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表彰工事

2019/07/30

現道利用者・工事関係者、徹底した安全管理で、幹線道路の真ん中での立体交差を無事故で完成。

回の現場探訪は、平成30年度の国土交通省近畿地方整備局の優良工事等施工者(工事)局長表彰を受けた「国道2号門前地区改良工事」。この工事を受注された株式会社香山組の監理技術者であった山口弘晴さんに、工事の概要や現場を円滑に管理するための取り組みについてお話しを聞きました。

【工事概要】
工事名 国道2号門前地区改良工事
工事概要 道路土工、擁壁工、壁高欄工、遮音壁工、舗装工 等
発注者 国土交通省近畿地方整備局 姫路河川国道事務所
工期 平成28年6月1日~平成29年4月30日
受注者 株式会社 香山組
施工場所 兵庫県たつの市揖保町門前地先~西構地先
請負金額 383,367,600円(税込)
監理技術者 山口 弘晴

Q 今回の工事の概要と目的について簡単にご説明ください。

平面交差である国道2号の門前西交差点を立体交差にする工事で、高架橋アプローチ部の擁壁工事、壁高欄工事、高架橋を含む立体部全域の遮音壁工事、舗装工事、標識工事などを行いました。国道2号は、阪神高速3号神戸線から第二神明道路、加古川バイパス、姫路バイパス、太子龍野バイパスと続いており、バイパスの終点となる門前西交差点付近に慢性的に発生していた渋滞を解消し、追突などの交通事故を防止することを目的としています。前年度にも当社が高架橋の下部工工事を請け負い、私が監理技術者を務めましたが、今回の工事で立体部の供用まで行うことができました。

  • 写真1)立体交差➀ 写真1)立体交差➀
  • 写真2)立体交差➁ 写真2)立体交差➁

Q 今回の工事で特に重視したこと、また注意したことは何でしょうか?

やはり安全管理です。国道2号は九州まで続く西日本の大動脈であるため、交通量も多く、通行止めをせずに工事を行わなければなりませんでした。現道の真ん中での工事であり、第一に工事車両や作業員の交通事故防止に注意しました。具体的には、資材搬入業者との入場時刻の時間調整や、作業員の道路横断を交差点に限定するなど、安全のためのルールを設けました。

また立体部での施工は、現道の数メートル上部であり、交差点上部での作業もあるため、万が一にも落下物があってはいけません。落下防護柵を設置することはもちろんですが、遮音壁の支柱を設置する際などは橋梁点検車を使用し、バスケットを壁高欄に隙間なく接した状態で作業を行いました。
コンクリートの打ち継ぎ目処理においても、高圧洗浄水を使用すると道路に飛散する可能性があるため、洗出し不要の塗布剤「ジョインテックス(KT-070054-VG)」を使用する方法を採用しました。

写真3)交差点上部での作業 写真3)交差点上部での作業

Q 現場は小学校の通学路でもあったそうですね。

工事場所の一部が近隣にある小学校の通学路になっていました。そこで、児童の安全を考え、作業開始前の登校時間帯に交通誘導員と職員で交通誘導を行うようにしました。児童たちからは「おはようございます」「ありがとうございます」と挨拶をされ、朝から元気をもらいました。おかげさまで事故もなく、小学校からは感謝状をいただきました。やはり工事を円滑に進めるには近隣の方とのコミュニケーションも大切です。近隣3地区の自治会には、毎月の工事進捗状況を回覧でお知らせし、自治会長への説明も行いました。

写真4)通学路での交通誘導 写真4)通学路での交通誘導

Q 工期中、想定外のトラブルは発生しましたか?

近隣のそうめん工場から「アスファルト舗装の匂いが付くと、製品が売り物にならない」というお話がありました。工場の方とお話しする中で、日曜・月曜が休業とのことでしたので、舗装工事は日曜・月曜に限定して実施することとしました。作業日数が限定されるうえ、気温5℃以下では橋面舗装のグースアスファルトの施工ができません。供用日が決まっている中、寒い時期(1月)だったので工程調整に苦労しました。

Q 今回の工事では、ICTによる転圧締固め管理システムを使用していますが、効果はいかがでしたか?

GPSでローラーの位置を捕捉し、転圧機械の位置を面的に管理できるので、確実な締固め管理ができるものです。ローラーの運転手が自身の目でモニター画面を確認しながら施工するので、均一な施工ができました。それに加え転圧回数もモニターで確認できるため、盛土の過転圧防止にも有効でした。私自身、ICT施工を活用することは初めてでしたが、とても勉強になりました。効果が高いことも分かったので、その後の現場でも活用しています。

写真5)転圧締固め管理システム 写真5)転圧締固め管理システム

Q プレキャスト製品も一部使用されていますが、その理由は何ですか?

