「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2021/08/30
2011年の東日本大震災では、港湾施設ばかりではなく、液状化による民家の被害が各地で生じた。公共施設の場合、施設の重要度に応じて予算が配分され、液状化対策が施される。家は個人の資産であるため、なかなか公的資金による対策は難しいが、浦安市や札幌市のように街全体の液状化対策に取り組む自治体もでてきて画期的なことといえよう。
さて、自分の家が液状化すると分かったとき、どうすればいいのだろうか?
①地震保険に入る、②更地にして、液状化対策をしてから家を建て替える、③家は新しいのでなんとか被害を免れる対策をする。いろいろなケースが考えられるが、このコラムでは③を中心に考える。
なお、①の地震保険だが、火災保険とは異なり、損害額を補償するものではなく、地震による被災後の生活を安定させるためのもので、火災保険の保険金額の3~5割にとどまることに注意が必要だ1)。
それでは、すでに建てられた構造物の液状化対策にはどのような方法が用いられるのだろうか?公共の施設では、直下地盤が液状化する場合、おおよそ2つの方法がとられる。ひとつは地盤の中にセメントミルクを圧入して、緩い砂地盤を静的に締め固める方法(CPG工法)である。もう一つは溶液型の薬液を基礎の下に浸透注入して、地盤内の水分をゼリー状に変える溶液型薬液注入工法である。CPG工法は浦安市でいくつかの民家に使用された実績があり、溶液型薬液注入工法は札幌市清田区里塚で地区全体の対策に使用された実績がある。
これらの方法に一つ問題があるとすれば、施工価格である。仮に10m四方の家で、液状化層厚が5mの場合、改良しなければいけないボリュームはおおよそ500m3である。前述のCPGも薬液注入も大雑把にいって3~5万円/m3くらいだから、一家屋あたり1500~2500万円くらいの高額な施工費になる。
実は3つめの既設構造物の対策方法に、排水ドレーンを打ち込む過剰間隙水圧消散工法(DEPP工法)というのがある。DEPP工法を用いた東京湾内の岸壁が東日本大震災の被害を免れたことから、この工法の効果が見直されている。写真-1は施工当時の状況。写真-2と3は東日本大震災直後の岸壁の状況で、未対策の排水溝より左側は舗装面が破壊されているのに対し、ドレーンを打設した右側は全く損傷なく、もちろん岸壁にも変形もなかった。ただし、このドレーン、写真-1のように、地盤の深部まで55cmピッチで打設されている。
ここ数年の研究で、偏荷重が小さい平らな地盤では、深部まで液状化対策をしなくても、地表より3~5mをドレーンで改良すれば、地表部の大変形を防げることが分かった3)。液状化防止ではなく地震時のボイリング(噴砂)被害を減じる方法だ。大まかにいえば、直径8cmくらいの排水ドレーンを地盤表面から3~5mくらいの深度まで1.5mピッチで打ち込むものだ。CPG工法や薬液注入工法のように地震時の液状化を防ぐことはできないが、地盤の排水性を改善できるので、水圧上昇に伴う噴砂、それにより生じる大変形を防ぐことができる。少しだけ沈下するのが難点ではあるが、被害は低減される。
この方法を上述の「②更地にして対策」に適用するのであれば、10m×10mで長さ5m,直径8cmの円柱ドレーンを36本打設するとして、100万円程度で済む。液状化の恐れのある敷地にこれから家を建てる方、あるいは建て替える方にはおすすめの施工方法である。
問題は、「③今住んでいる場合」である。現状では有効な設計法もなく、36本ものドレーンを家の直下に打設することもできない。そこで提案である。ドレーンを打設すれば、地震時の過剰間隙水圧を逃がせることは事実だ。とすれば、家の外周から排水ドレーンを家の真下に向けて打設したとして(図-1参照)、16本。ドレーンの地表部には排水を妨げないように、地震時の水圧で外れる蓋をつける。完全な方法ではないが、家の直下の過剰間隙水圧を逃がすことができれば、液状化の被害を減らせることは確かである。繰り返すが、この方法には実績がないし、液状化を防げるわけではない。もし私の家が液状化すると分かった場合に、私がとるであろうベストな方法だ。液状化被害を減じる、コスパのいい方法ではあるが、安いからといって、実績のない業者に頼むと、ドレーン打設によって家が傾いたりすることがあるので、これも注意が必要である。
(編集委員H)
【文責:「現場の失敗と対策」編集委員会】
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