ConCom Constructor's Community
建設技術者のためのコミュニティサイト
2015/08/27
大学から「土木工学科」の名称が消え、現在その名称を使用している大学はわずか6大学となってしまったそうです。土木と建築の統合によるものや、『3K』と呼ばれた「土木工事」の負のイメージが学生募集の障害になるのではという危惧など、名称変更の理由は各大学それぞれかと思いますが学生を受け入れる企業からは、在学中に学生が何を学んでいるのか、何をめざしているのか、わかりづらくなってしまったという声もあります。
今回の現場探訪/話題の現場では、来年度の学生募集でも「ドボク」を前面に出して他大学との差別化を図りながら、独自の就職支援カリキュラムを展開し、就職率100%を実現している東北工業大学の都市マネジメント学科、就職指導担当の森田哲夫教授に『就職に強い大学=就職率100%』への取組と現状、講義内容、現在の学生の特徴などをお聞きしました。以下に紹介します。
「東北工大は、東北エリアで『土木』を専門に学ぶことのできる数少ない大学の一つです。2003年に『土木工学科』から『建設システム工学科』へ、2011年より『都市マネジメント学科』へと名称変更をしてきましたが、建築学科と統合することなく、従来の土木技術に管理・経済・地域活性化などの要素を統合させ、都市の未来を創造する学科として発展させてきました。
定員数は各学年約80名で、うち女子学生の割合は数%程度です。女子学生は数年前まで非常に少なかったのですが、ここ数年で徐々に増えてきています。また、学生の大半が東北の出身です。約70%が宮城県内の在住者であり、仙台市内にある大学ということで東北の中でのブランド力を活かせていると考えています。」
「都市マネジメント学科の学生は、入学すると2年次までに『プランナーコース』と『エンジニアコース』のどちらかを選択します。『プランナーコース』はまちづくり計画、地域観光資源学、防災、地域環境学などを学び、マネジメント力を活かしたプロジェクトリーダーをめざします。『エンジニアコース』は構造力学や水理学、地盤工学などを学び、社会基盤整備に必要とされる高度な技術力を身につけた技術者をめざします。いずれも土木工学を基礎としています。」
「都市マネジメント学科は、『JABEE(日本技術者教育認定機構)』の認定を受けています。教育プログラムに対しても、当然厳しい審査を受けなくてはなりませんので、技術者として社会から要求される専門性の高いカリキュラムを採り入れています。」
JABEE(日本技術者教育認定機構)
技術者教育の振興、国際的に通用する技術者の育成を目的として設立された法人。大学等の高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムが、社会の要求水準を満たしているかどうかを国際的な同等性を持つ認定基準に基づいて審査・認定し、審査を通じて教育の改善を図っている。
「また、東北工大では1年次からキャリア教育を実施しています。適性検査や面接の練習はもちろん、外部講師を招いてのセミナーでコミュニケーション能力の向上、現場見学やOB・OGの講演会も実施しています。早い段階から就職を考えさせることで、学生と就職先のミスマッチを減らすことが可能となりますし、大学生の本分である専門教育と仕事とのつながりを意識させることができると考えています。」
「おかげさまで、ここ数年は就職率100%を達成しています。年間で200件以上、企業や公的機関の採用担当の方が来られますが、学生数が限られているので、なかなか希望にお答えできていないのが現状です。学生の傾向として1・2年次では地元志向が強いのですが、早い段階のキャリア教育で東北全域・全国に目を向けさせるようにしています。また、総合建設業だけでなく専門工事業の魅力を伝えることで学生の選択肢を広げることも行っています。ただ、私たちとしては『100%』という数字にこだわってはいけないと考えています。無理に入った就職先ですぐにやめてしまうというのは、学生本人だけでなく、採用した企業にとっても不幸なことだからです。やはり一番は、学生の適正にあった職種・就職先に入ってもらいたいという思いがあります。」
