「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2016/11/29
今回新たに「現場の失敗と対策」に紹介された事例は、山留め壁の根入れのための岩盤上面の高さが想定と実際で異なっていたことが原因で生じたトラブルです。これとよく似た事例は学会でも発表されていました。具体的には河川近傍の橋梁下部工工事の土留め工において、岩盤高さが設計の想定よりも約2m 深かったために根入れが十分に確保できず、掘削時に異常出水したものです1)。土留めとは異なりますが、横浜市内のマンション建設現場において杭基礎が支持層に到達していなかったトラブルは記憶に新しいと思います。これも支持層上面の高さの変化を事前に把握していなかったことが原因のひとつと考えられています。このように支持地盤面の高さが現場内で複雑に変化していることはよくあることですが、敷地内のボーリングデータ数が限られていることもあり、その変化を事前に把握することはなかなか難しいと思います。
この支持地盤面の凹凸はなぜできたのでしょうか。支持地盤面がかつて地表面として露出していた太古の昔(数万年から数百万年前)、川は今よりも蛇行して流れ、段丘地形や谷地形が複雑に発達していました。すなわち流水の作用によって、地盤は削られて無数の溝が大地に刻まれていました。その後、長い年月をかけて、この地形を覆い隠すように砂や粘土等が堆積して現在の地形が形成されました。
さて、この支持地盤面の変化を見逃さないためには、どうしたらよいでしょうか。図1 は福島県いわき市中心市街地の支持地盤註)までの深さのコンターマップです。このマップは、公開されているボーリング柱状図2)および自治体から入手した追加データをもとに、位置情報(緯度、経度)および支持層までの深さの3次元データをコンター(等高線)として表示したものです。なお、図中の赤丸がボーリング地点です。昔の谷が樹枝状のパターンで発達しており、谷の部分には柔らかい層が厚く堆積していることが読み取れます。谷地形が現場の地下にあれば、当然、支持地盤は傾斜している可能性があります。その傾斜を把握するためには、敷地内のボーリング調査地点を増やしたり、周辺地盤データを収集・追加してコンター図を作成することで、支持地盤の凹凸を把握することができます。また、基礎工事を行っていれば、施工から判断される支持層の深さをデータとして追加することでコンターマップの精度がさらに向上します。このように支持地盤のアンジュレーションが頭に入っていれば、先に述べた失敗はかなりの確率で回避できたのではないかと思います。ただし、自分は地盤の専門家ではないのでよくわからないという方は、ボーリングを行った地盤調査会社と事前に綿密に打ち合わせをして下さい。その土地の成り立ちや現場周辺の地盤に関する詳しい情報(ボーリングデータ、地盤図)を持っているはずです。
さて、既存のボーリングデータが役立つことは理解いただけたと思います。国内工事で得られた膨大な数の既存ボーリングデータはどうなっているのでしょうか。公共工事で実施したボーリングデータは、国民の貴重な財産であるという考えから、国(国土交通省)は国土地盤情報検索サイト(kunijiban)3)でデータを公開しています。 一方、県や市町村等の地方自治体では、様々な事情から公開はごく一部の自治体に限られています。その結果、膨大な量の貴重な地盤データは役所に納品された後、一定の期間が過ぎると、廃棄される運命にあります。筆者が所属する地盤工学会東北支部では、東北地方の自治体に呼び掛けて地盤データを収集し、GIS 上でだれでも閲覧・利活用できるようにしています(図2)4)。この取り組みはまだ進行中ですが、今後、より多くのボーリングデータが提供されて、公開と利活用が進むことで、現場のトラブル解消に貢献できることを期待しています。
註)砂でN 値30 以上、粘土でN 値20 以上が連続して3m 以上連続して存在する地盤
1)近藤、嶋田、橋梁下部工工事における異常出水への対応事例、土木学会東北支部技術研究発表会(平成27 年度)、Ⅲ-20、2016.
2)社団法人福島県地質調査業協会、福島県地盤・地質調査資料集1993.
3)国土地盤情報検索サイト(kunijiban)http://www.kunijiban.pwri.go.jp/jp/
4)とうほく地盤情報システム(みちのくGIDAS)https://tkkweb02.tohokuck.jp/
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