「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2022/2/25
毎年のように、強風による足場の倒壊事故が報道されている。これらの事故は、建設現場における足場が鉄道線路の上に倒れて鉄道が運休したり、道路に倒れて通行人に被害があった事例で、社会問題として取り上げられたものであるが、実際には数多くの報道されない事故がある。
足場倒壊(図1)の主な原因は強風であり、足場の外側を防音シート、メッシュシート等で覆っていたために、大きな風荷重を受けたというものである。強風の恐れのある時は、シート等の養生材を早めに撤去し、風を逃がしていれば足場の倒壊に至らなかったかもしれない。その他にも足場の解体途中で壁つなぎを外していたケースとか、建物の解体工事において、解体中の壁が傾いて外周の足場に接触したという事例もある。
足場の倒壊を防ぐために、労働安全衛生規則1)では「高さ5m以上のわく組足場にあっては壁つなぎ又は控えを設けること。」とされていて、壁つなぎ又は控えの間隔は表1に示された値以下とすることとされている。
ところが一般社団法人仮設工業会が発行している技術基準2)によれば表1に規定されている壁つなぎの間隔はわく組足場の鉛直荷重による座屈防止を目的としたもので、「風荷重が作用する場合には、風荷重による壁つなぎの強度検討が必要である。」とある。残念ながら法律には風荷重を考慮した目安の数字が書かれていない。
また、労働安全衛生規則1)には壁つなぎ又は控えについて「 引張材と圧縮材とで構成されているものであるときは、引張材と圧縮材との間隔は、一メートル以内とすること。」と書かれている。壁つなぎには図1のように足場が外側に倒れようとするのを、建物から引き止めようとする金具(引張材)と足場が建物側に倒れるのを建物から押し戻そうとする金具(圧縮材)の2種類が必要になる。実際の現場では図2に示すような引張耐力と圧縮耐力を兼ね備えた壁つなぎ金物が使われている。この金物は一端がクランプ、もう一端が雄ネジ形状となっている。クランプ側はジャッキ機構となっていて、足場と建物の離れによって長さを調整することができる。商品によって異なるが、圧縮・引張強度は4.41kN/本である。
浄水場や下水処理場など土木工事におけるコンクリート構造物の外周に組み立てる足場の高さは、たて枠を4層~5層使用していることが多い。たて枠の高さを1.8mとすると7.2m~9mということで、表1に照らしてみると壁つなぎは垂直方向に1箇所必要ということになる。
構造物の構築中、外周に設置する足場の高さは、スラブの高さより50cm程度高いか、50cm程度低い範囲に収まるのが理想である。最上階の足場は、スラブコンクリートの打込みの際、左官工以外の作業員が最後に引き揚げる高さであり、高周波バイブレータの本体を置くのに適した高さである。また、保温養生のためにジェットヒータを設置するのに都合の良い高さである。
足場には昇降設備が必要であり、通常は階段枠を設置する。しかしレンタル機材の階段枠は高さ1.8m用のものしかない。このため、足場高さを調整したくても1.2mや1.5m等のたて枠を選択することができない。高さを調整するためには、たて枠の底部にベースジャッキを履かせる方法や、足場の基面に盛土することでも対応できるが、そこまでは検討しないのが常である。
RC構造物に壁つなぎを設置する場合には、あらかじめコンクリートにインサートを取り付けるか、セパ穴を使用することも多い。建築の外壁修繕工事等では、ハンマードリル等により躯体に穴を開けて打込み式アンカーを打ち込んで設置することが多い。壁つなぎは構造物と直角方向に、かつ、たて枠の支柱に取り付けねばならないが、取付け位置によってはたて枠間に単管パイプを渡し、そこに壁つなぎ材を緊結する。
さて、たて枠を4層~5層組み立てる場合、感覚的にも最上部に壁つなぎを設置すべきと考えるが、スラブコンクリートの施工のために、周囲は型枠で囲われている。つまり、スラブコンクリートの天端から2m程度下までは型枠があるためにアンカーを設置することはできない。そこで地上から一番目の壁つなぎはおおよそ9m-2m=7mの高さに設置することになる(図3)。これは表1に示す9m以内を満足している。
以上は垂直方向の話だが、水平方向の壁つなぎは通常7.2m(たて枠を設置する寸法1.8m×4スパン)間隔で計画する。なお、両端部は構造物の端から1m~2m程度に配置するのが望ましいが、あくまでも設置間隔は7.2m以内とする。
強風の恐れがあるときは根がらみの補強を行い、たて枠の外側に設置されたネットやシートはたたんだり、外したりすることで風を逃がし、風の影響を少なくすることが重要である。
日常行っていることだが、再度足場を点検することも重要である。壁つなぎは足場の最上段に設置できているか、壁つなぎは壁と直角に取り付いているか、抜けそうな壁つなぎは無いかなどである。アンカーボルトには多くの施工種類があるが、特にあと施工アンカーとしてケミカルアンカーを用いた場合、確実な施工管理を行わないと必要な強度が発揮できない懸念があり、笹子トンネルの事故を教訓に十分注意して点検する。
このほか足場の点検として、根がらみ・筋違いなどが設置されていること、たて枠の連結ピンが使われていることを確認する。不具合があった場合は、補強等が必要である。
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