「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2020/05/28
これからのシーズン、梅雨の長雨、ゲリラ豪雨、台風等による土構造物の被害が心配されます。特に、集水地形にある切土や盛土の法面は表流水により、侵食を受けやすく、溝状にのり面が削られるガリ侵食(写真1)が発生します。侵食が進むと道路の路肩が陥没する被害が発生します(写真2)。
このような侵食は、粘着性に乏しい砂質土で発生しやすく、その代表例に「まさ土」「しらす」「山砂」があり、これらの土は、特殊土と分類されています1)。地盤工学用語辞典2)では、「在来の地盤工学の手法だけでは、設計・施工ができないような土を特殊土といい、普通でない土、あるいは問題土のことである」と説明されています。また昭和27年に制定された「特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法(「特土法」)」の中では、特殊土(壌)としてマサ、シラス、ボラ、コラ、赤ホヤ、ヨナ等が指定されています。この法律は、極めて雨量が多く、かつ特殊土壌が分布する地域は他と比べて災害が多いことから、地域の保全と農業振興を目的に制定されたものです。
さて、前述の3つの特殊土について概説します。まさ土(マサ)は、マグマが地殻中でゆっくりと冷えて固まってできた花崗岩が地殻変動によって地表付近に現れて、その場所において表面から風化が進み、土砂化した定積土(残積土とも呼ぶ)です。なお、花崗岩は墓石や石碑等の石材に用いられる岩石で、カーリングのストーンにも用いられています。
しらす(シラス)は、固結度が低い火砕流堆積物、あるいは火山灰、火山礫の堆積物で、白っぽいものが多く、九州地方を中心に分布していますが、その他の地方でも火山がある地域に分布しています。特殊土壌のボラ、コラ、赤ホヤ、ヨナも九州各地の火山噴出物が堆積した土です。
山砂には多くの種類がありますが、その中でも侵食を受けやすいものには、海底で堆積し、その後に隆起した地層に含まれるものが多いようです。ここでは紙面の都合により、まさ土と山砂について取り上げます。
まさ土は、花崗岩に含まれる造岩鉱物の石英、長石(斜長石、正長石)、雲母(黒雲母、白雲母)、角せん石および少量の磁鉄鉱の土粒子で構成される砂質土です。まさ土の分布地域は、国土面積の約13%を占め(図1)、白亜紀を起源とする花崗岩が多いようです3)。また、まさ土と一口にいっても、地域毎に花崗岩自体の種類や風化の程度が異なり千差万別で、白色を基調として黄色やピンクがかったものもあり、砂っぽいものから少し粘性を持ったものもあります。その中で、侵食に弱いまさ土は、細粒分が少なく、粘性に乏しい砂っぽいものが多いようです。筆者が暮らす福島県では、阿武隈山地にまさ土が分布しており、豪雨の度に土砂災害が発生しています。特に2019年の台風19号では河川堤防や道路に甚大な被害が発生しました。特に砂っぽいまさ土が分布する地域の河川堤防の護岸(のり覆工、根固工等)では、裏込めのまさ土が侵食と洗堀により消失し、張りブロックだけが残るような、これまで見たことのない被害が発生しました(写真3)。また、写真2は中山間地域の集水地形に建設された道路盛土の被害例ですが、同様の被害は至るところで見られました。このような市町村の道路は、交通量が少なく国道や県道と比べて舗装構造も貧弱であり、加えて、アスカーブ(アスファルトで作る縁石)や側溝などの排水設備が整備されていないところも多いようです。実際、アスカーブがある場所では盛土法面への流水が抑えられて、被害は少なく、アスカーブは地味な存在ですが、侵食から道路を守る重要な役割を果たしていることを認識できました。また、陥没した道路の応急処置としてまくら土嚢がたくさん使われ、法面への雨水の流下を防いでいました(写真4)。もともとアスカーブが無い道路の路肩に、まくら土嚢を置くだけでも、侵食対策として一定の効果があるのではないかと思いました。
次に山砂ですが、その代表例として東京多摩地方の稲城砂があり1)、砂質土のように見える一方、粘性土のような性質も示し、侵食されやすいことも紹介されています4)。稲城砂と生成過程、粒度分布、現場で発生する問題が共通している山砂に「ゆな」があります。「ゆな」は、福島県の沿岸部(浜通り)に分布し、砂と粘土両方の性質を示し、締固めてもトラフィカビリティ―の確保が難しく(写真5)、強度が出にくい、侵食を受けやすい、乾燥すると飛散する等、施工には特段の配慮が必要な土です5)。「ゆな」は福島県浜通りの方言で砂を意味するようです。表1に「ゆな」とそれに似た呼び名とその意味、使われている言語や地域を示します6)。「ゆな」という呼び名は福島だけでなく、岩手や沖縄でも砂を意味する呼び名として使われているようです。また似た呼び名にはウイナ、ウナ、ヨナ、イナ、ユニがありますが、いずれも侵食に弱い「砂」や「灰」を意味しています。みなさんの周りにも、地元特有の呼び名を持つ土があるのではないでしょうか。それらは、災害が起こりいやすい特殊土かもしれませんので、注意してみてください。
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