コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2023/02/01

コンクリートに関する
カーボンニュートラルの動き

■カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、フロンなど)の排出量と植林、森林管理などによる吸収量を均衡させることであり(図1)、2020年10月、政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を削減し、吸収量と相殺してゼロにするカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言した。

建設産業の分野でも温室効果ガス、特にCO2排出量の削減が進められている。構造材料として使用量の多いコンクリートに関して、セメントの製造時に発生するCO2の削減と本来コンクリートが有するCO2を吸収する量の増大への取り組みが始まった。

図1 カーボンニュートラルとは

図1 カーボンニュートラルとは

■グリーン調達と高炉セメント

2000年(平成12年)5月に「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」が制定され、公共工事において、グリーン調達を積極的に推進することになった。環境負荷を低減するために省エネルギー、省資源、リサイクル材の使用などの環境配慮を行うことが要求され、国や都道府県等の調達行動において、環境物品等の購入を促進していかねばならないというものである。

2001年に、グリーン購入法において、セメント製造時にCO2の排出量が少ない高炉セメントが特定調達品目に指定された。高炉セメントは①石灰石資源の節約、②省エネルギー効果、③CO2排出量を抑制する効果があるといった特徴がある。当初はコピー用紙としての再生紙に代表されるリサイクル用品(グリーン調達)として扱われることが大きかったように思われるが、今はCO2排出量の抑制効果がクローズアップされている。

高炉セメントは特定調達品目に指定されたことで、土木工事共通仕様書に「無筋・鉄筋構造物(橋梁上部工を除く)で設計基準強度σck=24N/mm2以下のもの及び場所打杭等は、高炉セメントB種を使用するものとする。」と仕様化されるようになった。国および都道府県等は工事の発注時に特記仕様書に高炉セメントB種を指定することで、その使用量は急激に増えている。高炉セメントB種とはポルトランドセメントに高炉スラグを30~60%混合したものである。

■高炉セメントとCO2

セメントを造るには、石灰石や粘土等を高熱で加熱した後で急速に冷却してできるクリンカに、石こうを加えて粉砕する。このクリンカを生産する際、原料の石灰石が熱分解してCO2を排出する。

CaCO3→CaO+CO2

高炉セメントはこのクリンカの一部を高炉スラグと置換したもので、高炉スラグ自体は鋼を生成する過程で生まれる副産物であるのでCO2の排出量を抑制できる。また、高炉セメントは混合する高炉スラグ微粉末を焼成する工程が不要なため、製造時に必要なエネルギーが削減される。

表1はセメント1t当たりのCO2排出量の一例である。高炉セメントB種はポルトランドセメントと比較してCO2排出量は323kg/t少なく、CO2排出削減率は42%である。このようにコンクリートの原料にポルトランドセメントの代わりに高炉セメントB種を用いることでCO2を削減できる

表1 セメント1t当たりのCO<sub>2</sub>排出量(単位:kg)

表1 セメント1t当たりのCO2排出量(単位:kg)

■グリーン成長戦略

脱炭素社会の実現に向けて、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が2020年12月に閣議決定された。さらにグリーン成長戦略は2021年6月に具体化された。成長が期待される産業(14分野)が選定され、その中の一つにカーボンリサイクル産業がある。

表2はカーボンリサイクル産業の2050年に向けてのグリーン成長戦略の「工程表」であり、高い目標を設定している。ここでは、コンクリートに関する取組みが現在どの段階にあるのかを紹介する。

表2 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

表2 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

(1)新技術に関する国交省データベースにCO2吸収型コンクリートを登録し、地方自治体による公共調達を拡大

経産省は「CO2吸収型コンクリート」を歩車道境界ブロック、インターロッキングブロックなどで実用化済と位置付けている。K社等は12年前(2011年)に開発したCO2吸収型コンクリート「CO2-SUICOM」を実用化したと発表した。セメントの代わりに、石炭火力発電所から排出される石炭灰、特殊混和材(γ-2CaO・SiO2)を利用することで、セメント使用量を大幅に低減する。さらにコンクリートが固まる過程で特殊混和材はCO2を吸収(炭酸化反応)し、コンクリート内部に固定することでCO2の排出量を削減する。

このように10年以上前の技術であっても、改良を加えてNETISに登録することで、国や地方自治体の発注する工事で採用しやすくなるという狙いである。ちなみに2022年12月、「CO2吸収型コンクリート」をNETISで検索したが1件もヒットしなかった。経産省としては新技術の開発には時間がかかるだけでなくNETISの登録にも時間がかかるため、成長戦略工程を守るためにはすでに開発済みの技術の中でNETIS登録できたものから使っていこうという意向のようである。

(2)防錆性能を持つコンクリートの技術開発

一般的に、コンクリートにCO2を固定化すると、部材が中性化し鉄筋が腐食する。そこで、防錆性能を持つコンクリートの開発が求められている。まず考えられるのは混和剤の開発であるが、短期間で新製品を世に出すことは難しいので、現状では鉄筋に防錆剤を塗布すれば良いと考える向きもある。