安全面を考慮し、一部「剛性防護柵付き擁壁(ADウォール:CB-130012-A)」を使用しました。現道脇の高所で足場・鉄筋・型枠・コンクリートの施工となると、落下物や材料等の飛散、作業員の墜落などの危険性が高まります。プレキャスト製品を使用し、転落防護措置と吊荷の際の安全管理をしっかりと行うことで、安全な施工をめざしました。また、工期を約1か月短縮することができ、工事の大きな目標であった「立体部の年度内供用」を果たすこともできました。

写真6)剛性防護柵(プレキャスト製品)の据え付け 写真6)剛性防護柵(プレキャスト製品)の据え付け

Q コンクリート工事において、前年度の下部工工事で、近畿地方整備局の「コンクリート構造物品質コンテスト」の特別優秀賞を受賞されています。コンクリート構造物を造る際に心掛けていることは?

「コンクリート構造物品質コンテスト」は、会社も私自身も初めてのチャレンジで、手探り状態で応募しました。受賞に関しては、特別変わったことや新しいことをやったわけではありません。ただ、従来からやってきたことを書面で整理し、関係者全員で打設の勉強会を行いました。それまでは口頭で伝えていたことを、全員が理解して施工できたことは良かったと思っています。コンクリート施工については「ていねいにつくり、やさしくそだてる」をモットーにしていますが、特別優秀賞を受賞したことで、自分自身が取り組んできたことが正しかったのだと安心しました。その後の現場でも継続して、より良いコンクリート構造物を造ることをめざしています。

Q  山口さんが監理技術者として工事を担当する際に日頃心がけていることは?

工事全体のことを考え、「良いものを早く・安く・安全に!」と心がけています。それを達成するためには、関係者全員が一丸となり工事を進めていく必要がありますが、部下や作業員とのコミュニケーションが第一だと思っているので、話しやすい雰囲気を作ることに気を配っています。
当然、現場の責任者としては厳しく言う場面もあり、譲れないものは絶対に譲りませんが、現場のコミュニケーションを活性化することで、言われたことだけやるのではなく、全員が安全や品質などのことを考えて自ら行動するようになってくれることを望んでいます。
また、常に顧客満足度の向上ということも意識して取り組んでいます。公共工事で言えば、発注者の要望を理解し、それに応えることが大事だと思っています。これからもきちんとした施工管理を行い、品質の良い構造物を造っていきたいと思います。

写真7)山口さん(監理技術者) 写真7)山口さん(監理技術者)

Q 現場には、女性技術者の山﨑さんも配属されていました。ご自身の携わった工事が局長表彰を受けての感想と今後の抱負を聞かせてください。

私が入社して2年目で、実質最初に配属になった現場がこの現場でした。たくさんのことを学びながら、忙しく働いたという感じで何かをしたという実感はありません。山口さんは、技術的な知識や経験はもちろんですが、発注者・協力業者の方などとのコミュニケーションがとても上手で、だから現場で起こるさまざまな問題を解決できるのだなと感じました。今回の経験を通じて、山口さんのような技術者になりたいと思いました。
これからもめざしていきたいと思っています。

写真8)山﨑さん 写真8)山﨑さん

Q 山口さんが部下(若手・女性技術者)を指導する際に気を付けていることは?

若手の指導はとても難しいです。特に女性に対しては、男性以上に相談しやすい雰囲気づくりを心掛けています。山﨑さんと一緒の現場を担当するのは4連続となりますが、彼女には私の若い頃からの失敗をほぼ全て話しています。そうすることで、彼女の勉強になるでしょうし、彼女とのコミュニケーションにもなるだろうと思っているからです。もちろん一番勉強になるのは自分自身でやらせてみることですが、負担をかけすぎないようにも注意しています。
しっかり経験を積んでもらって、いつかは私の元を巣立ち、当社初の女性所長として活躍してくれることを願っています。

おわりに

監理技術者の仕事は、工程管理・品質管理・安全管理と様々ありますが、やはり安全、無事故が大前提だと改めて感じました。また、山口さんと山﨑さんがお話しする雰囲気を見て、普段からコミュニケーションをたくさん取っていることが伝わってきました。現場での雰囲気づくりが、工事の安全・品質の向上・工程管理に繋がり、建設業界全体の課題である「担い手確保」「女性活躍」にも繋がっていくのではないでしょうか。

山口さんの元でたくさんのことを学んだ山﨑さんが、技術者として活躍することを願っています。

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