「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2020/03/30
打継目は、硬化した旧コンクリートに接して新たにコンクリートを打ち込むことによって生じる新旧コンクリートの境目のことである。コンクリート構造物の施工においては、型枠の長さ・高さ、コンクリート側圧の大きさ、鉄筋組立ての高さあるいはコンクリートの供給能力などによって、1回に打ち込まれる量が制限される。そのため、コンクリート構造物をある区画に分割して施工を行う場合には、必然的に打継目が発生することになる。
打継目に求められる性能としては、次のように構造的安全性と物質の透過に対する抵抗性がある。
①構造的安全性
打継目は外力の作用に対して弱点となりやすい。特にせん断力に対して弱点となりやすいので、できるだけ新旧コンクリートの一体性が確保できるように施工しなければならない。
②物質の透過に対する抵抗性
打継目を通して、コンクリート内部に水、酸素、塩分などの物質が浸透すると、内部に埋め込まれている鋼材の腐食を促進する可能性があり、耐久性が損なわれる原因となる。また、水密性が要求される構造物では、打継目を通して漏水が生ずると使用性が低下することになる。そのため、打継目はできるだけ物質が浸透しにくい箇所に設けるとともに、一体性が確保できるように施工する必要がある。
打継目は一般に、コンクリートを水平方向に打ち継ぐ水平打継目と鉛直方向に打ち継ぐ鉛直打継目とに大別される。ここでは水平打継目のトラブル事例と適切な施工方法について記述する。
水平打継目の施工が何らかの理由によって適切に行われなかった事例を写真1および写真2に示す。写真1は重力式無筋コンクリート構造物において、鉛直方向に採取したボーリングコアである。水平打継目の箇所で破断しており、新旧コンクリートが一体化されていない事例を示したものである。写真2は、重力式の無筋コンクリート製貯留槽の水平打継目から漏水が生じている事例である(止水板は設置されていない)。いずれの事例も水平打継目の施工が適切に行われなかったために生じたトラブルである。このようなトラブルはコンクリート硬化後あるいは構造物が完成した後に発見されるため、その事後処理に多大な日数と費用を要することになる。
新たにコンクリートを打ち継ぐ場合には、既設コンクリート表面(打継面)のレイタンス、品質の悪いコンクリートおよび緩んでいる骨材などを取り除き、コンクリート表面を粗にした後、十分に吸水させることが基本である1)。表1に示したように、レイタンスを処理しないでコンクリートを打ち継ぐと界面の引張強度は、打継目が無い場合の45%までに低下する。打継面を削る処理を行うと、その値は77%まで増加し、さらにセメントペーストやセメントモルタルを塗ると90%以上に増加しており、打継目処理がいかに重要か分かる。
打継処理方法 | 引張強度百分率(%)* |
---|---|
レイタンスを取り除かない場合 | 45 |
打継面を約1mm削った場合 | 77 |
打継面を約1mm削り、セメントペーストを塗った場合 | 93 |
打継面を約1mm削り、セメントモルタルを塗った場合 | 96 |
打継面を約1mm削り、セメントペーストを塗って打ち継ぎ、約3時間後に再振動した場合 | 100 |
既に打ち込まれたコンクリートの水平打継目の処理方法として次のような方法がある。
①高圧水による処理方法(硬化前の処理)
コンクリートの凝結が終了した後に、高圧水によりコンクリート表層の脆弱部を取り除き粗骨材を露出させる方法である。コンクリートダムの施工においてはグリーンカットと称されている。処理する時期が早すぎると骨材を緩ませてしまい、逆に遅すぎるとコンクリートが硬くなって粗骨材を露出させることが困難になるのでその時期を慎重に見極めることが重要である。
最近ではこの処理時期を翌日まで遅らせる方法が多く用いられている。コンクリート打込み後に専用の凝結遅延剤を打込み面に散布し、表層のコンクリートのみの凝結時間を大幅に遅延させることで、翌日に処理する工法である。写真3に、柱部材を打ち継ぐ部分のみに凝結遅延剤を散布して、翌日に高圧水で処理した例を示す。
②チッピング処理による方法(硬化後の処理)
コンクリート硬化後に打込み表面を機械的に切削あるいは打撃などの方法により粗な状態にする方法である。若材齢時の強度が小さい場合には、散水しながらワイヤーブラシでレイタンスを除去して表面を粗にすることができる。硬化が進んで強度が大きい場合には、手動あるいは電動のハンマー、ノミなどで脆弱部を除去して表面を粗にする。このような処理を行う場合には、粗骨材を緩ませることのないように慎重に行う必要がある。機械的なチッピング処理では、健全なコンクリートの粗骨材の緩みの他に微細なひび割れの発生が指摘されている3)。そのようなことが懸念される場合には、超高圧水のウォータージェットでのはつりを採用することが望ましい。
③敷モルタルの打込み
通常の施工では、上記の①、②の処理をした後に、打継面を湿潤状態にしてコンクリートを打込む場合が多い。しかし、より一体性を高めたい場合には、表1に示したように、打継面にセメントペーストやセメントモルタルを塗ってからコンクリートを打ち込むと良いとされている。このようなことが要求される場合には、コンクリート打込み直前にモルタルを1~2cm敷くことが行われている。この敷モルタルにはポンプ施工時の先送りモルタルを使用してはならない。敷モルタルの水セメント比は使用するコンクリートの水セメント比以下としなければならない1)。
④打継用接着剤の使用
打継部の一体性をより確実なものにしたい場合には、打継用の湿潤面用エポキシ樹脂あるいはポリマーセメント系接着剤など、専用の接着剤を用いることもある。その場合にも上記の①あるいは②の処理が必要である。
⑤旧コンクリート打込み時における打継処理剤の散布
旧コンクリートの打込み後、その表面に特殊合成樹脂エマルジョンなどの薬剤を散布し、ブリーディング水とともにコンクリート内に浸透させることによって、コンクリート表層部を強固にさせる工法である。チッピングなどの処理をせずに新コンクリートを打ち継ぐことができるので、洗浄水やレイタンスの処理が不要という利点がある。ただし、安易に使用すると期待される効果が得られない場合もあるので、事前に実際に用いるコンクリートで散布方法、散布する時期や量などを確認してから使用することが重要である。
なお、表1には、再振動を行うと新旧コンクリート界面の引張強度が打継目の無いコンクリートの引張強度と同等になることが示されている。再振動締固めとは、コンクリートの振動締固めを行ってから、ある一定の時間をおいて再び振動を与えることをいう。適切な時期に再振動を行うと、コンクリート内部の空隙や余剰水が少なくなり、コンクリート自身の強度や密実性が高くなるとともに、旧コンクリートや鉄筋との付着強度が増大するとされている。再振動を行う時期は、コンクリートの締固めが可能な範囲でできるだけ遅い時期がよいとされている。振動を与える方法としては、棒状バイブレータによる方法がある。むやみに再振動を行うとコンクリート品質に悪影響を及ぼす可能性があるので、コンクリートの品質に悪影響が生じないような適切な方法、適切な時期を慎重に検討してから行う必要がある。
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