「今年は例年以上に女性の求人が増えているようです。特に行政や大手建設会社は、積極的に女子学生を求めています。一般的に、女性の方が成績優秀な学生が多く、また、『ドボジョ』『けんせつ小町』といった昨今の女性技術者ブームも採用側の積極性を後押ししているかもしれません。」
写真3)森⽥哲夫教授
「学生には様々なプロジェクトに参加させています。文部科学省『地(知)の拠点事業』の中で、地下鉄東西線沿線まちづくり計画の提案や、八木山地区の交通まちづくり計画の提案などを研究・発表することで、社会経験を積み実際に働くことのイメージがついてきます。またそうしたプロジェクトでは、地元のいろんな方々と話したり、意見交換をしたりすることもありますので、社会人として不可欠なコミュニケーション力を身につける絶好の機会にもなります。」
「就職先の希望としては、やはり公務員の人気が高いです。地元に戻ることができるというのも理由のひとつだと思います。大震災後、採用数が大幅に増加しましたが、現在でも減少していません。また企業では鉄道や道路系の会社の人気が高いようです。コンサルタント志望者は今年度少し減少しました。公務員志望に流れたようです。」
「これは東北工大の学生に限ったことではないと思いますが、今の大学生は、プレッシャーやストレスに強くないように思います。あまり強いストレスを与えると、逃げてしまうところがあります。そのへんの加減が難しいところですね。」
「そのような現状もあって、東北工大では、一年次から研究室に7~8人ずつの学生が割り当てられ、学業の進捗はもちろん、学生生活の相談まで、教員が面倒を見るようにしています。生徒個々の学力レベルや適性に合わせた『手取り・足取り』の指導ですから、担当教員も大変です(笑)。」
「現場見学会等の機会を増やしていきたいと思います。話を聞くだけではなく、実際の現場作業をみて、やってみたいと学生が感じることが企業と学生のミスマッチを減らすことに繋がると思います。就職後は企業に育てていただきたいという思いはありますが、私たちとしても卒業生の就職後の状況を確認していくことが必要だと感じています。採用担当の方から『○○君は今、○○の現場で頑張っていますよ』という声は聞くのですが、卒業生は大学に顔を出すことも少ないので、大学側でフォローする仕組みも構築していきたいと考えています。」
「就職実績は受験生にPRしていますし、特に保護者の方には効果が高いと感じています。しかし、最終的には大学で何を学び、卒業後に何をしたいかということが重要だと思います。今年から、受験生には『ドボク』を前面に打ち出したPRを行っています。現在の『都市マネジメント学科』まで名称の変遷はありましたが、『都市+マネジメント=ドボク』であること。陸・海・空・地下・防災等、インフラに関わる様々な仕事をできるのが『ドボク』であることを伝えるため、リーフレットを高等学校等に配付しています。学びたいこと、やりたいことが決まっている学生はやはり意識が高いですね。」
『土木』の名称が残っている大学が少なくなっている中、東北工業大学では、受験生への興味付けから就職まで、社会に具体的に役立つ『土木』を中心にカリキュラムを組んでいると感じました。震災復興も継続しているなか、優秀な地元の若手技術者を数多く輩出してもらいたいと思います。また、研究室での取材中に、就職活動中の女子学生が活動報告・相談に来ていました。先生方の取り組みにより、就職に対する高い意識が学生に浸透しているとも感じました。是非、内定を勝ち取っていただきたいと思います。
あらためて、取材にご協力いただいた東北工業大学のみなさまにお礼申し上げます。
文責:中村正人、前田健二
現場の失敗と対策
コラム
トピックス
2021/03/30
国土交通省では2017年より「i-Construction大賞」を創設し、建設現場の生産性向上を進めるために、優れた取り組みを表彰して広く紹介しています。有効性・先進性・波及性の観点から選考された第4回の...
トピックス
2021/03/30
コンコムを運営している一般財団法人 建設業技術者センターでは、良質な社会資本整備の前提条件である建設技術者の確保・育成に寄与することを目的に、建設技術者及び建設工事の施工管理に関する調査...
Copyright © 2013 一般財団法人 建設業技術者センター All rights reserved.