ConCom 会員ログイン

ConCom 掲示板

こんなときはどうしよう? 今さら聞けないこんなこと これって正しいの?

建設現場で直面する課題、日ごろの作業の疑問、資格試験の相談など。みなさんで盛り上げてください。

掲示板を見る

建設産業図書館の優待利用方法 ConCom会員限定での優待利用です

お役立ちリンク集 日々の作業で使える情報へ一発リンク

ご意見・お問い合わせ ConComへの要望・ご質問はコチラから

現場探訪 優れた工事成績評定の現場、話題の新技術、人材確保に役立つ情報をレポート

話題の現場 

地域が抱える課題への取組から生まれた
新技術〜『壁基礎工法』
東北工業大学/都市マネジメント学科/
今西肇研究室

2014/10/27

はじめに

回の現場探訪では、「産学官」協働がきっかけとなって開発された新技術『壁基礎工法』の概要と、開発の核となった東北工業大学・都市マネジメント学科・今西研究室の取組を紹介します。また、研究室で学ぶ学生にも、建設業界への期待、将来の目標などインタビューさせていただきました。「産学官」協働の現場、建設業界の将来を担う人材育成の現場の現在《いま》を感じてください。

1. 壁基礎工法開発の経緯

1) 開発の背景

壁基礎工法の技術的な説明をする前に、なぜこの工法を研究開発することになったのか、その背景について触れておきます。開発のきっかけとなった現場は、宮城県塩竈市新浜地区。当地区は、40年前に軟弱な粘土地盤が厚く堆積している海底部を未改良のまま埋め立てて造成された土地で、すでに工場等が立てられていますが、1978年6月12日の宮城県沖地震(M7.5)および2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)の地殻変動によって地盤沈下が発生し、地震後も引き続き沈下が収束しない状況にあります。

写真1)塩竈市新浜地区の地盤沈下被害①写真1)塩竈市新浜地区の地盤沈下被害①

写真2)塩竈市新浜地区の地盤沈下被害②写真2)塩竈市新浜地区の地盤沈下被害②

このような状況の中、どのようにして今回の研究開発がスタートし、具体的な工法として技術が確立されたのか、プロジェクトの中心となった「東北工業大学工学部都市マネジメント学科」の今西肇教授に伺いました。

2) 本工法の研究開発までの経緯について

「今回の壁基礎工法の研究開発のスタートラインは、復興大学の事業のひとつである『地域復興支援ワンストップサービス』による地域巡回訪問でした」。

先月掲載「現場探訪/復興大学の取組」参照

「塩竈地区の工場団地周辺の地盤は、度重なる地震と余震で著しく沈下していました。このままでは、工場などの安全を確保することは難しく、また、新たに工場を進出させる企業にとってもマイナス要素となります。丁度、当該地区に水産加工場を新設することもあり、速やかに地盤の問題を土木の最適工法で解決し、防災面の安心も確保することが熱望されていました。しかしながら、このような未改良既存埋立地の超軟弱粘土地盤を長期にわたって安定化させるには、従来の杭基礎工法では不十分で、かつ経済的にも負担が大きく、新しい工法の開発が不可欠となったわけです。こうして、『塩釜市新浜地区水産加工団地の地盤沈下対策プロジェクト=通称『S-Project』がスタートしました』。

3) 壁基礎工法の開発につながる調査

図1)塩釜市新浜地区の地盤調査位置と地質断面図(A-A断面)図1)塩釜市新浜地区の地盤調査位置と地質断面図(A-A断面)

「まず私たちが行ったのは、当該地区の地盤を徹底的に調査し、データベース化することでした。また、沈下の実態についても詳しく確認する必要がありました。塩竃市が行った地質調査ボーリングで、N値ゼロの軟弱な粘土層が最大厚さ20mで分布していることがわかりました(図1)」。

「また、上記の地質断面図から、軟弱な粘土層の上面には凹凸があり、地表面の不陸と同様の線を描いていることから、この不陸は埋土荷重によって圧密沈下が発生したものと考えられました。その他、粘土層の堆積する場所でのボーリング調査や地盤のデータベースを利用した調査により、以下のような地盤性状が把握できました」。

