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ICTの現場

2024/07/01

令和3年度 道改交金第139-3 長井古座線道路改良工事 小規模工事へのICT土工の全面適用

回の現場探訪(ICTの現場)は、令和5年度国土交通省「インフラDX大賞」の優秀賞を受賞した「令和3年度 道改交金第139-3 長井古座線道路改良工事」です。

この工事は、小規模工事においてもICT施工が生産性向上に有効なことを示した好事例として評価されました。この工事を施工された株式会社小森組(本社:和歌山県東牟婁郡串本町)に伺って当工事におけるICT活用の効果や内製化のご苦労等をお聞きしました。

工事概要 施工延長 46.6m   幅員 7.0m(有効幅員 5.4m)
掘削(土砂・軟岩)             V= 134m3
掘削(ICT)                V= 171m3
プレキャスト擁壁工(H= 1.25m~4.0m L= 29m
重力式擁壁工              V= 17m3
法面工(張りコンクリート)        A= 47m3
発注者 和歌山県東牟婁振興局串本建設部
工期 令和4年6月14日~令和4年12月25日
受注者 株式会社小森組
施工場所 和歌山県東牟婁郡串本町
請負金額 20,160,800円(税込・最終)
写真1) 嶋本竜士さん

写真1) 嶋本竜士さん

最初に、当工事の3次元設計データの作成などに携わった嶋本竜士さん(土木部インフラDX推進室主任)にICT活用の経緯・状況などについてお聞きしました。(専務取締役の小森脩平さん同席)

Q 今回の工事の概要(目的) について簡単にご説明ください。

嶋本さん:工事を実施した県道234号長井古座線は、東牟婁郡那智勝浦町から同郡串本町に至る一般県道で、主に山間部を走る道路です。

図1) 位置図<br>(国土地理院地図をもとに作成)

図1) 位置図
(国土地理院地図をもとに作成)

この工事は、串本町の山間部において大型L型擁壁の据え付けをメインとして道路を造るもので、線形や縦断勾配が厳しいため、通常の施工方法では現場管理に人手がかかる内容の工事でした。
このため、施工延長が46.6mという小規模な工事ではありますが、ICTを可能な限り活用して現場管理の人手を減らすこととし、「3次元起工測量」「3次元設計データの作成」「MC(マシンコントロール)建機によるICT施工」「3次元出来形測量」「データの納品」までを、すべて外注することなく工事を完成させたものです。なかでも全ての掘削(土砂・軟岩も含めて)にMC建機を使用し、生産性の向上を図ることができたことが大きな特長です。

Q ICTを全面的に活用されていますが、ICT活用に取り組んだきっかけを教えてください。

小森さん:この部分については、私から説明させて頂きます。建設業の課題とされている「人手が足りない、建設投資もピークから激減している、機械化は進んだけれども生産性は上がらない」という三重苦の中で、特に地方では人口が減っていくスピードが早く、間違いなく真っ先に壊滅していく、という強い危機感がありました。この課題を解決するため、当社は生産性向上と人材育成に取り組み、そのために「今までのように外注するのではなく、「i-construction」を社内で標準化させなければいけない」ということで、令和4年(2022年)から内製化に取り組み始めたというところです。

図2) 施工に必要な時間(イメージ)

図2) 施工に必要な時間(イメージ)

そこで「i-construction」によりどういう部分の生産性を向上させられるかを考えたのですが、工事に要する時間の中で大きなウエイトを占めているのが、①施工前の設計図面の照査、②施工中や施工後の測量、③施工そのもの、という3つのコア業務であり、これらにかかる時間を圧縮できれば生産性が上がるんじゃないか、ということから、取り組みを進めてきています。まず設計図面の照査については、2次元の図面から3次元データに変えることで、施工内容が相当わかりやすくなりました。

