「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2018/02/27
ふとんかごは、斜面の災害復旧、護岸・水制、堤防のり尻排水工等に広く用いられ、なじみ深い工法です。施工経験のある方も多いと思います。ふとんかごはもともと蛇籠(じゃかご)と呼ばれて、古くから土木工事に用いられてきました。ここではまず、その歴史を以下に簡単に示します。詳しくは文献1)および日本じゃかご協会HP2)にありますので、興味のある方はご参照ください。
蛇篭は、古代中国において紀元前三世紀頃(戦国時代)に四川省の都江堰の築造に用いられたことが起源であるといわれています。竹で編んだ細長い円筒形状の容器に、石を詰めたものでした(イメージ写真1)。「へび」のように細長い形状から蛇籠と呼ばれたようです。蛇籠が生まれた背景には、長江の上流にあった四川省は、竹の産地であり、かごの中に詰める河床材料も豊富にあったことが関係しています。その他にも歴史的には、2000年以上前の古代エジプトのナイル川の護岸工事でも、柳を編んで作った円筒状のかごに小石をつめて使われたといわれています。地域や素材は違えども、同じ発想で古代に護岸工事を行っていたことは興味深いことです。なお、蛇籠は海外では「gabion」と呼ばれ、広く普及しています。諸説ありますが、その語源は、イタリア語の「gabbione」とされており、大きなかご(big cage)を意味するようです3)。
さて、蛇籠が中国から日本に伝わってきたのは、西暦400~600年頃とされており、古事記にその記述が認められます。日本伝来後、治水工事に用いられ、特に江戸時代に入ると河川改修や災害復旧工事に蛇籠が多用されるようになりました。
蛇籠の大きな変革は、明治後期に起こりました。1908年に亜鉛メッキ鉄線が使われるようになり、さらに1911年には蛇籠製造機が開発されて、耐久性と生産性が飛躍的に向上しました。なお、イタリアでも同時期(1894年)に亜鉛メッキした鉄線による蛇籠製造法が開発されていました3)。なおタイトルにある「ふとんかご」ですが、鉄線で作られた「角型の蛇籠」(図1)のことをふとんかごと呼んでいるようです。ただし、いつごろ、だれがそう呼び出したかについての記述は見つけることができませんでした。もしご存知の方は、ご一報いただければ幸いです。
その後、戦後復興を進めるために、1953年には建設省が蛇籠の基準を制定し、1954年には日本工業規格(JIS)も制定され、それまで以上に品質が向上して、より一般的な工法として普及が加速しました。一方で、鉄線の耐用年数や伝統工法とのイメージから、どうしても災害復旧等に用いられる暫定的な工法として扱われてきた側面もありました。
しかし、近年の気候変動による自然災害の増加から、透水性、変形追随能力に優れた蛇籠の特性を最大限発揮するように技術開発が進み、耐久性と強度に優れたふとんかごが実用化されました。具体例を以下に示します。河川工事では本設工法で「鉄線籠型護岸」として数多く使われています。耐久性向上のために鉄線に亜鉛アルミメッキを施したり、滑りにくくするための粗面処理(亜鉛+アルミ+マグネシウム)を施したものまで登場しています。加えて覆土や樹木を残して施工することで環境保全の観点にも配慮しています(写真2)。また、抗土圧構造物としても用いられるようになってきました4),5)。ふとんかご擁壁の例を写真3に示します。地震により崩壊した谷埋め盛土の復旧に多段積の大型ふとんかごが擁壁として施工されました。この擁壁は東日本大震災にも耐えて無被害でした。これは盛土内の地下水低下効果に加えて、耐震性も備えていた証といえるでしょう。また、ふとんかごと補強材を併用した複合構造の補強土壁5)も開発されています。具体的にはふとんかごを壁面材として利用し、背後地盤にジオシンセティックスを敷設した構造です。この工法は、インドの豪雨地帯に建設された空港の高盛土(高さ数10メートル)に適用された実績があります。なお、最近、日本でも谷部の腹付け盛土として施工されています(写真4)。
ふとんかごは古い、補助的な工法とのイメージを持たれている方は、これを機に、その良さを見直してみてはいかがでしょうか。
1)石崎正和:蛇籠に関する歴史的考察,第7回日本土木史研究発表会論文集,pp.253-258, 1987.
2) 日本じゃかご協会HP http://jakago.jp
3) Michelle Neermal, The use of gabions in hydraulic applications, Civil Engineering, saice, pp.37-39, June, 2012.
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