コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2025/08/01

酷暑でのコンクリート工事は避けられない!
~地球温暖化による施工リスク増大への対応~

■地球温暖化の進行

産業革命以来、化石燃料をもとにしたエネルギーの使用によって地球温暖化が進んでいると言われ、とくに2023年と2024年は2年連続で世界の年平均気温が過去最高を更新し、「地球沸騰の時代」とまで言われている。

我が国では、近年の台風の大型化や、ゲリラ豪雨と呼ばれる局地的かつ急激な大雨、線状降水帯による長時間の大雨などが多発し、これらの異常気象によって大きな被害が出ている。そして、地球温暖化とこれらの異常気象には関係があると言われている。

また、全国(13地点平均)の猛暑日(日最高気温35℃以上)の年間日数は増加しており、図-1のように、直近30年間(1995~2024年)の猛暑日の平均年間日数は統計期間の最初の30年間(1910~1939年)の平均年間日数と比べて約3.9倍に増加している。さらに、図-2のように、地球温暖化が最も進んだ場合には、真夏日(日最高気温30℃以上)の日数が今世紀末には全国で大幅に増えることが予測されている。

このように、今後は、夏場の長期にわたる酷暑、多くの異常気象が発生する中で、我々は生活し、仕事をしなければならない状況に置かれている。そして、コンクリート工事についても、このような環境により施工リスクが増大する中で実施しなければならなくなる場合が増えることを肝に銘じ、技術者としての準備をしなければならない。

図-1 全国(13地点平均)の日最高気温35℃以上(猛暑日)の年間日数の経年変化

図-1 全国(13地点平均)の日最高気温35℃以上(猛暑日)の年間日数の経年変化1)

図-2 2100年末における真夏日の年間日数予測

図-2 2100年末における真夏日の年間日数予測2)

■土木学会 コンクリート標準示方書[施工編]における規定

コンクリート工事では、暑中コンクリートは「日平均気温が25℃を超える時期に施工されるコンクリート」とされ、長らく特殊な条件でのコンクリート施工として扱われてきたが、これは我が国ではすでに標準的な(標準的に対処すべき)コンクリートと言ってよいかも知れない。ご承知の通り、“これまでの”暑中コンクリートでは、打込み時のコンクリート温度の上限は35℃とされている。

これに対し、2023年制定の土木学会コンクリート標準示方書[施工編](以下、示方書)では、「目的別コンクリート」の一つとして新たに「35℃を超える暑中コンクリート」の章が設けられ、打込み時のコンクリート温度が35℃を超える暑中コンクリートについての規定が示された3)

つまり、打込み温度が35~38℃という酷暑においても、コンクリートの流動性が長時間保持され、凝結時間も遅延できる混和剤を用いることで、打込みを行ってもよいことが示されたことになる。

■土木学会 暑中コンクリートの計画・設計・施工指針(案)における記載

同じく土木学会から2025年2月に発刊された、コンクリートライブラリー167 暑中コンクリートの計画・設計・施工指針(案)(以下、暑中コンクリート指針)では、暑中コンクリートの計画・設計・施工の考え方や具体的手段についてまとめられている4)

この暑中コンクリート指針は、日平均気温が25℃を超え、かつ、打込み時のコンクリート温度が38℃以下の暑中コンクリートを対象としている。また、暑中コンクリートの施工にあたっては、品質確保はもちろんのこと、作業者の作業環境に十分に留意して施工計画を立案しなければならないことが示されている。

■暑中コンクリートの作業環境に関する留意点4)

暑中コンクリート指針に記載の図-3に示した施工計画のフローには、日平均気温が25℃を超えると想定される場合には打込み時期の見直しを検討することや、見直しが難しい場合には、打込み時期のWBGT値(暑さ指数:熱中症を予防することを目的に規定された作業環境を表す指標)と打込み時のコンクリート温度を予測し、WBGT値に応じた作業環境の整備・改善およびコンクリート温度に応じたコンクリートの選定を行うことが示されている。なお、WBGTはWet Bulb Globe Temperatureの略で、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標であり、単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なるので注意が必要である。

図-3 施工計画のフロー

図-3 施工計画のフロー4)

施工時期のWBGT値が31℃以上になると想定された場合には、コンクリート工事を行わないことが標準とされている。また、WBGT値が31℃未満の場合はその値に応じて熱中症を予防するための作業環境の整備・改善を行うものとし、WBGT値が26℃以上になると想定された場合には、作業場所のWBGT値の低減、作業者の体温の低減、休憩場所の整備、作業者の健康状態の管理などの対策を講じる必要がある(図-4)。