図3) 3次元設計データ

図3) 3次元設計データ

2番目の測量については、ドローンやレーザースキャナーを使って測量することで、瞬時に正確に、スピーディーに、点群データとして測量データを保存できるようになりました。なお、ドローンなどを使うもう一つのいいところは、飛行ボタンを押すだけで測量してくれるので、操作を行う者に測量の知識がそれほどなくてもできることです。この人しかできない、あの人しかできない、ということではなく、誰でも簡単にできることが、生産性の向上を図っていく上でとても大事なことだと思います。

写真2) ICT建機のディスプレイ画面

写真2) ICT建機のディスプレイ画面

なお、ICT活用を進めていくことに確信を持てたのは、平成29年(2017年)に、初めて実際にICT建機をレンタルして使用した時です。3次元設計データをICT建機にセットしたのですが、現場監督がまだデータへの信頼が無く、念のため従来通りに丁張をかけていましたが、切土を2段ほど切っただけで、「これはいい。これからはこれしかない。」と嬉しそうな顔で言ってくれました。現場では、いいものを使えば「いいものだ」と認識してもらえます。「ICT建機を使うメリットは大きい」と現場目線で即座に反応があったことで、「会社としてICT活用を推進していく」方向性は間違っていないと確認しました。その瞬間のことは今でも忘れられません。

Q ICT活用を進めるには内製化が大事なポイントと言われていますが、内製化を実施できている会社は少ないと思います。内製化を進めるうえで工夫した点はどのようなことでしょうか。

小森さん:平成29年(2017年)にICT活用工事として初めて実施した時から5年ほどは、全て外注でした。オペレーターだけではなく、現場監督も「負担が減る」といって喜んでいましたが、なにせお金がかかるということがあったので、ICT活用工事を受注した時だけ実施していたのですが、実際に内製化している会社様に見学に行ったことで、内製化への自信を持てるようになり、内製化して可能な限り活用し、標準化させたいということになりました。内製化すると生産性も向上しますが、一番良いところは「ICT施工のノウハウを身につけることができる」ということです。「i-construction」は、3次元データを作成することにより、そのデータをもとにいろんな技術が活用できるようになるので、外注してしまうとそのノウハウが自社に蓄積されず、それでは「i-construction」の本来の意図とちょっと逆なのではないか、と感じていました。たとえ小規模な工事であっても、内製化していると規模に関係なく使えるので、痒いところにも手が届くというか、そういったところも内製化の大きなメリットではないでしょうか。ただ初期投資はかかりますので、経営者が判断し、トップダウンで取り組んでいくことが不可欠だと感じています。
内製化を進めるために、当社では3次元設計データを取り扱う専任の技術者を置き、データを作成して渡す側と、データを受け取って使う側とに分けることで、分業してお互いが得意分野で力を発揮できるような体制をとったことが、内製化が結構早く浸透した要因ではないかと思っています。その専任になったのが当社のインフラDX推進室の嶋本さんです。

嶋本さん:それまでは現場で施工監督をしていたのですが、専務からいきなり「これからは現場を見なくてよいので、専任で取り組んでくれ」といわれて、「えーっ!」と思ったことを今でも覚えています(笑)。実は私はパソコン操作は得意ではなく、そういう面で「なぜ?」と思ったのですが、「パソコンの操作やそのノウハウはあとから覚えることができる。データを作成する人は、そういうスキルを持っているよりも、測量の知識をしっかり持っていて、データの意味や中身をきちんと理解している人に担当させるべき」ということで、もともと測量を専門とする私が担当になったということのようです。とは言っても何から取り組んでよいのかさえわからず、3次元設計データを作成できるようになるまでには、語っても語りきれないぐらいのいろいろな話があるのですが、手短に申し上げれば、研修やベンダーさんのコールセンターを活用したり、さらには、インスタでICT施工を挙げている会社さんにDMでメッセージを送って教えていただいたり、というような、いわば裏技のようなものも使いつつ、習得してきました。

