「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2022/04/01
壁状のコンクリート構造物に発生するひび割れを制御する方法として、図-1に示すようなひび割れ誘発目地は比較的よく用いられています。コンクリート構造物では、セメントの水和熱や外気温等による温度変化、乾燥収縮などに起因して生じる変形が拘束されてひび割れが発生します。特に壁状構造物では、温度応力によるひび割れが発生しやすい状況にあります。そのようなときに、あらかじめ適切な方法でひび割れ誘発目地を設置しておけば、そこにひび割れを集中させることができます。そして、適切な処置を施すことにより、ひび割れ部の耐久性や止水性、さらには美観を確保させることができます。ひび割れ誘発目地の例を図-2、3に示します1)。ここでは、主として土木構造物への適用を想定したひび割れ誘発目地の設置計画、施工上の留意点について紹介します。
ひび割れ誘発目地の設置計画として重要なのは、目地の「設置間隔」と「断面欠損率」です。これらの計画が十分でない場合は、せっかくひび割れ誘発目地を設置してもその位置にひび割れが発生しない(別の位置に発生してしまう)、ということがよく起こります。
土木学会コンクリート標準示方書2)では、一般的な値として、目地の間隔をコンクリート部材の高さの1~2倍程度にすることが推奨されています。
また、日本コンクリート工学会のマスコンクリートのひび割れ制御指針3)でも、おおよその目安は1回の打込み高さの1~2倍程度、とされていますが、詳細には温度応力解析結果に基づいて決定するのがよい、とも書かれています。さらには、目地は部材形状が急に変化する部分や箱抜きなどによって応力が集中しやすい部分に設置するのが効果的とも書かれています。
一方、日本建設業連合会(日建連)から発行されている資料4)では、以下のようにかなり具体的に紹介されています。
――壁状構造物のひび割れは、壁部の高さとほぼ同じ間隔で発生するので、ひび割れ誘発目地の設置間隔は壁部の高さ以下に設置するとよい。また、ひび割れは壁長さの中心部に発生し、次にその中間に発生する。したがって、ひび割れ誘発目地は奇数配置がよい。――
これらからは、目地の設置間隔は、壁部の高さと同じ間隔かなるべくそれに近い間隔で設置することを基本として、構造物の形状・寸法などを考慮して決めるのがよい、というところでしょうか。
土木学会コンクリート標準示方書2)では、目地の断面欠損率は50%程度以上、が推奨されています。コンクリート標準示方書の一連の改訂経緯によると、2007年改訂において「20%以上」から「30~50%程度」に変更されていましたが、2012年改訂において「50%程度」に変更し、「断面欠損率は50%程度以上とすることで確実に誘発できる場合が多い。」と表現されています5)。この点については、日建連の資料4)でも同様の記述がされています。
一方で、日本コンクリート工学会のマスコンクリートのひび割れ制御指針3)では、誘発箇所での断面減少を40%程度以上とするのがよい、と記載されています。この指針は2016年に改訂されたものですが、コンクリート標準示方書に倣って50%程度以上とはなっていません。
しかし、土木構造物であれば、コンクリート標準示方書に従って50%程度以上の断面欠損となるように計画するのがよさそうであり、50%の断面欠損とするような施工がそれほど難しいわけでもないと思われます。
参考までに、建築構造物の場合は、誘発目地の深さは施工時の実壁厚に対して1/5以上(欠損率20%以上)とされており7)、前記の値と比べるとかなり小さい値となっています。これは、建築構造物では壁厚が比較的小さく、図-2に示すような目地板の設置が難しい場合が多いため、またかぶり厚さを大きくして表面部の溝を深くすることにも限界があるためと思われます。一方で、誘発目地の問隔は3m以下とすること(鉄筋比が0.4~0.5%程度の一般の壁では、辺長比は1.0程度以下、目地間隔は2m程度以下とすることがより望ましい)が記載されています6)。
日建連の資料4)には、施工上の留意点として以下の6項目が紹介されています(一部加筆修正)。
①表面のひび割れを集中させるために溝(化粧目地)を設ける。
②誘発目地はコンクリート打込み中に動かないようにしっかりと固定する。
③断面欠損率が大きいと豆板等が発生しやすくなるので、締固めを十分行う。
④溝(化粧目地)位置と内部欠損部材(目地板)位置がずれていると溝にひび割れが発生しない場合がある。目地板の取付けは鉄筋工、化粧目地の取付けは型枠工が行う場合が多いので、それぞれの取付け時には、取付け位置が図面と合っていることを確認しておく。また、コンクリート打込み前にも両者にずれがないことを確認しておく。
⑤溝(化粧目地)部はひび割れが発生し、ひび割れ幅が大きいと鉄筋が発錆するため、図-4に示すようなシーリングを施工する。
⑥水密構造物で、ひび割れからの漏水、鉄筋の腐食等が予想される場合には、図-5に示すような処置を行う。
ボックスカルバートの壁部に設置したひび割れ誘発目地の例を紹介します7)。この例では、側壁の高さ4mに対して4m間隔でひび割れ誘発目地を配置しています。また、図-6に示すように、ひび割れを確実に誘発するために、ひび割れ誘発目地部の断面欠損率を50%としています。
ここで、ボックスカルバートに特徴的な点として、壁部に誘発したひび割れがそのままハンチ部や上床版へと進展する場合があります。これを抑制するために、ハンチ部付近にひび割れ用心鉄筋を配置しています。ひび割れ用心鉄筋は、誘発目地をまたいで長さ500mm(片側250mm)の鉄筋を用い、配力筋の鉄筋量が鉄筋比で2倍になるように配置しています(配力筋D16と同じ鉄筋径でL=500mmの鉄筋を3段×2列=6本配置)。また、ハンチ部の表面に対しても、ひび割れ用心鉄筋として配力筋の鉄筋量に相当する鉄筋(長さ500mm)を配置し、ひび割れがハンチ部にまで進展することを抑制しています。
この用心鉄筋の設置は、過去の失敗に基づいて経験的に対応し、品質確保に努めようとしたものと思われますが、皆さんも同様の施工の際には参考にできるのではないでしょうか。
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