「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2022/12/01
ブリーディングは、JIS A 0203によると「フレッシュコンクリート及びフレッシュモルタルにおいて、固体材料の沈降又は分離によって、練混ぜ水の一部が遊離して上昇する現象」とされている。一般によく使用される普通コンクリートでは、ブリーディングは当然ながら発生する。それは、コンクリートが主にセメント(混和材を含む)、骨材、水で構成され、この中で水の密度が最も小さく、セメントの凝結が進むまでは、水は密度差によって上昇しやすいためである(図-1)。
図-1 ブリーディングの概念図1)
(内部ブリーディング水とは、ブリーディングにより上昇する自由水の一部で、コンクリートの上面まで到達しなかった水のことであり、上面に到達したブリーディング水とは区別している。)
施工者の立場からは、ブリーディングが多過ぎても困るし、少な過ぎても困るものである。ブリーディングが多過ぎると、コンクリートの打込み中にブリーディング水(浮き水)の処理が必要になるし、型枠面に砂すじが生じて見栄えが悪くなる。また、コンクリートの水密性や鉄筋との付着性の低下、上部のコンクリートの品質(強度など)の低下など、構造物の性能にいろいろと影響を及ぼす1)。一方で、ブリーディング水が少な過ぎると、表面の均し作業が難しくなるし、表面が乾燥しやすいので打重ねの際の一体性も低下しやすくなる。
写真-1は、土木構造物の壁コンクリートの打込み中に表面に集まったブリーディング水の一例で、筆者が施工に立ち会った際に直面した現場であるが、たまった水の深さは平均で5cm程度はあったように記憶している。使用したのは、27-8-25BBの普通コンクリートであった。このときは、配筋が密ではなかったのでバケツとひしゃくを使って回収した後にスポンジで吸い取る対処をしたが、完全に除去することは難しかった。また、型枠面には砂すじが生じ、表面はざらついて、見栄えの良くない構造物になってしまった。
これくらい多くのブリーディング水が発生すると、配筋が密な場所ではひしゃくが届かないことや、広い面積のスラブ等では表面の凹凸にたまった水を除去し損なうようなことも考えられる。コンクリートの打込み中にあまりに長時間の中断をすることも難しく、かなり難しい対処を迫られることになる。
このような事例はそれほど頻繁に起こることではないとは思われるが、起きてしまったときに適切な対処ができなかった場合には大きな不具合に繋がりかねないため、滅多に起きないことだとしても無視してよいとも思えない。また、これ程ではなくても、砂すじの発生したコンクリート構造物は多く見かける。多くのブリーディング水が発生してしまったら前述のように除去するしかないが、図-1に示した内部ブリーディング水を除去できる訳ではなく、内部に欠陥が残ることにもなるため、できることならこのような状態にならないように、コンクリートの配合選定の段階で回避する方法を考えたいものである。
土木学会の2017年制定 コンクリート標準示方書[施工編:施工標準]では、コンクリートのブリーディング量に関する規定はなく、「使用材料や配合条件によってはブリーディングが過大となる場合があるので、適度なブリーディング性状となるように細骨材率や単位粉体量等を修正することが望ましい」との記述があるのみである。適度なブリーディング性状とはどんな状態か、明確には示されていない。また、「コンクリートの打込み中、表面に集まったブリーディング水は、適当な方法で取り除いてからコンクリートを打ち込まなければならない」とあり、スポンジやひしゃく、小型水中ポンプ等により適切に除去する必要があると書かれている。このように、一般的な土木構造物の場合、ブリーディングへの対応は施工者に任せられているのが実態である。
建築の分野でも、日本建築学会の建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2018で、フレッシュコンクリートは「過大なブリーディング」が生じにくいワーカビリティを有するものでなければならない、と記述されるに留まっている。しかし、とくにブリーディングによる影響が懸念される鋼管充填コンクリートや水密コンクリート、凍結融解作用を受けるコンクリートについては、ブリーディング量の上限値が規定されている。
・鋼管充填コンクリート:0.1cm3/cm2
