県は他県よりも少子化が進んでおり、近年は学生数も減っていましたが、平成27年度入学生は定員数まで増やすことができました。震災復興を含めて建設業界の景気が上向いてきたことや、建設業界の担い手確保のためのPRや雇用改善施策も要因であると考えています。震災以降インフラの重要性を意識した学生も増えてきています。
学生の大半が北東北(青森・岩手・秋田)の出身で、特に地元である青森県出身者が多いです。付属の八戸工業大学第一高等学校、第二高等学校からも進学してきており、例年1~2割程度の割合で在籍しています。
~寒冷地対応技術も学んで地学地就をめざす~
「土木工学コース」では測量学・水工学・地盤構造工学などの土木専門科目を中心に、「建築工学コース」では住居計画・建築設計・建築法規などの建築専門科目を中心に学び、「社会デザインコース」では建築史から構造物の設計、環境に配慮した河川や道路の計画・施工・維持管理まで、建築系と土木系の専門科目をバランスよく学んでいきます。
また、⼟⽊建築⼯学科では北東北という地域特性から、寒冷地対応技術を学んでいることも⼤きな特徴のひとつです。建築系では設計の講義内で寒冷地に対応した空間デザイン⼒を、⼟⽊系では学外研修により寒冷地特有の課題・技術を学ぶことで、地元出⾝の学⽣が地元で活躍する「地学地就」の取り組みを進めています。
「⼟⽊⼯学コース」は、⼟⽊系分野では東北の⼤学で最初にJABEE 認定を受けたコースで、現在もJABEE認定を継続しています。卒業後は申請すると「技術⼠補」の資格を得ることが可能です。「建築⼯学コース」「社会デザインコース」も卒業後に建築⼠の受験資格を得ることが可能です。資格取得は技術者として仕事をしていくうえで必要となるので、学⽣には在学中から意識をさせています。
~「地元に残って欲しい」は学生の思い込み?~
おかげさまで、学科としては5年連続で就職率100%を達成しています。就職懇談会にも多くの建設関連企業が参加され、一部参加をお断りしなければならない企業もいるほどです。現状は学生数が少ないため、就職担当者の方の希望になかなかお答えできていません。
例年地元志向の学生が4割~5割程度います。地元に残って仕事がしたいという学生がいることはうれしいのですが、学生の話をよく聞くと、「保護者が地元に残って欲しいと考えている」と学生が勝手に思い込んでいるケースもあるので、面談等で学生の希望を聞いたうえで家庭内でも相談するようにと指導しています。
また、地元志向の学生のなかには公務員志望の学生もいます。割合としては1割~2割程度です。そのため数年前より通常のカリキュラムとは別に「公務員試験対策講座」を立ち上げて学習をさせています。これはサークル活動に近い形の運営で、教員はアドバイスをする程度で学生が自主的に研究・学習をしています。今年は青森県庁にも4名入庁しましたので、今後も継続してもらいたいと思います。
八戸工業大学では1年次からキャリア教育を実施しており、3年次にはインターンシップガイダンスや企業研究、労働基準・コンプライアンス等を講義で学び、就活の準備をしたうえで、本日も実施された就職懇談会で多くの企業の情報を収集し、就活に臨んでいます。もちろん、「就活テクニックを身に付けるのではなく、学生個々の資質向上が重要である」という考え方に基づいて、学生には指導を続けており、その成果も出てきていると感じています。
~コミュニケーション能力やマネジメント能力の向上も重視~
技術者としての専門教育はもちろんですが、社会人としての基礎能力も身につけたうえで送り出したいと考えています。受発注者間、元下間での調整で必要となるコミュニケーション能力や、工程管理・コスト管理などのマネジメント能力を、卒業研究の中で身に付けられるようにカリキュラム・評価方法を変更しているところです。ある課題(卒業研究)を解決するために「技術的な自分の主張を適切に伝えることができる」「工程表をつくりスケジュール管理ができる」「研究予算の管理ができる」などのプロセスを評価項目に加えるということです。JABEEでも求められていることですが、社会に出て技術者として仕事をしていくうえで必要な能力を持った即戦力となる人材を送り出したいと考えています。
~給料を上げてほしい~
地元の企業にははっきりと「給料を上げてほしい」と言っています(笑)売り手市場の今だから言えることですが、地元の建設業の給料が低いと、学生も建設業で働こうという気持ちにはなりませんし、そもそも土木建築工学科で学ぼうという気持ちにもなりません。全国規模の企業との格差、他産業との格差を縮めることで、地元の建設業で活躍する技術者を増やせると考えています。
~人材を継続して育成するためには、大学だけでは限界~
青森県では年に一度「青森土木フォーラム」というイベントを開催しています。産官学連携で実施していますが、事務局は八戸工業大学が行っています。一般の方に対して、講演やパネルディスカッション、ポスター展を通じて、インフラの重要性など土木事業への理解をすすめるための活動です。毎年、一般の方にもなじみの深いテーマを設定しており、「土木」を知ることで、技術者の道に進みたいという学生が増えてくれたらと考えています。
地域が必要とする技術者を継続的に育成するためには、八戸工業大学だけでの取り組みでは限界があります。行政機関・地域の建設業界と連携して、人的ネットワークを形成することで、見学可能な現場情報の入手や、行政や企業における新卒者の採用情報の共有など、学生の学習・進路指導にも役立てています。
八戸工業大学は、平成28年度で土木工学科・建築工学科設置40周年を迎えるにあたり、一目で卒業生とわかるようなツールの作成を検討しているそうです。例えば青森県の現場でそんなシールがヘルメットに貼ってあったら、それだけでコミュニケーションが生まれるはずです。地域に根ざした八戸工業大学の取り組みで、北東北の建設業がより活性化することを期待します。
あらためて、取材にご協力いただいた八戸工業大学のみなさまに御礼申し上げます。
(文責:前田 健二)
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新4年生対象の就職懇談会。平成28年3月10日~11日の2日間にわたり開催され、約250の企業・団体が参加。そのうち建設業は45社、地元の工務店・コンサルタントから全国規模のゼネコンまで幅広く、八戸工業大学OBの社員が同席している企業も多く見られました。
学生は決められた時間(1企業30分×4回)の中で各企業のブースで説明を受けた後、採用スケジュールや入社後のキャリアアップなどに関する質問を担当者にぶつけていました。
地元企業の人事担当者からは、「OBも多く在籍しているが、近年は人手不足が深刻化しており、若手技術者の採用が重要課題となっている」という声も聞かれました。また、「地域のために働ける」「地元に残って仕事ができる」ことをPRポイントとして伝えているが、採用競争も激化しているため、土木建築工学科だけでなく他の学科からの採用も検討しているようでした。