Q 今後、インフラDX推進室としてどのように取り組まれていくのでしょうか。

嶋本さん:当初は私1名の体制でしたが、現在は2名で運用しており、ミニマムな組織で運営していく方針が継続していくと思います。今ではインフラDX推進室の必要性、重要性も少しづつ浸透してきて、例えば朝、会社の駐車場でオペレーターさんに会うと、第一声で「次の現場のデータはもうできている?」と聞かれることも良くあり、うれしい悲鳴に近い面もあります。また、設計図面を現場と同じように見ていますので、オペレーターさんから直接質問をいただくこともよくありますが、そこもしっかりとアドバイスしています。なお、忙しい現場に関しては、施工体制台帳の作成などの支援をインフラDX推進室で行ったりしていますが、今後、そういったバックオフィスを含めた支援の幅をさらに広げて、効率性のアップに努めていきたいです。やはり、分業することはすごくいいことだと感じています。現場監督の人が何でもかんでも総合商社みたいに携わると、本来のコア業務に集中できないこともあるとも思いますし、大幅な負担に繋がると思いますので。また、ICT活用に関しては、現場監督の人もすべからく3次元設計データを作成・修正できるようになることが好ましいとは思いますが、そこに至るまでに相当な時間がかかるほか、たとえそこに至ったとしても、やはり日々施工の中では、作成手間も新たな負担になりますので、修正くらいはできるようになればいいと感じますが、それぞれの分野で集中して力を発揮できる分業体制の方が望ましいと感じています。

次に当工事の現場責任者の東岡謙志郎さんにお話をお聞きしました。

Q この工事において、ICT活用によりどのような効果があったのでしょうか?

東岡さん:この工事では、3次元設計データを元にしたワンマン測量や、全ての掘削にICT建機を使用すること等で、施工や出来形管理・工程管理に要する日数を27日削減(約13%の工期短縮)できました。

写真3) 東岡謙志郎さん

写真3) 東岡謙志郎さん

また私と現場代理人の速水雷太の、20歳代の若手技術者2名が中心になって工事を管理し、無事に完成させることができました。この工事の土工は、構造物の床掘がほとんどの小規模土工だったのですが、主要部は0.8㎥級、狭小部は0.15㎥級のICT建機を使い分け、丁張設置だけではなく確認手間の大幅な削減も達成しています。現場で通常の建機で施工すると、丁張と丁張の間では建機の刃先の位置をよく確認しながら実施する必要があるのですが、ICT建機ではそのような確認の手間がなく3次元設計データに基づいてどんどん施工を進めていけるので、そういう意味でも施工は楽です。

また、生産性を向上させるという意味で現場監督として一番助かるところは、ICT建機で間違いなく施工していけるので、現場につきっきりにならず、オペレーターに任せることができ、その間に、資材発注とか測量の計算とか、次のところの設計図面の照査、あるいは次の工程の段取りとか、そういうことを工事の施工と並行してできるようになることだと感じています。なお、本工事では、床掘面に段差が多数あり平面・断面図だけでは複雑で説明しづらい内容でしたので、3次元データによるイメージ図で説明したところ、あらゆる方向から完成形を確認できて、オペレーターや作業員の方にその内容をよく理解してもらえたというメリットも感じています。

図4) 説明に使用したイメージ図

図4) 説明に使用したイメージ図

また、オペレーターが3次元設計データに対して疑問を持ったところは、インフラDX推進室に直接問合せを行い、疑問を解消させることができるようになっていることも現場監督としては助かっています。

なお、内製化していると、ICT建機を思い切り使えます。レンタルですと月額で借りることになり値段も張るので、毎月請求書が届くときにはドキドキしますし、そもそも小規模では使えません。また当社のICT建機はトリンブルのアースワークスを使用していますが、衛星情報をもとに使うケースと、電波がなく測量機に接続して使う自動追尾式を、現場条件によって同じ機械ですぐに切り替えられるので便利です。もっと小規模な重機にも自動追尾式のマシンガイダンス機能がついており、0.1㎥級のICT建機を持っている会社は私の知る限り、少ないと思います。私はICT施工に興味があり、今回が初の工事責任者だったのですが、今回の工事においてICT建機をしっかり活用しながら無事に完成させることができたことで、十分な自信を持つことができました。また、オペレーターさんはベテランの方が多いのですが、3次元設計データにより細かく施工内容が示されていますので、そのデータをお互いの基準として、ベテランのオペレーターさんと意見交換、意思疎通を円滑に図ることができるのも、とてもよい効果だと感じています。

