コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2021/07/29

コンクリートの受入れ

「現場の失敗と対策」(コンクリート)では過去にコールドジョイント、豆板(ジャンカ)、クラックなどコンクリートの打込み、養生といった施工管理上の留意点について述べている。ここではコンクリートという材料を、施工管理上どのように扱っているかを紹介する。

■生コンプラントの選定

私の所属するゼネコンでは、生コンの製造プラントは現場単位で選定することはなく、支店の購買部から指定された商社と契約し、商社の指定する生コンの製造プラントに注文する仕組みになっている。

上水道の配水池を築造する工事で、コンクリートの配合は27-12-25BB(呼び強度27N/mm2、スランプ12cm、粗骨材最大寸法25mm、高炉セメントB種)である。商社から生コンプラントとしてA、Bの2ヶ所が指定された。どちらも時間当たり100m3の製造能力を有している。それぞれのプラントで試験練りを行い、それぞれのプラントで用いられている配合で、所定の品質が得られることを確認した。現場までの日中の運搬時間は、プラントAでは30分、プラントBでは50分である。現場としては運搬時間の短いプラントAだけを選んで納入していた。

盆前に、270m3の打込みを予定したが、希望した日はプラントAに大口の予定が入っていたため日程を変えられないかと頼まれた。しかし、その日に打ち込まないと工程上都合が悪かったので、初めてプラントBから受け入れることにした。

■受入れ検査

コンクリートの打込み開始時刻は7時である。1台目の生コン車はモルタル0.5m3だけを運搬している。ポンプ車のホッパ内に降ろしたモルタルは、先送りモルタルとして圧送し、筒先から地上に置いたペール缶に取り出して廃棄する。

一方、2台目の生コン車から生コンをネコに取り、現場受入れ試験として、①スランプ、②空気量、③温度、④塩化物含有量、⑤強度、⑥単位水量を測定する。ご存じのように⑤強度は、その場で測定できるわけではなく、7日強度および28日強度を測定するための供試体を6本作製することである。⑥単位水量は現場における生コン車のドラム内への加水が社会問題となったため、平成21年の国土交通省の通達1)により、1日のコンクリートが100m3を超える打込みの場合、単位水量の測定が義務付けられた。ちなみに当現場では単位水量は土研法と呼ばれるエアメータ法で行っている。これらの受入れ検査は手際よく行っても20分近くかかる。

この間、ポンプ車はブームを上げ、打込み箇所の鉄筋間隔を広げた個所からホースを降ろし、コンクリートを打ち込める状態にした。①~⑤の試験が終わり、試験体を並べ、工事写真を撮り始めたところ、打ち込んで良いと合図したわけではないのに、コーンコーンと2回、ポンプ車のピストンが動いた。

慌てた発注者の監督員から「検査が終わっていないのに、コンクリートを打ち込むことは許されない。すぐ止めるように。」と指示され、すぐに停止させた。まだ⑥の検査が終わっていないのである。コンクリート標準示方書2)によれば、「検査の結果、所定の品質を確保できないと判断されたコンクリートは、これを用いてはならない。」と書かれている。生コンの受入れ検査は施工者の責任において実施するものであり、発注者はその結果を確認することになっているが、今回は初回の受入れ検査時の「立会検査願い」を提出していたため、立会っていた監督員の判断を受け入れた。

特記仕様書により、生コンの受入れ検査は150m3に1回行ない、⑥の単位水量の測定は午前1回、午後1回の合計2回行う。

■スランプロス

プラントで練り混ぜられたコンクリートは生コン車で現場まで運搬される間、輸送時間や気温によってスランプロスが起きる。特に夏季のスランプロスは大きい。コンクリート中の水分の蒸発や、セメントの水和反応が進行することが原因である。

スランプが小さくなるとコンクリートの流動性が低下し、豆板(ジャンカ)の発生や、コールドジョイントの要因になりかねない。目視により、適切なワーカビリティーが得られないと判断した場合、生コン車に加水するのではなく、製造プラントに連絡し、スランプロスを配慮した配合で出荷してもらうと良い。

■伝票のチェック

生コンの受入れにあたり、伝票のチェックも重要である。注文通りの生コンが届けられているか、練り混ぜてから打ち終わるまでの時間が適正かチェックする。コンクリート標準示方書2)によれば、外気温が25℃を超えるとき1.5時間以内を標準としている。

当日の朝の気温は22℃であり、天気は晴れ、ポンプ車1台で打ち込んだ。朝7:00から打込みを開始したが、プラントBの都合で午前中は生コン車が6台しか配車できず、午前中に打ち込む予定の数量は110m3である。午後から他の現場に回っていた生コン車を増やして、17時前には打込みを完了する予定だった。

ところがお昼を過ぎると気温が30℃を超え、その上交通渋滞が発生し生コンの到着が予定より20分遅れてしまった。この待ち時間によりポンプ車の配管が閉塞し、打込みが中断した。順番に配管の継手を外し、詰まり箇所を見つけ復旧するまでさらに20分を要した。

コンクリート打込みに立ち会っていた発注者の監督員から、練混ぜから1.5時間を超えているので、生コン車を返すように指示された。荷卸し時のコンクリートを観ると、シュートを流れる状況が良好なワーカビリティーを有するとは言えず、迷っていると次の生コン車が1.5時間を超えてしまうので、荷卸しの途中であるが持ち帰らすことにした。 まだ3m3は残っていたので約5万円の損失である。なんやかんやあった一日であったが、17時15分に打込みを無事に終了できた。

■ITの活用

スマホの普及により、コンクリートの打込み現場と生コン製造プラントとの連絡が容易になった。以前なら生コン車の無線や電話のあるところまで行って「生コン車はまだか。」「あと〇m3、合計△△m3。」といったやり取りをしていたが、打込み箇所から瞬時に行えるようになった。

スマホのアプリの中には地図上に生コン車の位置情報が明示され、練混ぜ開始時間や現場到着時間、打込み完了時間を入力することで効率よく生コン車の配車に反映させることができるものもある。また、スランプ値や空気量などの受入れ検査のデータを入力することでプラントでは製造管理の参考にできる。

■アドバイス

・受入れ検査の時間を短縮するためには②空気量の試験を実施後、単独で空気量の写真を撮り、①および③~⑤の撮影をしている間に生コンが入ったままのエアメータの質量を測定し、⑥単位水量を計算すると良い。エアメータを2台用意しておいて②と⑥の試験を別々に行なう方法もある。

・暑中コンクリートとして、混和剤に高性能AE減水剤を使用すると減水効果だけでなく、優れたスランプ保持性能を発揮できる。

参考文献
  • 1) 国土交通省大臣官房調査課長:レディーミクストコンクリートの品質確保について,平成15年10月2日,国官技第185号
  • 2) 土木学会:コンクリート標準示方書【施工編】,2017制定

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