現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他)

2023/10/02

コンクリートの品質向上のための教育(ブリーディング水の除去)

工事の概要とトラブルの内容

1月初旬、日中の気温が10℃以下の日に、道路橋橋脚のコンクリートの打込み時のことである。15時過ぎ、ミキサー車が到着する間隔が長くなっていた。打込み予定の数量が終わりに近づき、配車の台数が少なくなったようである。足場を上り、30分くらい前に打ち込んだ型枠の内部を覗いたところ壁の中央部にブリーディング水が浮いて溜まっていた(図1)。3,4リットルであろうか、ひさびさの状況である。職長にブリーディング水の除去を指示し、職長がひしゃくとバケツを取りに行くのに同行した。今シーズン初めてのことであり、探すのに手間取った。

戻ってみると、ブリーディング水の除去を指示した箇所に、新たにコンクリートが打ち込まれていた。作業員に「ブリーディング水は取ったのか?」とたずねたところ、「下の層のコンクリートと新しく打ち込んだコンクリートをバイブレータで十分、練り混ぜたから大丈夫ですよ。」と返事が返ってきた。「バイブレータは締固めの手段であり、練り混ぜるためのものではない。」と言いかけたが、後の祭りである。

1週間後、壁の型枠を外したところ、コンクリートは打継ぎ目から40cm程度の幅で黒ずんで変色していた。(写真)

図1 ブリーディング水が溜まっている状況図1 ブリーディング水が溜まっている状況

写真 色むら(図1とは異なる現場)写真 色むら(図1とは異なる現場)

原因と対処方法

原因はコンクリート標準示方書に「コンクリートの打込み中、表面に集まったブリーディング水は適当な方法で取り除いてからコンクリートを打ち込まなければならない。」1)と書かれているがこれを実施しなかったためである。同解説によれば「打上がり面近くにぜい弱な層を形成するおそれがあるため、スポンジやひしゃく、小型水中ポンプ等により適切に除去する必要がある。」とのことである。

コンクリートの打込み箇所の周囲には、保温養生のためのブルーシート、ジェットヒータが準備されていたが、バケツとひしゃくといった、ブリーディング水を除去するための道具は用意されていなかった。要するに、除去するほどのブリーディング水の発生を予知していなかったということである。

年が明け、外気温が低下し、セメントの水和が遅延することでブリーディング量は多くなった2)。そしてブリーディング水と打ち継いだコンクリートを混ぜることで、配合の異なる(単位水量が大きい)コンクリートになってしまった。さらに過剰な振動締固めを行ったため、コンクリートの材料が分離したことから黒ずんだ色むらができた。

脱型から時間がたつにつれ色むらは白っぽくなったこと、美観は悪いが、コンクリートテストハンマによる圧縮強度を測定した結果、所定の強度に達していたことから、特に補修は行わなかった。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

コンクリート施工に関する作業員の教育はどのように行われているのだろうか。大手のゼネコンでは下請けの職長クラスの作業員に対して泊りがけで講習を行っている事例もある。しかし、多数の作業員は講習を受けることは無いが、現場で職長やゼネコンの監督員から繰り返し指摘されるポイントをしっかり身に着けている。いわばOJTの成果である。「コンクリートの圧送ホースはこまめに移動し、一箇所で生コンを山のようにしてはいけない。」「バイブレータによる生コンの横流しはいけない。」「鉄筋の込み入っている箇所はバイブレータで十分締め固める。」「バイブレータの掛け過ぎは良くない。」「コンクリートの1層当たりの打込み高さは50cm~60cm程度(構造物のサイズによる。)」「1層ごとの打継ぎ面は、できるだけ水平にする。」等々、言われなくても実行している。

ただ、これらはどこの現場にも共通の留意点であり、季節・気温によって注意すべき事項、ハンチ部や止水板の下に空気あばたができないようにする打ち込み方など構造物の形状による注意事項、降雨・強風時の注意点、圧送ポンプ車の台数による打込み範囲など現場個別の留意点もある。これらをどのように伝達したらよいかを提案する。

コンクリート打込みの当日は、打ち込み作業員に対して安全をメインとした朝礼を行わずに、打ち込みの作業体制に入っていることが多い。作業にかかる前に10分~15分、コンクリートの受入れ検査をしている時間などにコンクリートポンプ車のオペレータを含めて朝礼を行い、そこでコンクリートの打込み順序、安全面での注意事項を再確認し、コンクリートの品質面でのKYを実施することを提案する。

品質面でのKYとは「作業上の安全にかかわる問題」ではなく、「美観、耐久性の欠陥になりうる問題」など品質管理上の問題を事前に予測し留意点を確認する作業である。
ただ、作業員がどこまで気づけるかは多くを期待できない。今回のブリーディングを作業員が予知できたかというと難しかったかもしれない。現場の職員ですら指示していないのである。

まず職員が常日頃問題点を探し、そこに誘導する必要がある。ここ数回のコンクリートの打込みで、どのようなことがあったか、本日の気象条件からどのようなことが予想できるかなどである。
作業員も脱型後のコンクリートを観るようになり「なぜコールドジョイントができたのか」、「なぜあばたができたのか」「なぜクラックが発生したのか」など考える習慣が付き長い目で見ると、現場全体のコンクリートの品質が向上するようになる。
ぜひ、現場でお試しください。

参考文献

1) 土木学会:2017年制定コンクリート標準示方書[施工編:施工標準]、p118、7.4.2

2) 十河茂幸ほか:構造物の耐久性向上のためのブリーディング制御,コンクリート工学,vol.55,No.11,2017.11

関連記事

2022/12/01 コンクリートのブリーディングによる品質低下を回避するために https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol41.html

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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