「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2020/06/29
鉄筋コンクリート造橋梁の上下部工の分割発注や、寒冷地などのように工事を一時的に中断するような施工条件では、組み立てた鉄筋が長期間にわたり大気中に曝される場合がある。このような場合には、そのまま放置すると写真-1に示すように鉄筋に錆が発生する。特に、写真-2に示すように、海岸近くの工事では、短期間曝されただけでも錆が発生する場合があるので留意が必要である。一般に、穏やかな気象条件の平野部では、海岸線から200m付近まで(塩害の影響地域区分C)は飛来塩分の影響を受けるとされている1),2)。しかし、沖縄県や日本海に面する一部地域では、200m以上離れた場所(塩害の影響地域区分A・B)でも飛来塩分の影響を受けるとされている1)。
鉄筋に発生した赤錆程度のものについては、コンクリートとの付着を害することがないので無理にこれを除去する必要はない。ただし、浮き錆状のものはコンクリートとの付着を害するのでコンクリートの打込みに先立って、ワイヤブラシやサンドブラストなどで除去しなければならない3)。また、組み立てた鉄筋が錆びると、写真-1、写真-2に示すように錆汁が垂れてコンクリートを汚し(以降、もらい錆と称す)、美観を損なうことになる。
本文では、組み立てた鉄筋の防錆方法とコンクリートに付着したもらい錆の除去方法について紹介する。
大気中に長期間曝される鉄筋に錆を発生させないためには、エポキシ樹脂塗装鉄筋、亜鉛めっき鉄筋あるいはステンレス鉄筋などの特殊な鉄筋を使用するのが効果的である。しかし、それらの鉄筋は非常に高価なため、一般的には下記のような方法で防錆対策を行っている。現場の環境条件や配筋状況などを勘案して適切な方法とするのがよい。
①防錆剤を鉄筋に塗布する
鉄筋に塗布する専用の防錆剤としては、ポリマーセメント系、エポキシ樹脂系、錆転換型、低級アルコール系などがある。所定量をハケやスプレーなどで塗布する。防錆剤の種類にもよるが、半年程度以上は効果が保持できるとされている。コンクリートの打込みは、塗布した防錆剤を除去することなくそのままの状態で行うのが一般的である。ただし、塗布しない鉄筋よりもコンクリートとの付着強度が低下するとの報告があるので、使用に際しては事前の性能確認が必要である。なお、付着強度の低下割合はそれほど大きなものではなく、エポキシ樹脂塗装鉄筋と同程度(普通鉄筋の0.85倍の付着強度)を見込めば良いとされている4)。
②鉄筋にセメントペーストを塗布する
水セメント比30~60%のセメントペーストを鉄筋に塗布する。コンクリートとの付着を害するので、コンクリート打込みに際しては、事前にそのセメントペーストをワイヤブラシなどで除去しなければならない。
③鉄筋を被覆する
立ち上がり鉄筋などに対しポリ塩化ビニール製などの熱収縮性のチューブを被せたり、ビニールテープなどを巻きつけて被覆する。コンクリートとの付着を害するので、コンクリート打込み前にその被覆を取り除かなければならない。
④組み立てた鉄筋をシートなどで覆う
組み立てた鉄筋全体を防水性の高いシートなどで覆う。しかし、雨水が浸入しないよう完全に密封することは難しいので、上記の対策と併用するのが望ましい。
組み立てた鉄筋に錆が発生した場合、錆汁が垂れたり飛散したりしてコンクリート表面に付着したもらい錆は、美観性を損なうので除去するのが望ましい。もらい錆を長期間放置するとコンクリート内部に浸透して除去が困難になるので、できるだけ早い時期に下記の方法で除去するのが良い。また、除去効果あるいはコンクリートの美観を損なわないかなどを目立たない場所で事前に確認することが望ましい。
①酸性洗浄剤による除去
一般の家庭で使用されている市販の酸性洗浄剤は、水回りの汚れ落としだけでなく、もらい錆などの汚れ除去にも効果がある。洗浄剤を塗布してしばらく放置し、ブラシを使いながら水で洗い流すことで錆を除去することができる。ただし、酸性なので長時間の放置はアルカリ性であるコンクリートの品質に悪影響を及ぼす可能性があるので、水で十分に洗い流すことが重要である。
②専用の中性洗浄剤による除去
もらい錆を除去する専用の中性洗浄剤には、リン酸やチオグリコール酸アンモニウムなどを主成分としたものがある。洗浄剤を塗布し、ブラッシングしながら水で洗い流すことで錆を除去する。中性であるため一般にコンクリートの品質に悪影響を及ぼさないとされている。
③研磨による除去
洗浄剤で錆を除去できない場合は研磨が効果的である。サンドペーパー(紙ヤスリ)で削る場合は、できるだけ目が細かいものを使用するのが良く、180番が目安とされている。広範囲にわたる錆の場合には、ディスクグラインダーにコンクリート研磨用砥石を取り付けて除去する方法もある。ただし、削りすぎると色むらや凹凸により美観を損なうことがある。
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