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コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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断面修復工でのコンクリートの再劣化
ーマクロセル腐食ー 編集委員 N

2016/03/30

コンクリート構造物の健全性を阻害する最大の要因は「鉄筋腐食」と言えるでしょう。ひびわれ発生の原因となり、さらにはかぶりコンクリートの剥離・剥落、耐荷力の低下などの重大な損傷を引き起こすことになります。

コンクリート中の鋼材の腐食は、塩化物イオンの存在や中性化に伴うPHの低下がもとで不動態被膜が破壊され、これらが契機となり進行します。腐食が始まると、鋼材表面上で鉄がイオン化する反応(酸化反応、アノード反応とも呼ぶ)と酸素が還元される反応(還元反応、カソード反応ともいう)が同時に進みます。この時、電気化学的には、電子の供給により電位が卑(-)となる箇所(アノード)と電子が消費され電位が貴(+)となる箇所(カソード)の間で局部電池(セル)が形成され、電気の流れが生じます。いわゆる腐食電流です。これらについては、図1に模式的に示しました。一方、腐食の進行形態としては、微細なセルが鋼材表面に均等に形成されることで腐食が進行するミクロセル腐食と、打継目などコンクリートの性状が変化する箇所で比較的大きなセルが形成され腐食が進むマクロセル腐食とが知られています。このうち、マクロセル腐食は進行の速いことが特徴です。

図1 鉄筋の腐食反応と腐食電流
図1 鉄筋の腐食反応と腐食電流

写真1 断面修復境界部の鉄筋、PC鋼線の腐食状況写真1 断面修復境界部の鉄筋、PC鋼線の腐食状況

さて、十年以上前のことになりますが、断面修復工法の試験施工のために沖縄を訪れた折、部分断面修復工法により補修された海浜部にある橋梁床板が、補修後10年を経ずして激しく再劣化しているのを目の当りにしました。特に印象的だったのは、損傷が断面修復箇所の周辺に集中していたことです。後に、これがマクロセル腐食であることを知りました。その後、断面修復材の性能検証のため実施した、塩害環境下でのPC桁を用いた長期暴露試験において、期せずして同様の損傷を確認することになりました。10年程経過した試験体の断面修復部と未対策部との境界に、20cm程度の幅で錆汁を伴うひびわれやコンクリートの剥離が生じていたのです(写真1)。当該箇所の鋼材の自然電位1)を計測したところ、断面修復箇所に比べ-200~-300mV程度卑(-)な値となっていました。また、未対策部の残存する塩化物イオン量は約6.0kg/m3と大きな値を示しました。

塩害環境下にある構造物に断面修復工法を適用する場合、未対策部に残存する塩化物がマクロセル腐食を誘発するため、再劣化の原因となります。このため、一部の発注機関では、マクロセル腐食対策として部材内の塩化物イオン量とその分布状況、さらに鉄筋の発錆状態を把握した上で断面修復範囲を設定するよう規定しています。留意して欲しいことは、断面修復工を適用する場合、ひびわれ、剥離などが顕在化している箇所だけを対象とせず、余裕をもって補修範囲を設定する必要があると言うことです。因みに、補修範囲を設定する上で目安となる内在塩分量は、部材の損傷程度にもよりますが、文献2)等を参考に試算すれば塩化物イオン量で1.0kg/m3前後と想定されます。また、塩分量が多く対応が困難な場合には、亜鉛等の犠牲陽極材を用いた電気化学的防食手法3)も開発されてきています。対策案に加えてはどうでしょうか。

近年、補修・補強工事での施工トラブルがマスコミ等で取り上げられるようになってきました。補修・補強技術には開発されて間もないものが多くあります。トラブルを防止するには、施工データの蓄積やこれらを踏まえた技術の改良、改善が今後より重要となるでしょう。

参考文献

1)自然電位:金属表面の平衡電位で、基準となる照合電極(電位の基準モニタ)との電位差で現されます。

2)飯島亨、他:塩害を受けたPCけたを用いた長期暴露供試体による断面修復工法の補修効果の検討、日本材料学会 コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム論文集Vol.12, pp.281-288、2012.11.2

3)テクノクリート施工研究会:http://www.technocrete.gr.jp/index.html(ガルバシールド工法を参照)

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