一方、S社は既設のコンクリート構造物を利用して大気からのCO2吸収を促進するCO2固定化技術「DAC(Direct Air Capture)コート」を発表した。コンクリート表面に含浸剤を塗布し、コンクリート構造物に大気中のCO2を吸収・固定化させるもので、CO2吸収量を含浸剤塗布前の1.5倍以上に増大させることができるとしている。含浸剤の主材となるアミン化合物は、CO2の吸収性能に加え、防食性能も有しているため、コンクリートの中性化に起因する鉄筋の腐食を抑制できるとのことである。

(3)CO2吸収量の増大と低コスト化を両立させた新技術・製品の開発

コンクリートの主原料であるセメントは、製造時に多くのCO2を排出する。セメントの使用量を通常の半分以下に削減し、CO2を吸収する材料を活用してコンクリートのCO2排出量を実質ゼロ以下とする技術が開発されていることを(1)で紹介した。

T社は、セメントの使用量を抑制し、通常コンクリートと同等の強度を保持しながら、CO2排出量が削減できるT-eConcrete®を開発した。セメントの代わりに加える産業副産物などの配合により4タイプある。①セメントを減らす代わりに高炉スラグを使用する「建築基準法対応型」、②高炉スラグとフライアッシュを使用する「フライアッシュ活用型」、③セメントを全く使用しない「セメント・ゼロ型」、④CO2を吸収した炭酸カルシウムを、高炉スラグと特殊な反応剤を用いて固めた「カーボンリサイクルコンクリート」である。内部にCO2を固定することができるので、CO2排出量(吸収・排出の収支)をマイナスにするという。(参考文献1)

図2 カーボンリサイクルコンクリートの製造

図2 カーボンリサイクルコンクリートの製造

図2はカーボンリサイクルコンクリートの製造工程である。回収したCO2をカルシウムが溶解した水溶液に注入し、CO2を吸収した炭酸カルシウムを製造、そしてその炭酸カルシウムと高炉スラグに骨材、水、反応剤を加え練り混ぜる。

O社は、製造時のCO2排出量を最大で80%削減するクリーンクリート®の技術を基に、CO2排出量を実質ゼロ以下と廃棄物削減を実現する「クリーンクリートN」を開発した。セメントをCO2排出量が少ない高炉スラグ微粉末などに置き換えることで、製造時のCO2排出量を最大で80%削減できる。(参考文献2)

ゼネコン13社で構成する研究会で研究・開発しているCELBICは、普通セメントの10~70%を高炉スラグ微粉末に置き換えたコンクリートで、普通コンクリートと同様に扱える高炉セメントA種相当のものから、60%以上のCO2排出量を削減できるC種相当のものまで、要求性能に応じて広く適用することが可能という。(参考文献3)

このようにゼネコン各社の取り組みをみると、脱炭素のためには高炉スラグをセメントの替わりに使用することをベースにし、研究開発の成果を民間の建築工事で実証し始めているようである。

(4)日米の産学官の関係者がCO2炭酸塩化(コンクリート化)に関する共同プロジェクトを実施

2020年~2022年に米国コロンビア大学が開発したCO2を炭酸塩として固定する技術を用いたパイロット装置をワイオミング州の石炭火力発電所に設置して、実証実験を行っている。2023年~2024年に日本での適用検討を行い、2025年~2030年に日本の火力発電所への適用を目指すとのことである。同技術は鉄鋼スラグに結合しているカルシウム、マグネシウムを触媒を用いて抽出する方法であり、副産物として各種の無機材料を生産できるので経済的にも優れているとのことである。

■コンクリートのリサイクル

コンクリートのセメント水和物(Ca(OH)2)は大気中からCO2を吸収する。ビルのような構造物のコンクリートの内部にあるセメント水和物は、解体されて新鮮な断面が出てくると一気にCO2吸収率が高まる。そこにCO2を吹き付けるとCaCO3ができる。それを石灰石の代わりにセメント原料として利用する「カーボンリサイクルセメント」が研究されている。

S社では脱炭素の取組みに「コンクリート資源循環システム」を掲げている。ビルの解体現場などで発生する解体コンクリートを、建物の構造材料として100%リサイクルし、循環型社会の実現に貢献するという。

このように2050年カーボンニュートラル実現のために、CO2を排出しないコンクリートからCO2を吸収するコンクリート、さらにリサイクル技術とさまざまな研究開発が行われている。まずは2030年までにどの程度まで進んでいるのかが楽しみである。

参考資料
  • 1) CO2排出量収支がマイナスとなる環境配慮コンクリートを建築物の門塀に初適用:大成建設HP,企業情報,2022年9月14日
  • 2) エスコンフィールドHOKKAIDO新築工事:日経コンストラクション,2022年2月24日号
  • 3) (仮称)銀座5丁目プロジェクト新築工事:日経コンストラクション,2022年3月10日号

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