  • ・N値ゼロの軟弱粘土層が分布している
  • ・圧密沈下による不陸が発生している
  • ・粘土層の自然含水比が150%を超えるものが多く最大180%
  • ・液性限界が200%を超えるところもあり、塑性指数も最大150%近くある

図2)宮城県沖地震後の宮城県内の地盤沈下※宮城県資料に加筆図2)宮城県沖地震後の宮城県内の地盤沈下
※宮城県資料に加筆

「次に、沈下について検証・把握を行いました。地震動による圧密沈下の可能性については、(図2)が示す通り、地震の度に沈下が加速することが観測されています。

また、(図3)が示す仙台市の観測資料では、東日本大震災後、地盤沈下の速度が加速していることがわかります。さらに、塩竈新浜地区の平面的な地盤沈下分布を広域観測するために、陸域観測技術衛星『だいち(ALOS)』のPALSAR観測データを干渉させたInSAR解析を実施しました。これにより、時間とともに地盤沈下が進行している状況が確認されました」。

図3)仙台市における東日本大震災前後の地盤沈下速度の変化※仙台市資料より図3)仙台市における東日本大震災前後の地盤沈下速度の変化
※仙台市資料より

図4)InSAR解析による塩釜市新浜地区の地盤変状(2010年11月20日と2011年4月7日の干渉分析結果)図4)InSAR解析による塩釜市新浜地区の地盤変状
(2010年11月20日と2011年4月7日の干渉分析結果)

写真3)コンクリート杭杭頭部の亀裂写真3)コンクリート杭杭頭部の亀裂

「さまざまな調査・観測を経て、新浜地区に適した地盤沈下対策の方法の開発段階へ進んだわけです。この時期、塩竃市新浜地区では、水産加工場建設が予定されていました。この建設工事に対して、私たちの調査・研究を活かし、地盤の問題を最適な工法で解決し、防災面の安心も確保することがプロジェクトの具体的な成果目標となりました。当初、工場建設は基礎杭によって支えられる設計となっていましたが、リアス式海岸では基盤岩深度の不陸が大きく、打ち止め位置の確認が困難であり、また、埋立地ゆえに岩塊等が不規則に混入している恐れもあり、杭による支持層への支持を確保することが難しいと判断されました。さらに、東日本大震災で被害を受けた基礎杭の杭頭の写真からもわかる通り、コンクリート杭では杭頭に亀裂が入り、破壊されていました」。

2. 壁基礎工法の概要

図-5杭基礎工法の概要図図-5杭基礎工法の概要図

「上記のような調査結果によって、水平地震力が構造物基礎に与える影響は大きく、新規工場などの基礎選定においては耐震対策としての杭頭部の補強が不可欠であると判断されました。結果、当工事に杭基礎を適用することに対する再考が求められ、杭基礎に代わる地震動にも強い基礎工法の選定を実施した結果、高品質な地盤改良工法を用いた壁状基礎構造とすることでこれらの課題を解決できると判断し、設計に取り組みました」。

図6)地震時変形性能を考慮したアーチ案および櫛状案の比較図6)地震時変形性能を考慮したアーチ案および櫛状案の比較

「当初、地盤改良は壁全体に採用する予定でした。しかし工期や工費、さらには地震時の変位などを考慮すると、一部を割愛しても十分に性能を確保できると考え、最終的にアーチ案ではなく櫛状案を選定しました。壁状基礎の特徴は上部を壁状に改良することにより基礎の全体剛性を高めることが可能で、なおかつ基礎先端部が基盤岩に着底することから不等沈下の抑制ができる点にあります」。

「地盤改良工法についても、さまざまな工法を検討しました。
壁状基礎として施工する地盤改良工法としては、

  • 水平混合撹拌方式
    CDM工法(Cement Deep Mixing method)
    DJM工法(Dry Jet Mixing method)
    テノコラム工法
  • 垂直撹拌混合方式
    TRD工法(Trench cutting Re-mixing Deep wall method)
    CCC工法(Chain Conveyor Cutter method)
    パワーブレンダ―工法