次に当工事の現場代理人である速水雷太さんにお話をお聞きしました。

Q この工事に従事した感想をお聞かせください。

写真4)  速水雷太さん

写真4)  速水雷太さん

速水さん:この工事に携わった時は、高校を卒業した入社2年目の時でしたので、正直、自分がどこまで担当できるのか不安でしたが、これまでベテランの方しかできなかった測量分野をしっかり担当できたこと等、戦力として役割は果たせたかな、と感じています。そこまで実施できたのは、3次元設計データを用いた測量機を使うことで分かりやすく測量ができるなど、ICTを活用した実施方法が取り入れられていたことが極めて大きいと思っています。さらに、ICT機器の会社の方が来られた時に、その使用方法や使用時の注意点を作業員の方と共に聞き、その後、自分たちの現場ではどのような点を注意するかを皆で話しあって、間違いなく使いこなしたことも良かった点だと思っています。

図5)  様々な取り組み

図5)  様々な取り組み

また、3次元データで工事内容がわかりやすく視覚化されるので、自分が携わっている工事の内容や、その工事がどのように進んでいくのか、といったことが、早い段階でイメージでき、仕事が面白く感じることができましたし、作業員の方ともそのイメージを共有したうえで、いろいろ相談することができましたので、スムーズに工事を進めることができたことも大きいと思います。なお、当社におけるICT活用は、3次元設計データの作成・活用だけではなく、電子小黒板の活用をはじめ、社用のスマホが配られたり、クラウドでデータを共有したり、グループウェアを入れて社員同士のスケジュール確認や掲示板機能による一斉周知なども行われており、いろいろな面でICTが活用されています。

またメール以上、電話未満みたいな内容は、LINEWORKSというアプリを使って、LINE感覚でみんなとやり取りができるような形にもなっていますので、有難いですね。

おわりに

創業が昭和33年(1958年)の株式会社小森組さんは、
・ICT施工を通して経験産業である建設業を見直し、「誰でも楽に早く簡単に」を目指している
・最新の技術を導入し、未来でも必要とされる建設会社を目指している
・地方の一会社でも全国クラスの施工力を目指している
会社であり、HPにも「地域に密着し、どうすれば地域に貢献が出来るかを常に念頭に置き、これからも皆様から信頼される会社であり続けたい」と綴るとともに、「ICTへの特化」と題して、取り組みの概要や「最先端技術は人の生活を豊かにしてくれる」とするICTへの熱い想いを語っています。
ICT活用の内製化の取り組みには難しい面もあったと思いますが、データを作成して渡す側と、データを受け取って使う側とに分業した体制をつくり、早期に内製化を進めた方策は大いに参考になるものと感じました。
また、内製化の過程の中で、「全国のICT活用に取り組む会社さんとインスタグラム上でやり取りして、いろいろ教えてもらったりしたことは、大きな財産になっています」とも語られていたのが印象的でした。そういう面で、「国土交通省関東地方整備局が行っている、民間会社を対象としたICTアドバイザー制度が、もっと全国的な展開に発展していってほしい。そうすればもっとICT活用も水平展開できていくようになるのではないか」という願いと、「新しいものをどんどん取り入れている全国の会社さんともぜひ友達になりたい」との願いも語られていましたので、ぜひそういう輪が広がっていけばよいと改めて感じました。
なお取材のなかで、「発注図書に関して、初期の段階での不備も多く、そういう初歩的なところも含めて設計照査をしなければならない負担がすごく大きい。正しい図面をもとにした発注になれば、どれだけ負担が軽くなるか」とのコメントもありました。発注図書の不備はいろいろな建設会社さんからも指摘されていることでもありますので、建設会社さんの負担が少しでも少なくなるような取り組みが進むことを願うばかりです。

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