現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

2) 盛土・軟弱地盤

2020/05/28

腹付け盛土の施工で既設道路盛土にクラックや段差が発生

工事の概要とトラブルの内容

路の拡幅工事で既設の盛土に対して腹付け盛土の施工が行われた。基礎地盤が軟弱であったため、盛土の安定確保と沈下対策として腹付け盛土の下には地盤改良(深さ11m、中層混合処理工法)が実施された(図1)。しかし、拡幅工事完了から半年後に、一部の区間(延長10m程度)で、既設盛土の法肩付近が沈下して路面にクラックが発生し、腹付け盛土との境界付近には最大5cm程度の段差が生じているのが見つかった。(図2)。

図1 道路拡幅工事の標準断面図1 道路拡幅工事の標準断面

図2 腹付け盛土によるトラブルの概要図2 腹付け盛土によるトラブルの概要

原因と対処方法

応急対策として、車の通行に大きな障害が発生しないように、路面の段差やクラックは速やかに補修した。そして、トラブル発生地点の路面は最大で15cm程度沈下していたので、当該区間の動態観測を行って沈下の進行状況を確認することとした。また、設計図面の地盤情報がこの区間から約30m離れた地点のものであったので、トラブルの生じた腹付け盛土の直近で追加のボーリング土質調査も実施した。

調査の結果、当該地点の軟弱層厚は設計図面よりも約3m厚いことが分かり、既設盛土の法面の下の粘性土地盤の残留沈下量が大きくなったことが今回のトラブルの主要因であると判断された(図3)。また、既設盛土は緩速載荷工法+余盛り工法(残留沈下対策)によって施工されていたが、今回は工期の制約などから急速に盛土したことも残留沈下量を大きくした一因であると考えられた。

なお、応急対策から半年後の動態観測結果では、沈下の進行は1cm以内でほぼ収束していたので、沈下の大きかった部分は改めてオーバーレイによって路面を補修し、今後は他の区間と同様に維持管理していくこととした。

図3 腹付け盛土によるトラブルの発生原因(推定イメージ図)図3 腹付け盛土によるトラブルの発生原因(推定イメージ図)

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

既設盛土と腹付け盛土の境界では、すべりが発生しやすく、水みちができて陥没が発生するなど弱点となりやすいので(図4)、調査、設計、施工の各段階で充分に留意する必要がある。

供用中の既設盛土の法面直下は地盤改良を施工することが困難なので、図5に示すような軽量盛土による対策工を検討に加えるのもよいだろう。軽量盛土工法(表1)は一般に材料費などが高くなるが、工期短縮や将来的な維持補修費の低減などが見込まれる場合には、トータルコストの観点からも有効な対策工となり得る。

施工時の基本的な留意事項としては、基礎地盤の強度確保(軟弱地盤対策)の他にも、適切な基盤排水工の設置、良質な盛土材料の使用、薄層締固めによる品質の良い施工などがあげられる。また、重機による十分な締固めを確保し、境界部でのすべりや段差の発生を防止するためにも、既設の盛土のり面を段切りして新しい盛土を施工する必要がある(図6)。 なお、既設盛土の法面部分の腹付け盛土は、完成に近付くほど体積が大きくなって粘性土層に作用する載荷重も大きくなるため、盛土の緩速施工を行うなどの配慮があれば良かったであろう。

図4 腹付け盛土の不安定要因と崩壊例1),2)など図4 腹付け盛土の不安定要因と崩壊例1),2)など

図5 軽量盛土による対策工の例図5 軽量盛土による対策工の例

表1 代表的な軽量盛土工法4)表1 代表的な軽量盛土工法4)

図6 腹付け盛土の一般的な例3)など図6 腹付け盛土の一般的な例3)など

参考文献

1) 公益社団法人日本道路協会:道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版),p.129,平成24年8月

2) 公益社団法人土木学会:土木施工なんでも相談室【土工・掘削編】(2018 年改訂版),p.183,2018年11月

3) 公益社団法人鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理標準・同解説[構造物編]土構造物(盛土・切土),2007年1月

4) 公益社団法人日本道路協会:道路土工-盛土工指針(平成22年度版),p.193,平成22年4月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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