「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2021/03/30
鉄筋継手は大別すると重ね継手、ガス圧接継手、機械式継手、溶接継手に分類できる。さらに機械式継手には、ねじ節鉄筋継手、モルタル充填継手、端部ねじ加工継手、鋼管圧着継手、鋼管圧着ねじ継手、併用式継手がある(図1)。鉄筋継手としてD16以下の鉄筋は重ね継手を使うのが一般的であり、建築工事で用いられる鉄筋コンクリート構造配筋標準図によれば「D29以上の異形鉄筋は、原則として、重ね継手としてはならない。」と書かれている。2000年5月の建設省告示1463号「鉄筋の継手の構造方法を定める件」により、重ね継手以外の継手は同列に取り扱われることとなった。
日本鉄筋継手協会が調べた施工実績2)を見ると、近年、鉄筋継手が使用される件数は減少している(図2)。さらに、2000年に重ね継手を除く鉄筋継手の90%はガス圧接、7%が機械式継手であったものが、2019年にはガス圧接が70%に減少し、機械式継手は30%と増加していることがわかる。土木工事における実績を抜き出したものが図3であり、2000年にはガス圧接が機械式継手の2倍以上使用されていたのに対し、2010年から2019年にかけガス圧接と機械式継手がほぼ同数になっている。
機械式継手のうち「ねじ節鉄筋継手」は、鉄筋として一般的に用いられている異形鉄筋の代わりに「ねじ節鉄筋」で組み立てておく必要がある。「端部ねじ加工継手」は異形鉄筋の端部を機械加工する必要があるため、現場での鉄筋組立作業よりプレキャスト部材、鉄筋先組み工法の鉄筋の接合に使用されることが多い。これらに対し「モルタル充填継手」は異形鉄筋の突合せ部にかぶせたスリーブ内に無収縮モルタルを注入するものであり、「鋼管圧着継手」は異形鉄筋の節とスリーブを特殊なジャッキで圧着するものである。また「鋼管圧着ねじ継手」は圧着されたスリーブ相互をボルトにより接合するもので、「併用式継手」は例えば「ねじ節鉄筋」と「鋼管圧着継手」を併用したものである。「機械式継手」が設計段階から採用される事例は少なく、工事発注後に施工承諾や設計変更の手続きを経て現場で採用されているのが現状である。
機械式継手のほとんどが、スリーブまたはカプラーと呼ばれるパイプ(接合治具)の中に鉄筋を挿入し、そのすき間にグラウトを注入するものである。工法の種類が多く、それぞれについて施工方法や留意事項が異なるので、ここでは実績の多いねじ節鉄筋継手を例に説明する(図4)。
① あらかじめ鉄筋の端部からカプラーの1/2の長さの位置にペンキでマーキングする。一方の鉄筋に、鉄筋の端部が露出するようにカプラーを設置する。
② 鉄筋を突合せ、カプラーを回転させ、カプラーの中央部が鉄筋の突合せ位置になるように被せる。
③ エポキシ樹脂などの有機系グラウトをカプラー側面中央の注入孔より注入する。(無機系のグラウトを注入する方法もある。)
このように、カプラーの端部が挿入マークの所定の範囲にあることを確認することで鉄筋の挿入長さが適切であることと、グラウトがカプラーの両端から漏出していることを確認するだけで品質を管理できるため、ガス圧接継手や溶接継手と異なり、作業資格を必要としない。
検査については、これらの外観検査と超音波検査があるが、詳しくは仕様書3)を読んでいただきたい。
ガス圧接継手は、鉄筋端面どうしを突き合わせ、その周囲を酸素アセチレン炎で加熱し、鉄筋端部を赤熱状態にすると同時に軸方向に圧縮力を加えながら接合する。ガス圧接継手はコストが安いことから、最も一般的に使用されている。ガス圧接継手の継手性能を確保するためには、サンダーによる端面処理、適切な加熱と加圧が重要であり、それらの作業が作業員の経験に左右されるため、作業員の技量が重要となる。作業に求められる技量についてはJISに定められている4)ので参照されたい。
鉄筋の圧接部の検査は、外観検査と超音波探傷検査によって行う5)。従来は超音波探傷ではなく引張試験を行っていたが、①超音波探傷検査の有効性が証明されるようになったこと、②引張試験は実際に構造物に使用される圧接部を検査しているわけではないこと、③引張試験は試験結果を得るのに時間を要することなどから、引張試験は超音波探傷検査に変わった。ただし、建築工事の仕様書6)によってはいまだに「引張試験を行う。」「超音波探傷試験は引張試験と併用すること。」と書かれているものもあるので、案件ごとに特記の記述を発注者と確認する必要がある。
古い話になるが、配水池の柱鉄筋D29を圧接していた時に発生した事例を紹介する。仕様書6)により、検査は圧接箇所数200につき5本を試験片として抜き取り、引張試験を行い、すべての試験片の引張強さが母材の規格値以上かつ圧接部の破断が無いときにそのロットを合格と判定する。なお1班で作業できる1日当たりの圧接箇所は約200であり、圧接作業を始めた日の夕方に監督員の立会で外観検査を行い、試験片を抜き取った。試験片は近くの建材試験センターに持ち込んで引張試験を行ない、合格したら翌朝、柱のフープ筋を巻き、配筋検査を受け、翌々日には型枠の組立てを開始するというタイトな工程であった。
引張試験では通常、図5に示すように母材が破断するのだが、ある時、1本の試験片が図6のように圧接部で破断した。破断面を観察すると、炭化した木くずのようなものが確認された(図6、A-Aの拡大断面)。圧接を担当した作業員の話では、1回だけサンダーがけした鉄筋を足場板にあずけたことがあるとのことで、そのときに木くずが付着したと推察された。
翌朝、監督員と協議し、新たに10本の試験片を抜き、再度引張試験を行なうことにした。その結果、全て母材から破断し、引張強さは母材の規格値以上であった。ただし、監督員はこれでは合格とせず、L=2.5mの添え筋をすることで納得してもらった(図7)。この補強方法が適当であったか否かは疑問が残るが、その後の工事を続けることができた。
国土交通省は2015年12月より土木分野における建設現場の生産性向上を目指して「i-Construction」を推進している。推進にあたっては「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化)」を目玉の一つとして位置づけ、要素技術の一つである「機械式鉄筋継手工法の導入」により鉄筋工数は15~20%、工期は20~30%程度削減可能としている。継手材のコストは高いが、工事期間の短縮による現場管理費の削減などトータルコストは削減できるという試算もある。鉄筋の継手に関し、このような背景から土木分野では、機械式継手に追い風が吹いているようである。
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