「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2023/01/04
高圧噴射撹拌工法は以下のような特長を持っている。
・コンパクトな施工機械で、狭い場所や高さ制限のある場所でも施工できる。
・地表面の削孔径は小さいが、地中の任意の深さで大口径の地盤改良を施工できる。
・土留壁や地中構造物と密着した地盤改良が施工できる。
近年、大規模な自然災害が頻発する中で、既存の社会インフラ施設の改修や補強工事などにおいて地盤改良技術へのニーズが拡大、多様化している。たとえば、橋脚基礎、河川堤防や護岸、防潮堤、電力施設といった既存構造物の耐震強化や周辺地盤の液状化対策などで高圧噴射撹拌工法の実績が増えている。また、難易度の高い市街地での近接施工などでも高圧噴射撹拌工法への期待は大きくなっている。そして産業廃棄物となる排泥の排出量削減も求められている。
それらのニーズに応えるために高圧噴射撹拌工法は進化してきた。本文では高圧噴射撹拌工法の基本原理を示してから最近の技術革新について紹介してみたい。
高圧噴射撹拌工法は、スラリー状のセメント系硬化材を超高圧(20~40MPa程度)で地中に噴射することによって地盤を切削しながら混合撹拌する地盤改良工法である。
一般的な施工手順に沿ってもう少し詳しく説明すると以下のようになる。
小型のボーリングマシンを用いて、先端に削孔ビットが付いた小口径のロッドで地盤を所定の深度まで削孔したら、回転するロッドの中にセメント系硬化材を超高圧ポンプによって圧送して、ロッド先端部のノズル(噴射装置)からセメント系硬化材を水平方向に噴射し徐々にロッドを引き上げていくことで、所定の改良範囲の地盤を切削しながらセメント系硬化材と混合撹拌して地盤改良体を造成する工法である(図1)。
なお、ロッド先端部から噴射する流体の数によって、セメント系硬化材だけを噴射する単管式(図1)、二重管ロッドを使用して空気を伴ったセメント系硬化材を噴射する二重管式(図2)、三重管ロッドを使用して上段の吐出口から空気を伴った高圧水を噴射して地盤を切削するとともに下段の吐出口からセメント系硬化材を中圧(2~5MPa程度)で吐出する三重管式(図3)がある1),2)。また、発生する排泥を回収するための孔などを持つ多孔管式3)もある。多孔管式は水平方向に地盤改良を施工する場合などに使用される。
二重管式(図2)は、セメント系硬化材の噴射流のまわりに空気を吐出させることで、単管式(改良径Φ1.3m程度)に比べて大口径(Φ2m程度)の円柱状の地盤改良体を造成できる。さらなる大口径化を目指して開発されたのが、相対する2方向の噴射口から大吐出量のセメント系硬化材を噴出する工法である(図4)。1990年代以降には大吐出量の超高圧ポンプ、堅牢な配管、乱れが少なく直進性の高い噴流を生み出す噴射装置などの開発も進み、Φ5mという大口径地盤改良が実用化され、最近では最大改良径がΦ8.5mという事例も報告されている4)。
三重管式(図3)は、上段のノズルから超高圧水を噴射し、下段のノズルからは中圧のセメント系硬化材を吐出するのが一般的である。高圧噴射するのが水の場合には、比重の大きいセメント系硬化材に比べて改良径は小さくなるが、N値50以上の砂層や礫混じり地盤でも概ね一定の改良径が得られるため、シールドの発進・到達防護や立坑の底盤改良によく利用されている。
また、交差噴流式と呼ばれる工法は、地盤の硬さに関係なく一定の改良径で均質な改良体を造成できるという特長を持つ(図5)。
なお、下段のノズルから超高圧の超高圧スラリーを噴射することで、二重管式と同様に大口径化を実現している工法もある。
従来の高圧噴射撹拌工法は、ロッド先端の噴射装置を一定速度で回転させて、円形断面の地盤改良を行うのが一般的であった。それを、ボーリングマシンの制御装置などを改良して、ロッドの回転角度や回転速度をコントロールすることによって、半円形や扇形だけでなく矩形の地盤改良を行うことができる工法も開発されている(図6)。そして多様な改良形状を組み合わせることで必要最小限の地盤改良を行うことができる。
撹拌翼の先端からセメント系硬化材を噴射する高圧噴射撹拌工法も実用化されている。セメント系硬化材を水平方向に噴射する工法(FTJ工法6)など)と交差噴流式の工法(JACSMAN工法7))が実用化されている(図7)。工法分類名としては機械撹拌・高圧噴射併用工法と呼ばれる。
従来の高圧噴射撹拌工法では貫入のために補助工法を必要としていた玉石混じり層やN値が50以上の硬質層に対しても、撹拌翼によって直接貫入することができるため施工の高速化が実現できる。
小型のクローラ式施工機械を使用することで機動性も高くなり、施工ヤードが十分に確保できる現場では経済性も向上する。
2011年東日本大震災以降、操業中の工場、戸建て住宅などでも耐震補強や液状化対策へのニーズが高まり、施工機械の小型化も進んで空頭が2m程度でも施工可能となっている(図8)。さらに小さい施工機械としては、重量が約180kg、高さが約1.2mで人が持ち運べるように工夫された超小型施工機8)も開発されている。
高圧噴射撹拌工法では、地盤条件などによって改良径にばらつきが生じ、しかも施工中に改良径を確認することが難しい。そこで、施工前に設計改良範囲に計測用の管を設置しておき、その計測管の中に音響センサーまたは加速度センサーを挿入してセメント系硬化材の到達を検知するシステム(図9)を利用するケースも増えている9)。測定結果は深度毎の時系列データで表示され、噴射装置(ノズル)の回転速度に応じた一定間隔の波形が得られていることを確認する。試験施工では改良径の異なる複数位置で測定することが多い。
測定管の代わりに棒鋼を設置して、地上に出ている棒鋼の頭部に音響センサーを取り付けて測定する方法もある9)。透明なアクリル管を設置して孔内カメラを挿入して高圧噴射の到達を直接可視化することを試みた事例もある10)。
また、温度センサー(熱電対)を測定管内に設置して、施工完了後24時間の温度変化を計測することによって改良径を判定する方法もある9)。セメント系固化材の水和反応によって熱が発生するので、セメント系硬化材が到達しているかどうかを確認することができる。
高圧噴射撹拌工法は1970年代に日本で開発された地盤改良工法であるが、今も様々な改良開発が続けられており、NETIS( 新技術情報提供システム)に登録されている工法だけでも10件以上ある。本文では最新の技術開発動向を手短に紹介したが、個別の工法の詳しい情報はウェブサイトなどで確認いただきたい。なお、高圧噴射撹拌工法には、狭隘な空間でロッドの着脱など人力作業が多いという課題も残されている。削孔ロッド着脱の自動化なども進められているが、ICT技術やAIを活用した高度な自動化施工技術へのチャレンジにも期待したい。
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