・水密コンクリート:0.3cm3/cm2
・凍結融解作用を受けるコンクリート:0.3cm3/cm2
このブリーディング量は、JIS A 1123(コンクリートのブリーディング試験方法)により求めるもので、円筒状の試験容器(内径250mm×高さ285mm)に試料を詰めて、上面に浸み出た水容積の総量を試料の面積で除した値である。0.3cm3/cm2のブリーディング量は、試料上面に3mmのブリーディング水がたまった状態とほぼ同じと考えられる。ただし、試験容器の高さなど通常の現場条件とは異なる条件での要素試験であり、現場におけるブリーディング水の発生量を予測できる訳ではないことに注意が必要である。
ここで、日本コンクリート工学会の「構造物の耐久性向上のためのブリーディング制御に関する研究委員会」報告書1)では、ブリーディングに関する目標値(上限値)設定の考え方について考察している。外観、強度特性、収縮特性、物質移動抵抗性、凍結融解抵抗性の各観点から目標値をどのように考えるべきか検討がなされているが、現状では、ブリーディングが各特性に及ぼす影響についての十分な知見がないことなどにより、目標値についての明確な見解は示されていない。しかし、データの蓄積や現象の解明を進めることの重要性は指摘されており、また、そのためにブリーディング簡易試験方法(試案)も提案された。
このように、ブリーディング量の目標値(上限値)は、建築構造物の限定された条件において求められるだけであり、土木構造物においてこれが求められることは通常はない。また、JIS A 1123のブリーディング試験は、かなりの労力を要する試験方法である(容器と試料で約40kgと重く、測定に数時間かかる)。したがって、もし土木工事において品質管理のために実施するとすれば試験練り(配合選定)の際に行うのが現実的であるが、実際にはブリーディング試験が行われることはほぼないのが実態と思われる。
図-2は、上述の研究委員会の成果1)の一部で、コンクリートの実務者向けのアンケート結果に基づき、ブリーディングの大小の印象を数値化してマッピングしたものである2)。これによると、ブリーディング量は、スランプ15cm以上で呼び強度24以下の場合に過多・過大になるとの印象があると評価されている。一般的にはこのような印象で間違いはないと思われる。しかし、写真-1に示した事例(スランプ8cm、呼び強度27)のように、通常ならブリーディングの心配をしなくて良さそうなコンクリートでも、多くのブリーディングが発生してしまうことがあるのも事実である。
そこで、以下は筆者の私見ではあるが、ブリーディング過多による構造物の不具合をなるべく回避するために、施工計画や施工の段階で以下の点に注意した方がよいと考えている。
・使用するコンクリートの配合に関わらず、施工場所の近隣ですでに施工された構造物のコンクリートの表面の状態(砂すじやざらつきの程度、型枠の継ぎ目からの漏水跡など)を確認する。
・上記の確認で気になる点があれば、生コン工場やその地域での施工経験の豊富な施工会社に、その地域の同種工事においてブリーディングによる不具合が発生したことがないかをヒアリングする。
・上記の状況や使用するコンクリートの配合条件によりブリーディングが懸念される場合には、試験練りの際にブリーディング試験を行い、状況を把握しておくことが望ましい(ブリーディング量0.3cm3/cm2程度を目安に、リスクの程度を把握しておく)。前述のブリーディング簡易試験方法(試案)を参考にするのもよい。
・ブリーディング量が多い場合には、配合(細骨材率や単位粉体量)の修正のほか、ブリーディングを抑制できる混和剤(抑制機能を持つAE減水剤3),4)や凝結促進剤など)の使用も検討し、ブリーディング量を抑制する。
・上記を踏まえ、ブリーディングが多く発生した場合の適切な処理方法(バケツや小型水中ポンプ、ひしゃくなど)を準備しておき、コンクリートの打込み作業工程も余裕のある計画としておく。
コンクリートのブリーディングが多いと、見栄えが悪くなるという印象が一番先に立つが、実は目に見えない欠陥や性能低下がコンクリート中に残ってしまうことが気になるところである。現状ではその影響程度が明確でなく、難しい課題であり、学会等での様々な取組みに期待するところであるが、我々実務者もできることには注意を払いたいものである。
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