コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2022/07/01

杭の支持層調査計画のために
注意する必要がある地形・地質

横浜市内の新築マンションにおいて、杭先端が支持層に達していないことが原因で建物が沈下・傾斜して、大きな社会問題となったことがあった。この原因の一つには、支持層として選定した泥岩に傾斜や不陸、風化の進行が予想される区域であったにもかかわらず、事前の調査が不十分であったことがあげられる。本コラムでは、杭基礎を有する構造物の計画をする際に、まず杭基礎の支持層調査を行うにあたって注意すべき地形・地質を示し、次に岩を支持層とする杭基礎のための地質調査方法について、簡単に紹介してみたい。

1. 平野部での注意すべき地形・地質

平野部での杭の支持層未達や支持地盤での支持力不足の問題は、以下の区域で発生している。

①山地近傍の平野境界部区域

・支持層の傾斜、不陸、風化の進行が予想される。

②互層地盤が想定される区域

・薄層支持層の層厚不足による直下の粘性土層の沈下や、支持層内での粘性土層の介在が予想される。

上記の平野部における注意すべき区域について、図示されたものが図-11)である。さらに図-1の土砂供給の多い河川沿岸に位置するE地点付近の断面図を摸式的に示すとともに、予想される問題点について記入したものが図-21)である。計画する構造物が、平野部のどのあたりに位置しているのかをまず認識し、どのような地質が予想されるのかを考えてみることが大切である。

図-1 平野部における注意すべき地形・地質<sup>1)</sup>

図-1 平野部における注意すべき地形・地質1)

図-2 土砂供給の多い河川沿岸での支持層設定の注意点<sup>1)</sup>(図-1のE地点付近)

図-2 土砂供給の多い河川沿岸での支持層設定の注意点1)
(図-1のE地点付近)

2. 岩盤を支持層とする杭基礎の調査時の課題と解決方法

岩盤を支持層とする杭基礎において、しばしば問題となるのは、支持層の傾斜や不陸、風化の進行などの見落としに起因する、支持層未達や支持力不足による杭の沈下である。以下では、岩盤を支持層とする杭基礎の調査時の課題や留意点などを、4項目にまとめて簡単に紹介する。

①岩盤の支持層の評価方法

N値による評価を行う土質ボーリング(ノンコアボーリング)では、岩の支持層の評価に必要なデータが得られない。そのため、岩を支持層とする場合には岩盤ボーリング(コアボーリング)を行い、採取したコアを観察して岩盤柱状図を作成する必要がある。採取したコアにより、生成年代・亀裂・風化を評価して岩盤分類を行った後、岩盤分類に適合した原位置・室内試験を行い、構造物の荷重条件などに応じた支持層を設定する。

②支持層の傾斜などの見分けかた(主に予備調査段階)

1)支持層の傾斜、不陸、風化の進行の可能性の有無の見分け方

岩の支持層深度の変化を把握するための詳細な調査が必要であるか否かの判定を行うため、前述の図-1、図-2に示す杭到達に関して留意すべき地形・地質、沖積平野の形成過程を考慮した地形判読、地形・地質調査、ボーリング調査、物理探査、サウンディングなどを利用して総合的に評価する。

2)地質平面図、地形・地質縦断面図の作成および地質リスクの伝達

調査地の地形・地質状況、支持層深度、支持層の傾斜の可能性の有無、その他注意すべき事項を整理した地質平面図、地形・地質縦断図を作成する。地層線および支持層線は、ボーリング間で連続性が不確実、傾斜や不陸が想定される場合には、破線などによる表現とし、設計者や詳細調査技術者に地質リスクとして確実に伝達する。

③詳細な調査方法

岩の支持層の傾斜、不陸、風化の進行の可能性がある場合の詳細な調査方法としては、ボーリング、物理探査およびサウンディングなどを支持層の特性に応じて計画する。計画の一例を図-32)に示す。計画地を含んだ広域の地形地質を評価しながら支持層の深度の変化を的確に把握できる調査計画を立案する。各調査方法の特性の比較を図-41)に示す。支持層の深度に応じて適切な調査方法を組み合わせて、各方法の調査精度を踏まえて評価する。
例えば支持層が土丹でN値50以下、深度が15~20m程度が予想される場合で、調査精度20cmで支持層深度を詳細確認したい場合は、動的コーンあるいはボーリングによる調査が適している。

図-3 支持層の特性に応じた各調査手法の組み合わせ<sup>2)</sup>

図-3 支持層の特性に応じた各調査手法の組み合わせ2)

図-4 各種調査方法の比較<sup>1)</sup>

図-4 各種調査方法の比較1)

④地質リスク情報の適切な伝達方法

岩盤の支持層評価確認の地質リスク情報を、チェックシートなどを活用して適切に伝達する。

1)予備調査段階

地形判読、空中写真判読、および地形・地質踏査による支持層に関する評価結果、帯付縦断図(地質縦断図、地形図、地形分類図を記載し、地質縦断図の側線に合わせて地形区分、地質構成、岩盤の支持層に関する所見を明記した帯枠を併記したもの)、微地形区分図(地形地質踏査の結果をふまえた小規模で微細な起伏をもつ地形を記載)、および地質平面図の作成などをチェックする。加えて、本調査計画の立案についてもチェックする。

2)本調査段階

まず計画段階において、構造物基礎計画位置での現地踏査の計画、同位置での調査ボーリング・物理探査・サウンディング等の計画立案がなされているかをチェックする。次に調査実施段階において地質リスクを評価するための本調査が問題なく実施されているかを確認する。支持層の変化が激しい場合等の追加調査の必要性についても検討する。成果品のとりまとめ段階では、岩盤の支持層の設定に関する所見を記載した地質縦断面図、横断面図を作成する。併せて岩盤の支持層の設定に関する設計・施工上の留意点、追加調査の必要性について記載し、本調査においても解明しきれなかった地質リスクについて、本設計時や施工時に行うべき追加調査があれば申し送り事項として具体的内容について言及する。

なお、本コラムで述べた杭の支持層調査に関する詳細資料として、全国地質調査業協会連合会(全地連)の「構造物の安全性・信頼性向上のための調査計画ガイドライン(案)」3)、「岩を支持層とする杭基礎の調査法」に関する検討委員会報告書(案)2)などがあり、全地連ホームページ(https//www.zenchiren.or.jp/geocenter)で紹介されているので、参考にしてほしい。

参考文献
  • 1) 全地連ガイドライン等における杭の支持層調査の紹介 柳浦良行 基礎工  2017 Vol.45,No8 p90~p91
  • 2) 「岩を支持層とする杭基礎の調査法」に関する検討委員会報告書(案)平成29年1月   一般社団法人全国地質調査業協会連合会 p29
  • 3) 構造物の安全性・信頼性向上のための調査計画ガイドライン(案)-注意すべき地形・地質に対する調査計画ガイドライン- 2015年3月  一般社団法人全国地質調査業協会連合会

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