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建設つれづれ窓 シビルエンジニアとして活躍する渡辺泰充氏による建設現場でのつれづれエッセイ

第3回 「信用第一」という文化

2016/06/28

45年前、ワタナベ青年が入社した建設会社の社訓は「信用第一」で始まっていたように思う。この会社の創設者は江戸時代の有能な大工である。いい仕事が客の信用を生み、それが評判となり、仕事量(シェア)を増やし、利潤を生み、これを「いい仕事」(=品質確保)に再投資する。わかりやすい経営理念である。

その10数年後、課長研修の場で当時の副社長から「論語と算盤」という言葉を教えられた。明治中期、同社が経営危機に陥った時に再建を託された渋沢栄一の経営哲学であるという。論語すなわち世の中または人々の役に立つことを通じて、算盤すなわち利益を得ることが経営の基本であるという意味である。ワタナベ課長は得心した。

長じて44歳、マサチューセッツ工科大学での短期留学の機会を得た。そこで財政学の教授からこう聞かされる。「企業の最終目的は、株価を最大にすることである」。この時ははっきりと意識した・・・それは日本と違う。今ではわが国でも、アメリカ的経営理念の企業が少なくないようだが、それがいいことかどうか、私にはわからない。

2004年、この会社が二つの現場で続けてコンクリート品質上の大問題を起こした。土木技術の責任者であった私は事態の収拾に没頭した。一段落した頃、社内の技術者たちにこう語りかけた。

「今回の不具合の背景は、コンクリートに対する基本的な『知識』の不足と、いいコンクリートを打とうという『意識』の低下、それに不具合を隠すという『倫理』の問題にある。知識を強化することはシステムで対応できても、意識や倫理の問題は簡単にはゆかない。いかに意識を高め、それを持続させるか。

一つの方策は、トップが言い続けることだ。われわれは何をもって生きてゆくのか?その答えは、「品質」であると言い続けなければならない。適正な品質のものをお納めして、適正な利潤をいただく。これが、200年間変わらない当社の商売だ。利益を落としてまで品質を守るのかという声もあるが、私の答えはYESだ。品質がわれわれの商売の原点であるという当たり前のことに気がつかなくなっているとしたら、それこそわれわれの危機だ。」

このところ、わが国製造業・建設業の不祥事・事故のニュースが後を絶たない。昨年から見ても、免震ゴムのデータ改ざん、杭打設データの改ざん、今年に入って、自動車メーカーの燃費データ不正、工事中の鋼橋の落橋、液状化防止工事のデータねつ造、架設用ベントの倒壊、鋼材メーカーのデータ不正、さらに海外においては、数十基にわたり橋脚の作り直しを命じられるなど、枚挙にいとまがない。

ここでその原因や責任を追及しようという気はさらさらない。ただし、問題を起こした上記企業の多くが二度目(あるいは三度目)の不具合であることは銘記してほしい。再発防止策は意味がなかった、もしくは、トップが再発防止に本気でなかったということではないか。

不具合の芽は身近にもある。前任のベトナム現場では、日系メーカーの総ネジ鉄筋カプラー継手をグラウトなしで使おうとしていた。赴任早々の私は、あわててこれを止めた。請負者もコンサルタントもニッポン企業である。彼らはこのいかがわしさに気づくことなく、メーカーから言われるままに提案・承認していたのだ(このメーカーは再犯である。その前の現場で同じ提案を私に拒否されていた)。この現場の河川内基礎は、わが国オリジナル技術の鋼管矢板井筒基礎である。設計照査の途上、この工法の計算プログラムが、ある条件下では正しい答えを出さないことがわかった。数十年、誰もそのことに気がついていなかったのである。

大丈夫か?ニッポン技術者――この問いに、ちゃんとした答えを出す自信はない。しかし、海外と日本を経験して、一つの思いが私から離れない。それは、そろそろ「信用第一」文化から脱却するときではないかということである。自分の信頼を得るための努力は必要だが、安易に人を信じるなということである。「不祥事を知らなかった」という元請け企業は下請けや部下を、われ関せずの発注者は請負者を、信じすぎてはいないか。「信用第一」の名の下に、チェックするという義務を放棄してはいないか。

日本では、「そんな!人を信じないなんて」と言われるだろう。しかし、ベトナムでは人を信じないのは当たり前である。レストランでは客が勘定書を実に念入りにチェックする。支払ってから間違いに気づいても、それは払った方が悪い。工事現場しかり。すべての出来形は第三者たるコンサルタントがチェックする。したがって、ベトナムで杭長偽装事件は起きない、と私は思う。

「人を信じない」のは、世界の常識・日本の非常識である。海外工事の契約は、人(=請負者)は悪をはたらくという前提で作られている。わが国ゼネコンの海外における失敗の多くは、この文化の違いを認識しなかったせいではないか。契約にない条件下で工夫しながら施工をしても、テキは、それは契約の範囲内だと強弁する。「ちゃんとしたモノを工期内に納めれば、増額しても支払われる」のは、日本だけである。海外では、人を信じないことが身を助ける。

しかし、しかしである。お互いの信頼感があれば物事が実にスムーズにゆくことを、日本人はよく知っている。ベトナムの現場でこういうことがあった。上部工の最終閉合を祝う連結式の日が決められ、それでも残された作業が山ほどあり、もう式典は形だけにしようと考え始めた時、お互いあさってを向いていたワーカーたちが同じ方向を向き始めた。ワタナベさんの指示を信じ、お互いを信じたのである。奇跡的に式典に間に合った。チームが最も力を発揮するのはお互いが信頼し合っている時であることを、彼らも感じてくれたに違いない。

「信用せず、しかる後に信頼する」・・・これを、ニッポン技術者再生の処方箋としたいが、いかがだろうか。

「信用第一」という文化

連結式典の後、作業員たちと最終コンクリート打設

著者プロフィール
渡辺泰充さん

渡辺泰充:1948年生まれ。1971年清水建設(株)入社。2000年土木技術本部長。2010年同社退職。ベトナム・南北高速道路ホーチミン-ゾウザイ間レジデントエンジニア、2014年東京大学大学院社会基盤学専攻特別顧問、2015年ベトナム・ベンルック-ロンタイン高速道路JICA区間プロジェクトマネージャー。同年末退職。

おもな著作:「疑問に答えるコンクリート工事のノウハウ」(共著、近代図書)、「つれづれ窓」(東京図書出版会)、「サイゴンつれづれ窓」(「橋梁と基礎」連載)、「土木工学実践講座」(非売品、東京大学コンクリート研究室)

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