などがありますが、今回は構造物の基礎として採用するため、品質のばらつきが少ない工法を第一と考えました。結果として、堆積土の性質に強度が左右される水平混合撹拌方式ではなく、チェーンソーのように深度方向を一体として切削混合できる垂直撹拌混合方式を採り入れ、中でも、20mを超える深度まで施工可能で工期を短縮できるCCC工法を採用したわけです」。

図7)水平混合撹拌方式と垂直撹拌混合方式の改良率図7)水平混合撹拌方式と垂直撹拌混合方式の改良率

図8)CCC工法の概念図図8)CCC工法の概念図

「本研究で一番苦労したのは、コストの面です。地盤を壁状に高品質で改良できる壁基礎工法を採用するためには、杭基礎工法と価格面で勝負しなければなりません。一般に杭基礎が使われる理由は、地盤改良に比べて安価であるという点です。地盤改良はとても高価であるので建築などの基礎にはあまり使われず、大規模な土木工事に使われることが主でした。地震時の安定性を考えると、杭基礎より地盤改良基礎の方がいいのですが、どうしても価格面で杭基礎にとって代わることが難しい。そこで、品質と価格を兼ね備えた垂直撹拌混合方式の地盤改良工法を探していたところ、CCC工法が開発されたのを知りました。また、壁状基礎は非常に丈夫な構造なので、改良体下部を櫛のように間引いても、十分に地震特性がいいことも解析で明らかにしました。ですから、杭基礎の価格に対抗できる壁基礎工法が実現したのです」。

3. 壁基礎工法の今後の可能性

「今後は、さらに品質管理が重要なポイントになると思います。施工前にも、調査ボーリングで採取できた土を用いて事前の室内配合試験を行い、また、現地での改良体の全層からコア採取による強度確認を3か所実施しましたが、さらに、地震時の安定性を評価するために上部構造物と下部構造物の挙動も追跡することができるように地震計の設置、GPSによる変状の測定も行おうと思っています」。
「今回の研究・技術開発によって、今後塩釜地区においては、以下のような効果が予想されています。また、軟弱な粘土地盤が厚く堆積している他の地域においても、地盤を改良しつつ長期にわたって安定化させる新しい工法として採り入れられることを願っています」。

【期待される効果】
地盤沈下の実態が定量的に明らかになったため、地盤沈下量の予測と対策工法の検討が可能となる。
塩竃市の経済担当部局、塩竃市商工会議所、塩竃市議会などの高い関心があり、塩竃市とともに地域産業育成、工場誘致のための地盤沈下対策を地域とともに検討することができる。
今後、この場所に建設を予定する企業に技術的な支援を行うことができる。
塩釜新浜地区の地盤問題が解決できる糸口ができたので、地盤沈下のために工場進出を断念するといった課題からの脱却が期待できる。

4. 東北工業大学 都市マネジメント学科 今西研究室インタビュー

写真4)今西肇研究室メンバー(左から松田君、増田君、今西教授、松元君、月舘君)写真4)今西肇研究室メンバー(左から松田君、増田君、今西教授、松元君、月舘君)

壁基礎工法のきっかけとなった「塩竈プロジェクト(S-Project)」の他にも、防災・減災をデザインした遊歩道計画「八木山プロジェクト(Y-Project)」、地盤の環境回復に関する研究「資源循環プロジェクト(Re-Project)」など、研究室がさまざまなプロジェクトの中心となり、また実際に研究室の学生がそれぞれのプロジェクトリーダーを担当している。今回、夏休み直後の忙しい時期に、研究室のメンバーに今担当しているプロジェクトや将来の展望、土木業界に対する想いなどについて話を聞くことができた。以下、紹介する。

月舘優太(修士課程1年)

月舘優太(修士課程1年)

「私は今、塩竈プロジェクトを担当しています。建設材料の研究に興味があって、この学科を選んだのですが、プロジェクトを通して、『研究』することの楽しさを実感しました。将来も、できれば地盤に関する研究、特に塩竈のような地盤沈下問題に関する研究をつづけていければと考えています。先日、地元の新聞社が主催した懇談会に参加して、今、建設業界が深刻な人手不足と聞きました。土木は、人々が生活していく上で、非常に重要な分野だと思いますので、自分もその一員としてやれたらいいなと思います」。

