「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2020/12/25
コンクリート構造物の継目は、打継目と伸縮目地およびひび割れ誘発目地に大別される1)。打継目は、硬化したコンクリートに接して新たにコンクリートを打ち込むことによって生じる新旧コンクリートの境目のことであり、水平打継目と鉛直打継目とがある。伸縮目地は、環境温度の変化によるコンクリートの伸縮を吸収するためのものであり、ひび割れ誘発目地はコンクリートの体積変化などによるひび割れを所定の位置に誘発するためのものである。水平打継目のトラブル事例と施工上の留意点については既報2)のとおりであるので、ここでは、鉛直打継目の施工方法の種類および留意点について紹介する。
コンクリートの打継目に求められる性能には、構造的安全性と物質の透過に対する抵抗性がある。打継目は、外力の作用に対して弱点となりやすい。特にせん断力に対して弱点となりやすいので、できるだけ新旧コンクリートの一体性が確保できるように施工するとともに、せん断力が小さい位置に設けるようにするのが基本である。やむを得ずせん断力の大きな位置に打継目を設ける場合には、「ほぞ」または「溝」などの突起を造るか、鋼棒(ダウエルバー)を配置してせん断力を確実に伝達できるよう補強しなければならない。
また、打継目は水、酸素、塩分など鉄筋腐食に対する有害物質の透過に対して弱点となり易い。そのため、打継部分に鋼材が配置されている構造物あるいは水密性が要求される構造物では、これらの物質の透過に対する抵抗性に優れた構造にする必要がある。
コンクリートを鉛直に打ち継ぐ場合には、水平打継目と同様、既設コンクリート表面を粗に処理した後、その面を十分に吸水させることが基本である。鉛直打継目および水平打継目の施工方法には表-1に示すような種類があり、要求される打継目の性能や施工条件を考慮して適切に選定することが重要である。以下に鉛直打継目の施工方法および留意点について記述する。
①打継面のせき板に凝結遅延シートを設置する方法(図-1)
コンクリートの施工に際し、打継面となる妻型枠のせき板に凝結遅延剤を浸み込ませたシートを貼り付けておく。凝結遅延剤の作用によりシートと接触している表層コンクリートの凝結時間が大幅に遅延し、型枠の取り外し後に高圧洗浄水によりコンクリート表層部を取り除くことで粗面に仕上げる方法である。水で洗い流すだけで骨材を露出することができるため、洗い出し仕上げとも称されている。
②打継面のせき板に凹凸状の樹脂シートを貼り付ける方法(図-2)
コンクリートの施工に際し、円錐台形の凹凸(高さ数mmから10mm程度)を有する樹脂製の突起シートを打継面となる妻型枠のせき板面に貼り付け、それによって型枠の取り外しと同時に粗面を形成する方法である。打継面の全面に均一な粗面を容易に得ることができるのが特徴であり、チッピング処理と同程度の打継強度が期待できるとされている。
③打継面の型枠に金網を用いる方法(図-3)
コンクリートの打継面となる妻型枠のせき板に代えて金網(ラス)を用いることで、施工の合理化と打継処理の省略を図る方法である。ラス型枠工法とも称されている。網目が5mm程度の金網とそれを支える鉄筋、形鋼あるいは桟木を組み合わせて妻型枠とする。金網は粗骨材の漏出を防止することができるが、モルタル分が漏出し易いので、できるだけスランプの小さなコンクリートを使用することが望ましい。なお、モルタル分が漏出した場合には、新たに打ち込むコンクリートとの付着を阻害するおそれがあるので、打ち継ぐ前に確実に取り除く必要がある。仕上がり面が粗面となるため新たに打ち継ぐコンクリートとの一体性を高めることができる。ただし、かぶり部に金網がある場合には、それを残置しないよう、打ち継ぐ前に取り除かなければならない。
④打継面の型枠にエアフェンスを用いる方法
