「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
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2023/10/02
土は貴重な資源であって、その有効な利活用が求められており、一般的な土工工事の盛土施工においては建設工事で発生した掘削土を有効に利用する必要がある。その種類は、トンネル掘削によって発生する硬い岩石から、有機質を含む柔らかい粘土まで幅広い。一方、長期間にわたって安定し、その間の様々な作用に対して耐久性のある盛土にするためには、その材料特性に応じた適切な設計・施工を行なう必要がある。例えば、礫質土や砂質土等は土工工事では扱い易く、そのまま盛土の安定に十分役に立つ材料である。しかし、粘性土のような雨や地震に弱い材料も、低い盛土等に用いるなど用途を選んで使うことが求められている。
今回のコラムは施工時に一見すると強度はありそうだが、時間と共に弱くなる困った土工材料について述べるとともに、その対策方法についても紹介する。
建設発生土を工学的に分類すると土砂、軟岩、硬岩に分類され1)、土砂には砂や粘土のほかに火山灰質粘性土と呼ばれるものが含まれる。火山灰質粘性土は火山砕屑物の一種であり、鋭敏比や自然含水比が高く土工工事では扱いづらいのが特徴である。中には自然含水比と液性限界が近く、こね返すと液体状になり非常に扱いづらい性質を示すものもある。
静岡県東部で発生する愛鷹ロームは火山灰質粘性土であり、盛土施工時は非常に扱いにくいことが知られているが、過去の調査によると時間の経過と共に強度が増加することが確認されている2)。
一方、軟岩の中には乾燥と湿潤を繰り返し受けると容易に土砂化する材料があり、このような岩材料をスレーキング性材料と呼ぶ。これらの材料は、約2300万年前から約260万年前の新第三紀時代に堆積した、泥岩、頁岩、凝灰岩などに多いことがわかっている。泥岩は海や湖、河川でシルトや粘土が堆積・固結したもので、泥岩がさらに固結して層理面に平行な細かい縞目(葉理)を形成すると頁岩になる。凝灰岩もまた火山砕屑物の一種であるが2mm以下の粒径の火山灰が固結した岩石である。これらの新第三紀層は全国にみられ、沖積層や洪積層の直下に確認でき、掘削時には軟岩として産出されることが多い。多くは塊状であり、中には容易にハンマーで割れないものもある。
しかしながら盛土材にスレーキング性材料を用いた場合、時間の経過とともに材料の強度が低下し、盛土の安定が損なわれることがある。
スレーキングが早く進行するものの中には、一回の乾湿繰り返しを受けただけで、ボロボロになってしまうものもある。一方で、何度乾湿を繰り返してもなかなか細粒化しない泥岩もあり様々である。この差異は岩石を構成する鉱物の種類によるものと考えられるがここでは触れない。
スレーキングによって生じる盛土構造物への支障は沈下の発生と不安定化に分けられるが、先に沈下の発生に関する課題と対策について述べる。軟岩を盛土する場合には転圧しても空隙が残りやすく(図-1(a))、施工後に降雨や地下水の影響を受けると、土塊の強度が低下する。応力集中したところから土塊が破砕し、図-1(b)のように空隙に落ち込むことで、盛土は沈下を引き起こす。空隙の割合やスレーキングの程度、地下水の程度によって沈下の程度は大きく異なる。
次に盛土の不安定化について述べる。一般に、時間の経過と共に盛土は安定すると考えられていたが、泥岩で盛土された高速道路の崩壊事例が知られるようになり、盛土は時間の経過とともに安定性は増す、といった常識は大きな見直しが求められた。スレーキング性材料についてはいわゆる風化作用によって土塊が強度低下することは知られていたが、改めて安定性に焦点が当てられるようになった。
2009年8月11日に東名高速道路牧之原地区において高さ約30mの盛土が震度6弱の地震によって崩壊した。この地震災害報告書によれば、「盛土下部に使用されていた泥岩が長年の水の作用により強度低下するとともに、透水性が低下。その結果、盛土内の地下水位が上昇し、地震が誘因となって崩壊したものと推定される。」としている3)。
このようにスレーキング性材料を用いた盛土の安定性を長期的に持続させるには、用いた材料の強度時間依存性を正確に知る必要があるが、現在のところ研究レベルの段階である。
最後にスレーキング性の材料を盛土に用いる場合の留意点について紹介する。
①設計段階においては、沈下や安定のための対策として、スレーキングによって強度低下が予想される材料を盛土に使用に使用する際は、盛土に浸透した水はできるだけ早く排除できるように排水層を設置する。非スレーキング材料においても排水層は重要であるが、ことさらに留意する必要がある。
②施工段階において泥岩や凝灰岩を掘削する時には、大きな塊状にならないように注意する。ブルドーザによるリッピングによって掘削する際は3本以上の爪を使うと岩塊を小さくするのに有効である。
③さらに敷均し時には大きな重機を使用して、塊状の泥岩類を破砕して締め固めし易い粒度にしてから大型の振動ローラ等によって転圧する。
④これらの転圧により盛土内部の空隙量が少なくなることから、盛土完成後の沈下が小さくなり、地震にも強い盛土ができる。なお、道路の場合では空隙率15%以下が望ましいとされている4)。
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