「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2019/06/27
前編では、真空圧密工法の用途を拡大したトピックス的な事例を紹介しましたが、後編では真空圧密の地盤改良効果を高めるためのアイデアや、施工上のトラブルを回避するために行われてきた工夫等を紹介します。
真空圧密工法で最も避けたいのが漏気です。気密シート方式では、シートにほんの小さな穴が開いただけでも真空圧(大気圧からの減圧量)が低下するため、シート下に設置した負圧計等で減圧量(設計真空圧60~70kPa程度)を常に監視しています。地表面部での漏気は発見も比較的容易でシートの補修もすぐにできますが、問題は気密シート端部の地中への埋込み部です。漏気を発生させないために、シート端部は粘性土の中に1.5m程度、丁寧に埋め込むという作業が行われます(写真3)。また、埋め土の中に通気性の高い砂等が混入しないように細心の注意が払われています。一方、気密シートを使用しない真空圧密ドレーン工法6)では、粘土層内にキャップ付ドレーン(図6)を打設して、粘土層の表層約1m部分を負圧シール層(粘性土による密封層)として利用するため、キャップ部より上に常に水位があり、負圧シール層の透水係数が約1×10-7m/s以下であることを必要条件としています。
次に気を付けなければいけないのが、透水性の高い砂層や帯水層の存在です。真空圧で砂層等から水を吸い上げ続ければ、目的としている粘性土の圧密沈下の進行が遅れるだけでなく、周辺地盤の地下水位の低下を招いて大きなトラブルを起こしかねません。そこで、軟弱層の下端に砂礫等の帯水層が存在する場合には、バーチカルドレーンの打設は砂層の2m程度上で止めるように規定しています5)。また、挟在砂層の存在には特に注意が必要です。対策として、鋼矢板や深層地盤改良工法による遮水壁を真空圧密の適用範囲の外周に施工した事例(図7、図8)や、砂層部分のドレーン材をシールして水を吸わないようにするといった工夫(図9)が報告されています。
最後に、地盤に作用させる真空圧(大気圧からの減圧量)を最大限に高めるための工夫を紹介します。
既に多くの施工実績があるのが気水分離システムです。従来の真空圧密工法(気密シート方式)では、地表面の沈下が大きくなれば、真空ポンプ(真空駆動装置)で吸引する水の揚程も徐々に大きくなるために、気密シート下の真空圧が低下するという問題がありました。そこで、気密シート下の地盤に分離タンク(排水ポンプ内蔵)を設置し、軟弱地盤から吸い上げた水と空気を分離して排出することで安定した高い真空圧を地盤に作用させ続けることが可能となりました(図10)。
サイフォン機能を利用して真空圧を高めようとする試み(図11)も報告されています11)。地中に埋設された減圧室内の水位と地下水位との水頭差に起因して働くサイフォンの吸引力と真空ポンプの吸引力を併用することにより、真空ポンプのみを用いる従来工法に比べてより高い真空圧が駆動できるというアイデアです。
このように、真空圧密工法は新しい発想も取り入れながら進化し続けている工法だと言えるでしょう。一方で、真空圧密による軟弱地盤の挙動に関しては未解明の部分も残されており、所定の改良効果が得られているかどうかを確認するためには、従来の圧密促進工法(載荷盛土工法等)と同様に動態観測による施工管理が必須となります。施工前の地盤調査や土質試験の重要性は言うまでもありませんが、今後はICT等の最新技術も活用した合理的な工法へとさらに進化することを期待したいと思います。
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