ゴム製あるいはプラスチック製のチューブを複数連結させて、その中に空気を充填させたエアフェンスを妻型枠とし、コンクリートが硬化した後に、空気を抜くことで取外しができる工法である。脱型した面は大きな凹凸となるため、新旧コンクリートの付着が良好になる。金網に比べて凹凸は緩やかであるが、モルタル分の漏出が少ないのが特徴である
①はつりによる方法(チッピング処理)
硬化したコンクリート面を粗にする方法として、せき板を取り外した後に、表面をハンマーや電動ピックなどではつる方法である。コンクリートに衝撃を加えて削ったりはつったりするので、粗骨材を緩ませたり、微細なひび割れを発生させる懸念があるので3)、慎重に行わなければならない。
②ショットブラスト工法
ショットブラスト工法は、鋼球(粒径0.01mmから数mm程度)を硬化したコンクリートの表面に投射して、モルタルを削り取って粗骨材を露出させることで粗面にする方法である。鋼球の投射密度は100~800kg/m2、投射速度は60~80m/秒であり、コンクリートの強度や処理深さに応じてそれらを設定する。
③ウォータージェット工法
ウォータージェット工法は、清水あるいは研磨剤を混合した水をポンプ圧力によってノズルからコンクリートの表面に対して噴流させて粗面にする方法である。ノズル径は0.1~2mm、吐出圧力は70~150MPaである。なお、吐出圧力を大きくすることでコンクリートのはつりや切断にも適用できることや、チッピング処理とは異なり微細なひび割れが発生しないので、コンクリート構造物の補修工事に多く用いられている。
①セメントペーストやモルタルを塗布する方法
コンクリート表面を粗にした後に、新たなコンクリートを打ち込む直前にモルタルやセメントペーストを塗布して、水密性や一体性を向上させる方法である。モルタルあるいはセメントペーストの配合は、施工に用いるコンクリートの水セメント比以下としなければならない。打継部の引張強度の改善効果の例は表-2のとおりである。
②打継用接着剤を塗布する方法
打継部の一体性を確実なものにしたい場合には、コンクリート表面を粗にした後に打継用のエポキシ樹脂あるいはポリマーセメント系などの専用の接着剤を塗布するのが効果的である。接着剤の種類や気温などによって打継ぎ可能な時間が異なるので注意が必要である。
③止水板による水密性の向上方法
一般に、鉛直打継目は水平打継目に比較して新旧コンクリートの一体性を確保するのが難しい。そのため、高い水密性が要求される構造物では、鉛直打継目に塩化ビニル樹脂製や天然ゴム製の止水板あるいは水膨張性止水材を用いることが多い。止水板周辺にコンクリートを打ち込む際には、止水板の折れ曲がり、脱落、移動あるいはコンクリートの充填不良が生じやすいので慎重に行う必要がある。また、水膨張性止水材は、継目を通して浸入してきた水と反応して膨張することで止水性を高めるものであるが、止水材のかぶりが小さいと膨張圧によってコンクリートにひび割れを発生させるおそれがある。一般に、水膨張性止水材は、コンクリート表面より100mm以上、あるいは鉄筋より100mm以上の内部に設置する必要があるとされており、メーカなどの信頼できる資料に基づいてその設置位置(必要なかぶりなど)を確認しておく必要がある。
土木遺産を訪ねて
2024/10/01
今回の歩いて学ぶ土木遺産は、兵庫県境に位置する岡山県備前市三石にある煉瓦拱渠群です。最寄り駅はJR山陽線の三石駅で、今回の行程は、ここをStartとしますが、煉瓦拱渠群は現在も...
現場の失敗と対策
現場の失敗と対策
今月の一冊
2024/10/01
明治時代の洪水被害を契機として、首都圏を水害から守るべく計画された人工河川「荒川放水路」は、100年の歴史の中で一度も決壊することなく、首都・東京の発展を支えてきた。...
コラム
Copyright © 2013 一般財団法人 建設業技術者センター All rights reserved.