コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2019/03/28

マスコンクリートの打込み

あるゼネコンの管理部長から、「マスコンクリートの経験者が少ないので困っている。」という話を聞かされたことがある。入札時の配置予定技術者なのか、受注した工事で現場配属のことなのかは聞き損ねた。

そこで、今回は「マスコンクリート」の打込みについて、仕様書では触れていない点を中心に述べる。経験者にとっては何ということもない話なのだが、未経験者にとっては、今後の工事での参考になればと願う。


例題として首都圏でコンクリートの打込み量が1300m3の底版(面積870m2×高さ1.5m)の施工計画を立てる。季節は秋、底版は金ゴテ仕上げが条件である。


(1)工場の選定

商社から指定された二つのレディーミクストコンクリート工場の生産能力は、どちらも毎時200m3とする。

朝7時に打込みを開始し、途中1時間の昼休みをはさみ、16時に打込みを完了すると打込み時間は8時間であり、順調にいけば1時間当たりのコンクリート打込み量は1300÷8≒163m3である。この数量なら、一つのレディーミクストコンクリート工場で賄える。

めったにないことだが、コンクリート工場の都合で、当日、一か所の工場では対応できないことがある。このような事態を想定して、あらかじめ二か所の工場を選定しておく。セメントの製造会社は同じでも、混和剤、骨材の産地、配合が異なることが多いので、施工計画書を作成する段階で試験練りを行い、混合することによる悪影響が無いことを確認しておく。

実際の施工にあたっては、工場別にポンプ車を分け、打込み区画を分け、コンクリートが混ざらないようにするのだが、区画の境い目では混ざってしまう。


(2)コンクリートポンプ車の配置

コンクリートポンプ車の機種は積算基準1)で扱っているブーム式 90~110m3/h で計画する。上述したように、時間当たり163m3であれば、コンクリートポンプ車は2台でも良いのだが、打込み箇所の移動などの余裕を見て3台とする。1台が故障したときの担保にもなる。通常、コンクリート圧送業者とは立米いくらで契約しているので台数が増えることで割高になることは無い。

コンクリートポンプの設置場所については、なるべく2台の生コン車が同時に配置できるように計画する(写真1)。これにより生コン車の入れ換えに要する時間が短縮され、円滑なコンクリート打込み作業が可能となる。

今回の事例では、打込み箇所の東側の通路が狭く、生コン車がすれ違えない状況にあり、北側と西側はポンプ車を設置できない。南側は、広いスペースがあり、生コン車の受け入れが容易である。そこで、図1に示すように南側にポンプ車を2台、東側の奥にポンプ車を1台設置することにした。

商社から割り当てられた数量が、A工場から1000m3、B工場が300m3であったため、A工場の生コンは南側の2台のポンプ車(P1、P2)で、B工場の生コンは東側の1台(P3)で打ち込むことにして、コンクリートの打込み範囲を割り付けた(図1)。ポンプ車P1の打込み範囲をⅠ(320m2)、P2の打込み範囲をⅡ(330m2)、P3の打込み範囲をⅢ(220m2)としている。コンクリート工場別に打込み範囲を決めたのは、何かあった場合、責任範囲を明確にするためである。実際の現場では、底版の上に組み立てられた壁や柱の鉄筋を考慮して打込み範囲や打込み順序を決める必要がある。

写真1 コンクリートポンプ車に生コン車を2台付けしている様子 写真1 コンクリートポンプ車に生コン車を2台付けしている様子 写真1 コンクリートポンプ車に生コン車を2台付けしている様子
  • 図1 ポンプ車の配置と打込み範囲の割付け 図1 ポンプ車の配置と打込み範囲の割付け 図1 ポンプ車の配置と打込み範囲の割付け
  • 写真3 大型ふとんかごによる擁壁 写真3 大型ふとんかごによる擁壁 図2 生コンの打込み順序(2層目まで)
    (① は1層目、②は2層目を示す)

(3)施工

底版の高さは1.5mであり、3層に分けて打ち込むことにした。1層目は60cm、2層目も60cmとし、3層目は30cmで仕上げる(図2)。3層目に移るには、左官屋の準備ができていることを確認する必要がある。3層目を薄くすることで、打ち上がり速度は速くなり、左官屋が手待ちにならなくて済む。

本事例のように複数のポンプ車を使用して大量のコンクリートを広い面積に打ち込む場合は、コンクリートの打ち重ね時間を適切に管理する必要があるため、現場監督の役割は重要であり、全体を俯瞰して指示を出す能力が求められる。指針2)には、「一体性を確保できる許容打ち重ね時間間隔は、セメントの種類、混和剤の種類および使用量、コンクリートの温度、外気温等により異なる。」として許容打重ね時間間隔の標準を示している(表1)。

表1 許容打重ね時間
外気温 許容打ち重ね時間間隔
25℃を超える 2.0時間
25℃以下 2.5時間

コンクリート打込みの最終段階では、3台のポンプ車がほぼ同時に打込みを完了するのではなく、先に2台のポンプ車の打込み作業を完了させ、残り1台の打込み範囲から最終数量を計算する。ここでは現場から近いA工場のコンクリートを受け入れているポンプ車P1で最後の打込みを行った。

この後、夜間まで左官工による金コテ仕上げが行われる。レイタンスの処理は、遅延剤を散布し、翌日にケレン等を行うことが多いが、面積が広いため、サンドブラストの専業者に依頼した方が鉄筋に付着したコンクリートの除去を含めて確実に行える。夏場なら湿潤養生、冬場だと保温養生を行うため、照明等の準備も欠かせない。

   
参考文献

1)国土交通省土木工事積算基準 平成22年度版 (財)建設物価調査会

2)コンクリートのポンプ施工指針 2012年版(土木学会)

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