「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2020/09/29
健全なコンクリートの内部にある微細な空隙は、pH12~13の強アルカリ性の溶液に満たされていて、鉄筋の表面には不動態皮膜がつくられ、鉄筋が腐食することはない。ところが大気中の二酸化炭素の浸入がコンクリートのアルカリ性を低下させる。
二酸化炭素によってコンクリートのアルカリ性が低下する現象を中性化と呼ぶ。中性化はコンクリートの表面から、徐々に内部に向かって進行する。中性化が鉄筋の近くまで達すると不動態皮膜が破壊され、鉄筋の腐食が始まる。
中性化進行の予測式は
で表わされる。例えば、この式によれば中性化の進行が10年で15mmのコンクリートはb=4.75であり、20年後の中性化の深さyは21mmとなることが予測できる。
中性化の進行を抑制するには表面被覆工法が有効であることが知られている(図1)。塗装する材料にはアクリル系、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系などの樹脂系もしくはポリマーセメントといった無機系の材料などがある。また、二酸化炭素の浸入を抑止するには、塗装材に限らずビニールシート、壁紙など壁面を被覆できれば何でもよい。道路トンネルの壁面に貼られているタイルなども本来の目的ではないが、中性化の防止に効果がある。
交通量の多い幹線道路などでは二酸化炭素の濃度が高く、中性化の進行が通常の環境下のコンクリートより早まる傾向がある。写真1は1968年に開通した高速道路の盛土区間に設けられた人道トンネルであり、車の排気ガスが滞留している。塗装した時期は不明(1997年阪神大震災以降)である。
塗装面を観察すると、下地のコンクリートのひび割れが現在も進行中で、ひび割れ幅の変動が塗装面にも伝わり、塗装面にもひび割れが伸展しているのがわかる(写真2)。表面被覆工法は、ひび割れ補修を目的として適用されることもあるが、0.2mm以上のひび割れがある場合、表面被覆工法のみでは不十分であり、ひび割れ注入などの補修工法を併用する必要がある。
一般的に表面被覆工法はプライマー、パテ、中塗り、上塗りの4工程で行われる。中塗りの材料としては付着性、耐アルカリ性に優れたエポキシ樹脂が使用されることが多い。ただ、紫外線により劣化しやすいので、上塗りとして耐候性の大きいフッ素樹脂を使用することで解決している。
エポキシ樹脂のもう一つの弱点として、低温下で剛性が高くなり、伸びが小さくなるという性質がある。このため塗料メーカ各社では、エポキシ樹脂に添加剤を加え変性した材料を市場に提供している。これらは商品名として弾性エポキシあるいは柔軟型エポキシ樹脂などの名称を用いている。表1は表面被覆材のひび割れ追従性に関する評価方法と評価基準であり、表2はある塗料メーカのカタログから抜き出した性能であるが、どちらも試験温度が明示されていない。なお、JSCE-K 532では表面被覆材のひび割れ追従性試験は図2に示す試験体を用いていて、常温は20±2℃、低温は5±1℃である3)。
図3は試験体を引張った状態であり、⊿wは表面被覆材の伸びである。表2から低温状態の塗料は硬くなり、伸びにくくなることがわかる。このことは、塗料が低温ではひび割れに追従しにくいことを示している。実際に使用する現場では気温は氷点下になることがあるので、さらに伸びなくなり、下地コンクリートのひび割れに対し被覆膜(塗料)は追従せずに破断する。材料の性能を正しく把握するために、材料メーカはカタログに、氷点下のデータも示すべきである。
さらに、この人道トンネルから100m程度離れた位置には市道として利用されているボックスカルバートがあって(写真3)、側壁コンクリートの打継ぎ目には大きな空洞(幅60cm、高さ20cm)がある(写真4)。ひび割れだけでなく、豆板(ジャンカ)などの欠陥部は中性化の進行が早まるので、早期の断面修復が望まれる。欠陥部は通常、劣化したコンクリートを除去し、鉄筋の腐食があれば鉄筋の裏側まではつり取り、錆を除去して防錆剤を塗り、無収縮モルタルや樹脂モルタル等を充填し、さらに表面を被覆する。経年の観察後に、最適な方法で設計する予定なのだろうが、早めに補修することが望ましい。
中性化を抑制するために、予防保全として新設時のコンクリートに表面被覆工を行うことは効果があることは知られているが、実際には普及していない。ただ、塩害の恐れがある海岸付近のコンクリート構造物に対し、設計段階で表面被覆工を採用する事例が増えてきている。また、雪の多い地方では、凍結抑制剤による塩害防止を目的に、設計当初より道路橋の桁の端部や橋台に、表面含浸工法(シラン系含浸工法等)が採用される事例が増加している。塩害に対する対策が進んでいるのは、中性化と異なり事例も多く、塩害の発生を確実に予測できること、範囲を限定して予防できることがあげられる。
これに対し中性化は予測が難しく、ひび割れが発生した時点で表面被覆工法が検討されることが多い。表面被覆工法が選定された場合、0.2mm以上のひび割れに対し、注入工法などの処置を行う。0.2mm以下でもひび割れ幅の変動が大きい場合には図4に示すようにひび割れを絶縁材でカバーすることで塗料の伸びを有効に活用できる。塗料については、メーカのカタログを吟味して、現場環境に合ったものを選定することになるが、「氷点下での伸び」に対し、決め手になるような塗装材はまだ開発されていない4)。また、注入工法によりひび割れの修復を完了しても1年後に別な箇所でひび割れが発生することがあるので定期的な追跡点検が必要である5)。
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