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【コンコム/防災を考える~第二回】3.11後の東京都の防災対策について―東京都における低地河川の防災対策―(2)

【コンコム/防災を考える~第二回】
3.11後の東京都の防災対策について
―東京都における低地河川の防災対策―(2)

2015/05/28

2011年(平成23)3月11日に発生した東日本大震災は、都の河川事業にも大きな影響を与え、特に、耐震・耐水における政策転換の契機となった。M8.2元禄関東地震クラスの将来にわたって最大と考えられる地震動が発生した場合にも、河川施設の機能を保持し津波等に対する浸水を防止することを目標とした耐震対策(レベル2)実施にいたる取組について詳述する。

4.地震・津波対策

図18)耐震対策の整備事業例図18)耐震対策の整備事業例

都は防潮堤・護岸などの河川施設を地震にも耐えられるよう整備を進めてきたが、1995年(平成7)の阪神・淡路大震災を受けて耐震対策が必要な箇所について、緊急的に耐震対策を進めてきた。1997(平成9)年度からは、隅田川をはじめとする外郭堤防の耐震補強を開始、2008(平成20)年度には外郭堤防の耐震補強が完成するなど、一定の安全性を確保してきた(図18)。

(1) 東日本大震災の発生と首都直下地震等による東京の被害想定の見直し
図19)3月11日の津波状況図19)3月11日の津波状況 図20)防潮堤高と津波高図20)防潮堤高と津波高

そのような中、2011年(平成23)3月11日に東日本大震災が発生し、都の河川施設の耐震事業は見直しを迫られることとなる。

3月11日当日の津波の状況については、震度5強の地震発生の14時40分の4分後に水門閉鎖指令(震度5以上で発令される)が出され、亀島川水門、辰巳水門も閉鎖した。建設局・港湾局管轄の全水門の閉鎖完了は15時26分である。津波警報が出たのは16時8分である。津波警報の約40分前には全水門が閉鎖されていた(図19)。

その後、津波の第1波、第2波、最大の第3波が来たのは地震発生から4時間33分後であり、この時の最大潮位時の偏差は亀島川水門で1.6mであった。また、この高さは高潮計画で整備している防潮高を下回っており、溢水被害はなかった(図20)。

(2) 東京都防災会議の被害想定見直し
図21)東京都の新たな被害想定図21)東京都の新たな被害想定

東日本大震災の発生を踏まえ、東京都の新たな被害想定として、首都直下地震等による被害想定の見直しがあった(図21)。地震はこれまでの首都直下地震が「東京湾北部地震」(図22)と「多摩直下地震」として再検証、また新たに海溝型地震が「元禄型関東地震」(図23)として追加、活断層で発生する地震が「立川断層地震」として追加された。この4つをシミュレートして震度や津波等による被害想定をしている。想定被害の特徴として、最大震度7の地域が出るとともに、震度6強の地域が広範囲にわたり、東京湾北部地震では、区部の7割を占める。

図22)首都直下地震の震度分布図22)首都直下地震の震度分布
図23)海溝型地震の震度分布図23)海溝型地震の震度分布
表1)首都直下地震等による東京の被害想定表1)首都直下地震等による東京の被害想定

津波については、東京湾沿岸部では満潮時で最大T.P.(海抜)2.61m。これはA.P.1mを加えて最大で3.7mと想定される。死者は、東京湾北部地震で最大9,700人程度出るとの想定がなされた(表1)。

※T.P.(Tokyo Peil)とは、東京湾平均海面(東京湾中等潮位=いわゆる海抜)を意味している。1873(明治6年)から1879(明治12年)の潮位記録を平均した数値A.P.+1.1344mをT.P.±0.0mと定めたもの。

低地に関係して人的被害が多く出るのは、東京湾北部地震(M7.3)と元禄型関東地震(M8.2)である。低地に関連した東京湾北部地震の震度分布を見ると、区部のほとんどは震度6強。赤が震度7の予測される場所となる。海溝型関東地震の震源域は相模トラフと呼ばれているもので、南に震源があるため、大田区、町田市の一部で震度7が出てくる。南側は震度6強が出る。

品川区のT.P.+2.61m(A.P.3.7m)が最大の津波高である(図24)。これはプレートの沈降分を30〜40cmみているので、満潮時には1.6m程度の津波が来るが、実質の津波は1.2〜1.3mが最大の津波と予想される。中央防災会議や東京都防災会議でも0〜1m、あるいは1.2mと想定されていたので、今回の見直しとほとんど大きな差はない。

今回の見直しで、荒川の放水路や多摩川などは一部で浸水のおそれがあるとみなされている(図25)が、この地域は今すぐに津波の対策は検討されていない。水門が機能することで、大きな被害は生じないと想定される。

  • 図24)津波高想定図図24)津波高想定図
  • 図25)浸水想定図図25)浸水想定図
(3) 最大級の地震への対応

2011年(平成23)3月の東日本大震災の発生や東京都防災会議の被害想定も踏まえ、東部低地帯の300万人の命と暮らしを守るために、学識経験者を含め建設局、港湾、下水道の3局で堤防、水門、排水機場、ポンプ所及び水再生センターなどの耐震補強・津波対策、機械、電気施設などの耐水対策のあり方の検討を進め、2012年(平成24)8月に委員会から提言を受け、それを踏まえた地震・津波に伴う水害対策に関する都の基本方針をとりまとめた。

この基本方針では、東京都防災会議が示した津波高については、これまで同様、高潮高で確保可能であることを確認するとともに、東日本大震災の教訓を踏まえ、最大級の地震が発生した場合においても施設の機能を保持することで津波等による浸水被害の発生を防止していることとした。

図26)東部低地帯の河川施設整備計画図26)東部低地帯の河川施設整備計画

そして、この基本方針を具体化させる新たな耐震・耐水対策事業を盛り込んだ「東部低地帯の河川施設整備計画」を2012年(平成24)12月に策定した(図26)。

2013年(平成25)1月に、都のアクションプログラム2013に位置づけるとともに、2012(平成24)年度から一部工事に着手した。2014年(平成26)12月策定の「東京都長期ビジョン」に安心・安全な都市の実現に向けた政策の柱として位置づけられ、現在、隅田川等の水門や堤防の耐震対策工事を精力的に進めている。

おわりに

東京都の東部低地帯は過去にたびたび大きな水害に見舞われてきたが、治水事業の進展により水害の発生が防止されるようになってきた。しかし、工場や商店・住宅が混在する低層過密地域が多く、地下鉄等の高度利用が発展するなど、災害ポテンシャルは未だに高い。そのため、先の「整備計画」を計画期間内に完了させることが重要である。

また、国においても昨今の日本各地における激甚化する災害の発生を踏まえ、2015年(平成27)1月に「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を公表したところである。

国や東京都へは、自然災害に対する一層の安心・安全の確保に向け、創意工夫を重ね事業推進に全力で取り組んでもらいたい。

≪3.11後の東京都の防災対策について―東京都における低地河川の防災対策―(1)≫
取材協力
資料・画像提供
寄稿

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