「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2020/11/30
軟弱な粘性⼟が堆積している地盤では、盛⼟等による荷重の載荷、地下⽔のくみ上げ等に伴う地下⽔位の低下によって⽣じる圧密沈下が問題になることがあります。圧密とは、「飽和した粘性⼟が静的荷重を受け、時間遅れを伴って間隙⽔を排出しながら体積が減少し、密度が増加して強度が増加する現象」のことです。ここで静的荷重とは、上で⽰した荷重の載荷や地下⽔低下にともない地盤の有効⼟被り圧が増加することを指します。
圧密を原因とした地盤沈下の被害としては、直接基礎で⽀持された構造物の不等沈下、杭基礎で⽀持された構造物に⽣じる構造物と地盤との段差等があります。例として橋台の取り付け部の段差(写真1)、建築物⼊⼝に発⽣する段差(写真2)を⽰します。写真1は、杭基礎で⽀持された橋台の取付け部ですが、橋台背⾯盛⼟部分の沈下よって段差が⽣じて、補修を繰り返した結果、⾞⾼の低いスポーツカー等は橋を通過する際に⾞体の下を擦りそうな状況になっています。写真2は30年以上前に建設された杭基礎で⽀持された建物ですが、竣⼯当初から⼊⼝に段差ができるたびに階段の増設を繰り返しており、沈下量は80cmを超えています。このように圧密沈下は、⼈々のくらしに影響を与えるだけでなく、補修に費⽤がかかることも問題になります。
上記の写真が撮影された地区では、2011年東⽇本⼤震災の後に杭基礎で⽀持された建物の⼊り⼝付近に段差が⾒られました(写真3)。この段差は地震の約1か⽉後にはおよそ5cmありましたが、その後、徐々に⼤きくなっているようでした。周辺で測定された地盤⾼のデータからは、地震発⽣の前には圧密による沈下は収束する傾向がみられましたが、地震を契機として10cm程度の沈下が発⽣し、その後も年間1cm前後の沈下がみられるようになりました1)。
地震の後に発⽣する地盤沈下については、緩い砂地盤の液状化現象が有名です。液状化が発⽣すると、砂の噛み合わせが外れて、砂粒が浮いたような状態となり、その後砂が沈降して余分な間隙⽔が排⽔されることで沈下が発⽣します。東⽇本⼤震災の浦安市の埋⽴地で⾒られたように、砂を巻き込みながら地上に吹き上がってくる噴砂現象が起こると沈下がさらに⼤きくなります。液状化による沈下量は、砂層の厚さのおおよそ3~5%に達するとされています。例として層厚10mの砂層であれば30~50cm沈下する計算になります。
⼀⽅、写真2の建物周辺で⾏ったボーリング調査結果を図1に⽰しますが、粘性⼟が主体で液状化を起こすような砂層は認められず、地震直後に砂や⽔が噴き出てきたという証⾔もありませんでした。この沈下のメカニズムを調べるために、図に⽰した表層に近い有機質シルトから1つ、その下のシルト層から2つの乱れの少ない試料をサンプリングして、地震の揺れに相当する⼒を⼟に与えた後、沈下量を測定する⼒学試験を実施しました2)。具体的には、粘性⼟供試体を原位置の⼟被り圧で圧密した後、⾮排⽔条件で繰返しせん断を⾏いました。その後、排⽔条件に切り替えて供試体から排⽔される間隙⽔の量を測定しました。その結果、N値が1~3の軟弱なシルト層では沈下が発⽣することがわかりました。この実験結果から予測した沈下量は、現場でみられた沈下量と概ね⼀致することも確認できました。さらに、この沈下は今後数⼗年間継続するという試算結果も得られました1)。
これに対して、表層のピートに近い性状を持つ有機質シルト層はほとんど沈下しないことがわかりました。沈下発⽣の有無の違いは、粘性⼟の圧密状態の違いによるが影響していました。具体的には、シルト層は過去に受けた先⾏圧密応⼒と現在の有効⼟被り圧がほぼ等しく正規圧密に近い状態にあり、有機質シルトは先⾏圧密応⼒が有効⼟被り圧よりも2倍ほど⼤きい過圧密状態になっていました。⾔い換えると正規圧密状態に近い粘性⼟は軟弱で柔らかい粘性⼟、過圧密状態の粘性⼟は硬く締まった粘性⼟に相当し、正規圧密に近い粘性⼟ほど地震によって沈下が発⽣しやすいことになります。
冒頭で「静的荷重」により粘性⼟の体積が減少する現象を圧密沈下と説明しましたが、本来の定義からすると圧密とはいえないかもしれませんが、地震のような「動的荷重」でも粘性⼟は沈下することになります。地震による粘性⼟地盤の沈下の例はそれほど多くはありませんが、軟弱な粘性⼟地盤が堆積する地域において確認されているようです。また砂と違って粘性⼟は透⽔性が低いため、沈下が⻑期にわたって少しずつ発⽣する傾向があり、気づいていないことが多いかもしれません。皆さんの周りで原因がよくわからない地盤沈下がみられ、かつその場所が軟弱な粘性⼟が堆積している地域の場合には、地震による粘性⼟地盤の沈下について疑ってみてもよいかもしれません。
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