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コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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凍上現象によるトラブルは防げるか
~凍上のメカニズムと凍上試験による判定~

2019/03/04

20年ほど昔の話、東北の建築現場の所長から「現場の土が冬季に凍上するかどうか確かめたいので、実大に近い試験をやりたい」という依頼が舞い込んだ。「φ300mm×500mmの土のサンプルを凍らせて、地表面がどれくらい盛り上がるか見てみたい」と発注者から具体的に指示があったので、よろしく頼むよと。

冬が間近の現場から、鋼管φ300mmの中に詰まった土(火山灰質粘性土、いわゆるローム)がすぐに届き、準備していた発泡スチロールブロック(断熱材)で鋼管の周囲を覆って大型の低温試料庫に入れることにした(図1)。試料の下にも発泡スチロールを敷けば、冬季の自然状態と同じように地表面から土が冷やされて、凍上現象が再現できると考えた。正確な数値は覚えていないが、室温を-10℃ぐらいに設定して、地表面変位を毎日スケールで測定して1週間、地表面が10mmほど盛り上がったところで変位が収束したので、結果を現場に報告して試験は終了。

実は、土の上面と下面に熱電対を設置して温度変化を測定していたが、両者はほぼ同様に温度低下していた。たぶん土の温度は側面からも低下していたのだろう。今から思えば、果たしてこんな試験でよかったのか?単に土を凍らせた(凍上ではなく凍結させた)だけだったのではないか。

図1 現場で採取した土の凍結試験の概要図1 現場で採取した土の凍結試験の概要

では、凍上とは何か。冬季間に数10cmに及ぶ地盤隆起が発生することもある凍上現象、それが起こる3要素は「土質、水、温度」である。そして、凍上のメカニズムは次のように説明できる。凍上が起きやすい土質(透水性と保水性を併せ持つシルト等)は、冬季に気温が下がり地盤内に凍結面(0℃等温面)ができると、そこに未凍結部分から土中水が移動して薄い氷の層(アイスレンズ)を形成する。未凍結部分からの水分供給を受けながらアイスレンズが幾重にも成長することで、大きな体積膨張が発生するのである(図2)。そのため、寒冷地では、凍上現象に起因する以下のようなトラブルが発生することがある。

・地盤隆起による道路面のひびわれ
・膨張圧による擁壁等の変状、グラウンドアンカーの破損
・道路側溝等の浮き上がり
・斜面の変状、融解による斜面崩壊

図2 凍上現象のイメージ図図2 凍上現象のイメージ図

ここで、前述の試験(図1)の話に戻ると、現場で採取した「土質」は、比較的凍上が起こりやすいとされる火山灰質粘性土なので特に問題はない(表1参照)。しかし「水」は、試料内部の間隙水だけなので、現場のように凍結面に水が供給されてアイスレンズが幾重にも成長できる条件ではない。また、試料の断熱方法や「温度」の条件もこれで良かったのだろうか。幸い凍上被害の報告はなかったが、今から思えば、とても凍上試験とは言えず、汗顔の至りである。

表1 凍上性判定試験による代表的な測定例の土質別件数表1 凍上性判定試験による代表的な測定例の土質別件数

では、凍上試験はどのように実施すればよかったのだろうか?
地盤工学会では約10年間の検討を経て2009年に凍上試験方法を基準化している1)。目的別に2つの試験方法(JGS0171凍上予測のため、JGS0172凍上性判定のため)を設定しているが、試験方法はほぼ同じである。試験装置は、モールド(内径6cmまたは10cm、厚さ1cm以上)の上部から供試体に水が供給されてアイスレンズが成長できるように工夫されている(図3、図4)。試験手順は概ね以下の通りである。温度制御装置を用いて、土の上端は0℃~+1℃に保ち、土の下端の温度を0℃以下に下げ、吸水を許して土を凍結させ、凍上量や凍上速度、凍結膨張率などを求める。ここで、凍上量とは供試体の高さの増加量で、これは個々に形成されたアイスレンズの厚さの総和にほぼ一致する。
図5に凍上試験結果の例を、表2に凍上性判定の目安を示す。この図の例のように凍上性が中位から高いと判定された場合には、施工条件に応じて凍上対策を検討すべきである。

図3 凍上試験機の概要<sup>1)</sup>図3 凍上試験機の概要1)
図4 凍上試験のイメージ図図4 凍上試験のイメージ図
図5 凍上試験結果の例図5 凍上試験結果の例
表2 凍上速度による凍上性判定の目安1)表2 凍上速度による凍上性判定の目安<sup>1)</sup>

ところで、凍上問題に対する日本国内での研究の歴史は、昭和初期の旧満州鉄道や昭和10年代の旧札幌鉄道局の時代にさかのぼるようである。その後、道路分野等でも凍上被害が数多く発生したため、最近では設計・施工指針等に凍上の調査や対策方法が記載されるようになった。
凍上を抑制するには、凍上の3要素「土質、水、温度」の中のどれか1つを取り除けばよい。表3に代表的な凍上対策を示すが、実績の多さや経済性から置換工法が用いられることが多い。

紙面の都合もあるので、凍上対策の具体例は参考文献2)〜7)等を参照していただきたい。なお、建築の分野では建築基準法施行令で、基礎の深さは凍結深度より深いものとするか、凍上を防止するための有効な措置を講ずるように規定されているため、寒冷地の住宅などが凍上被害を受けることはほとんどないようである。
ただし、現在でも凍上のメカニズムには未解明の部分も残されており、凍上現象によるトラブルは毎年のように発生している。建設現場でのICTの活用等も進む中、最新技術を活用してさらに合理的な凍上対策が開発されることを期待したい。

表3 代表的な凍上対策工法表3 代表的な凍上対策工法
参考文献

1)地盤工学会:地盤材料試験の方法と解説 第11章 凍上試験,pp. 226~232,2009.

2)日本道路協会:道路土工要綱(平成21年度版),pp.194~232,2009.6.

3)日本道路協会:道路土工-切土工・斜面安定工指針(平成21年度版),pp.181~190,2009.6.

4)地盤工学会北海道支部 斜面の凍上被害と対策に関する研究委員会:斜面の凍上被害と対策のガイドライン,2010.3.1.

5)東・中・西日本高速道路株式会社:設計要領第一集 土工編 第2章盛土 4.凍上,pp.2-60~2-71,2013.7.

6)冬期の河川・道路工事における施工の適正化検討会:積雪寒冷地における冬期土工の手引き,平成27年2月

7)地盤工学会:講座 土の凍結と地盤工学,2003年4月号~2003年12月号.

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