「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2019/08/29
杭打ち機(基礎工事用大型車両系機械)の転倒事故がなくならない。
写真1は土木学会全国大会での発表論文1)からの引用であるが、第三者を巻き込むような転倒災害となれば、社会的な影響の大きさはもちろんのこと、その画像などはネット上でたちまち拡散されて工事関係者にとっても極めて大きなダメージとなる。
このような杭打ち機の転倒を防止するには何が大切なのか。
表1は杭基礎施工便覧2)で示されている施工管理チェックポイントの抜粋だが、施工地盤のリスクと共に作業上のリスク(無理な・・・は行わない)が挙げられている。
写真1の3軸オーガー掘削機の転倒災害も、その直接的な原因は表層地盤改良の不備による掘削溝の崩壊だが(図2(b)参照)、それとは別の作業上のミスも重なった(施工中の水道管破損による湛水で地盤が劣化)と指摘されている1)。
作業段階 | チェックポイント | 解説 |
---|---|---|
準備作業 | 施工機械の据付け地盤は適切か。 | 施工機械の移動する地盤の強度を確認する。必要であれば、敷鉄板の使用、地盤改良等の処理も検討する。 |
安全・環境対策 | クレーンや杭打機は転倒するおそれがないか。 | 地盤の支持力、水平度を確保し、無理な吊り込みは行わない。 |
杭打ち機にとって最大のリスクは軟弱な地盤である。杭打機の接地圧に対して地盤の強度が不足すれば、下部走行体(クローラー)が沈下して杭打機が傾きバランスを崩して転倒に至る。
良好な地盤に見えても、そもそも地盤にはバラツキがあり、地中に何か異物が埋まっている可能性もあるので事前に入念な地盤調査を行う。
杭打ち機の安定性には表層3m程度の地盤の強度の影響が大きいので、最低でも30m に1ヶ所はスウェーデン式サウンディング試験やコーン貫入試験などの地盤調査を行いたい。
地盤が軟弱であれば、そのリスクを適切に評価し、砕石の敷設、表層地盤改良、敷鉄板などの対策を実施する(図1参照)。しかし、これらの対策を実施しても図2に示すようなリスクが潜んでいるので、その点も充分に認識したうえで慎重に施工を行う必要がある。
乱暴な運転は禁物である。特に吊り荷中の旋回はゆっくりと行う。
旋回時にはリーダーなどの傾きや杭打ち機の重心位置の変化によってバランスを崩しやすい。安全装置があれば限界に達すると自動停止するが、逆にその反動で吊り荷が振られてさらにバランスを崩すこともある。むろん、作業手順にない吊り荷の移動などは急に頼まれても行わない。用途外使用は論外であるし、過負荷防止装置(自動停止機構)を解除するといった無謀な行為は厳禁である。
杭打ち機の移動時の転倒事故も多いので注意が必要である。
原則として吊り荷走行は禁止すべきである。
敷鉄板は図1に示したように荷重分散効果によって地盤の支持力確保には有効であるが、杭打ち機が敷鉄板の端部に載れば安定度は当然低下する。これは表層地盤改良でも同様である。なお、敷鉄板は2枚敷きが望ましいが、上下の敷鉄板は交互にずらして敷くのが良い。
風のリスクにも注意する。
風の圧力は風速の二乗に比例するので、風速が2倍になれば吊り荷にかかる風圧は4倍になる。
風向と風速を現場で把握する手段としては、吹き流しの設置が有効ではあるが、できれば風速計なども活用して強い風が吹いた時にはオペレータに警報が伝わるようにしておくとよい。
なお、強風(10分間の平均風速10m/s以上)ではクレーン作業は禁止となるが、一般に高い所の風速は地表付近よりも大きいということも忘れてはならない。
以上、杭打ち機の転倒防止にとって大切なポイントを示した。なお、杭打ち機やクレーンなどの転倒事故については、再発防止を目指して多くの資料が公開されているので(例えば参考文献3),4))、それらも活用して安全教育を徹底することが望まれる。
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