松田康暉(4年生)

松田康暉(4年生)

「父親も建設業で働いています。今西研究室は、決して楽ではないけど、いろいろ勉強になると思って選びました。今は人工土(津波堆積物や産業副産物)に関する研究を担当しています。来年の春からは、ゼネコンに就職することが決まっていますので、早く現場監督になって、工事を仕切れるようになりたいと思います。その前に資格を取ったり、覚えることもたくさんあると思いますけど、父親を超えられるように頑張りたいと思っています」。

増田壮哲(4年生)

増田壮哲(4年生)

「土木建設の技術はもちろん、都市マネジメント学科は、まちづくりや経営も学べるところが魅力です。今は八木山を中心とした環境を意識した街づくり(Y-Project)を担当しています。ゼネコンにお世話になる予定ですが、これからの建設業界は海外進出と構造物の補修・改修が主流となっていくと思います。また、予期せぬ災害による被害も増えていくと思いますので、いかに危険を予測して対応していくかが大事だと思います」。

松元渉(4年生)

松元渉(4年生)

「高校の通学で利用していた道路があまりにも“ボコボコ”で、それを直したいと思ったのが道路整備や土木に興味を持ったきっかけです。土木は住民の生活の土台をつくる仕事だと思います。将来は行政機関に進んで、住民の快適な生活をサポートしたいと考えています。今の建設業界は人手不足で、たくさんの仕事をこなさなければならないので、大変だと思いますが、やりがいはあると思っています」。

最後に、今西教授にも、日頃の学生に求めていること、将来期待することを聞きました。

今西教授

「東北工業大学はその名の通り、東北という地方のしかも「工業」に特化した大学です。都市マネジメント学科は、土木工学科として誕生し、建設システム工学科を経て、土木技術にマネジメント力を融合させた学科として2011年に誕生しました。東北という地域の発展的なまちづくり、地域づくりに必要な課題に対して、土木技術をはじめとする技術やモノを地域ととともに考え、提供することが大切だと考えています」。
「当然、全ての課題を私の研究室だけで解決できるわけではありません。しかし、東北工業大学の他の研究室が持っているチカラ、さらには東北の他の大学が得意とする分野を上手くコーディネートすれば、多くの課題に対応することが可能になります。そうした考えから、私の研究室の学生に対しても、たとえ自分たちの専門分野でなくても、さまざまなプロジェクトに参加し、いろんな業界・分野にふれることで、たくさんのことに興味を持ってもらいたいと思っています」。

おわりに

今回、コンコム事務局としては、初めて大学の研究室を取材させていただいた。実際に研究室で学ぶ学生たちと話して、その純朴さ、まじめさを改めて感じるとともに、建設業界の現状についても考えていることがわかりました。これから建設業界を背負う彼らが、不安を感じることなく、やりたいこと、めざすことに邁進し、近い将来、建設現場で活躍している姿を見たいと思いました。

取材協力

関連記事

2017/09/28

話題の現場話題のマンホールカードの発行にも参画
「マンホール蓋」製造メーカー 長島鋳物株式会社

今年8月、東京ビックサイトにて開催された「下水道展'17東京」において、注目を集めているブースがありました。色とりどりのマンホールが展示され...

2017/08/30

表彰工事山中湖畔沿い木製デッキのサイクリングロード整備、観光客に対する安全配慮、地元ボート業者との工事調整に万全を期して完成

今回の現場探訪は、平成28年度国土交通省関東地方整備局の局長表彰を受けた「山中湖自転車歩行者道設置その5工事」。この工事を受注されたタカムラ建設株式会社にて...

2017/07/31

話題の現場JECA FAIR 2017製品コンクール
中小企業庁長官賞受賞
充電式特殊LED投光器「X-teraso(エックステラソー)」

夜間工事やトンネル工事、地下工事など建設現場のさまざまなシーンで使用される投光器。これまでは発電機を電源とした水銀灯の...