図-4 熱中症予防対策の例(左:日除けの設置、中:空調服の着用、右:休憩場所の設置)

図-4 熱中症予防対策の例(左:日除けの設置、中:空調服の着用、右:休憩場所の設置)4)

■暑中コンクリートの品質確保に関する留意点3),4)

示方書には、従来の暑中コンクリートに関する規定に加えて、打込み時のコンクリート温度が35℃を超える可能性がある場合は、流動性を長時間保持でき、凝結を遅延できる混和剤(後述する暑中対策用混和剤)を用いたコンクリートを用いることが規定されている。また、打込みに関しては、打込み時のコンクリート温度は38℃以下、コンクリートの練混ぜから打終わりまでの時間は1.5時間以内、許容打重ね時間間隔は2.0時間と規定されている。

さらに、暑中コンクリート指針では、暑中対策を講じたコンクリートに関しては、打込み時に所定の流動性を確保したうえで、練上がりから打重ね可能な時間を3.5時間以上確保できるものを選定することが原則とされた。暑中対策を講じたコンクリートの種類を表-1に示す。ここで「標準」とされているコンクリートは、これまでの実績等により前記の条件を満足することが確認されているが、「使用可」とされているコンクリートは、試験や実績等によりこの条件を満足することを確認しておく必要がある。また、暑中対策を講じたコンクリートの種類によらず、練上がりから打終わりまでの時間の限度は1.5時間、許容打重ね時間間隔は2.0時間が標準とされており、これらは前述の示方書に規定されている内容と同じである。

また、コンクリート温度に応じたコンクリート種類の選定に関しては、表-1において、(1)日平均気温が25℃を超えることが想定される場合には、暑中対策用混和剤を用いたコンクリートもしくは締固めを必要とする高流動コンクリートを用いることを標準とすること、(2)打込み時のコンクリート温度が35℃を超えるおそれがある場合には、暑中対策用混和剤を用いたコンクリートを用いることを標準とすること、(3)打込み時のコンクリート温度が35℃を超えるおそれがある場合には、レディーミクストコンクリート工場等の夏期の修正標準配合のコンクリートは用いないことを標準とすること、が示されている。

なお、暑中対策用混和剤とは、暑中環境においてもコンクリートの流動性が長時間保持され、凝結時間も遅延できる混和剤であり、土木学会規準JSCE-D 504「暑中環境下におけるコンクリートのスランプの経時変化・凝結特性に関する混和剤の試験方法」の試験を行ったときに、表-2に示す基準を満足するものとしている。また、夏期の修正標準配合とは、暑中コンクリート対策としてレディーミクストコンクリート工場等が夏期に設定している修正標準配合のことで、コンクリートの所要の品質を確保するために、標準配合から単位セメント量や単位水量などを調整した配合のことである。

表-1 暑中対策を講じたコンクリートの種類4)

表-1 暑中対策を講じたコンクリートの種類

表-2 暑中対策用混和剤に求める基準(試験時の室内温度:36±2℃)4)

表-2 暑中対策用混和剤に求める基準(試験時の室内温度:36±2℃)

このほか、暑中コンクリート指針には、施工における運搬、打込み、締固め、仕上げ、養生といった一連の作業について、詳細かつ具体的な留意事項や対策事例が紹介されているので、ぜひ参照されたい。

■さいごに

本稿では、土木学会の示方書と暑中コンクリート指針から、暑中コンクリートの作業環境と品質確保に関する留意点について紹介した。

2025年6月1日から改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が強化されている。具体的には、「WBGT28℃以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施」することが見込まれる作業を対象とし、「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務付けられている。

また、暑中コンクリート指針に記載されているような「作業者の作業環境」に十分に留意した施工計画の立案・実施とともに、酷暑環境において施工するコンクリートの品質確保のための施工計画、品質管理および施工管理を適切に行うことが求められる。

このように、暑中でのコンクリート工事を適切に実施するための法令の理解、知見の習得および現場での実践が我々技術者に求められており、良質なコンクリート構造物を構築していくためには避けて通れないものである。

参考文献
  • 1) 気象庁HP:各種データ・資料、気候変動ポータル、全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数、https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
  • 2) 全国地球温暖化防止活動推進センターHP:使える素材集、6-06 2100年末における真夏日の年間日数予測、https://www.jccca.org/download/13196
  • 3) 土木学会:2023年制定 コンクリート標準示方書[施工編]、[施工編:目的別コンクリート]、7章 35℃を超える暑中コンクリート、pp.266-270、2023年9月
  • 4) 土木学会:コンクリートライブラリー167 暑中コンクリートの計画・設計・施工指針(案)、2025年2月

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