「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2017/07/31
小生の担当した20余年前の工事について、杭が破損した時の写真など改めて見直していたところ、その杭体破損の原因は杭の傾斜によるものではないかと推察された事例について紹介する。
その工事は、水田だった土地に8mほど盛土して道路を新設するため側面にL型擁壁を造るもので、擁壁の底版(1ブロックの長さ20m、幅9m)の範囲中に50本のPHC杭(外径70cm、厚さ10cm、長さ10m)を打設した(図-1、2)。水田に盛土をした施工基面に、鋼板を敷き杭打ち機でPHC杭を中掘り拡大根固め工法で打設した。地質は砂質土で、施工時期は1月であった。施工基面から11m下まで杭を打設した後、擁壁床付まで1.5mほどバックホウで掘削し、露出させた杭の天端から1mをカットオフした後、杭と擁壁底版を接合した。
そして、地盤掘削後に杭を露出させた際、50本のうち1本の杭にひび割れが生じていた。(写真-1)
この杭は、前日の作業において杭打ち機に杭をセットして打設位置に建込みまで済ませ、翌日に杭を掘削・沈設したものである。
施工業者からは「拡大ビットの翼を正常に閉翼できない状態でスパイラルオーガを回転させながら無理に引き上げたため、オーガヘッドの拡翼でPHC杭を破損したのではないか」と報告があった。なお破損した部分は図-3に示すように杭の天端から2.5mの位置までであった。
当時の資料を見直してみたところ以下のような疑問が湧いた。
一方で現地の地質は砂質土であり、引き上げ途中で玉石や大礫がオーガスクリューに噛み込むようなことは起こりえないと考えられる。当現場では529本のPHC杭を同じ施工方法で打設したが、杭の破損はこの1本だけであったことから、閉翼できなかった説は不自然に思われた。
写真-1をよく見ると、隣接している杭と比べて破損した杭は擁壁背面側に傾斜しており、傾斜した側にひび割れが発生している。写真-2は擁壁前面側から撮影したものだが杭の前側にはひび割れが生じていない。
これらのことから、杭が破損した原因は掘削・沈設時に図ー4に示すように杭が傾斜し、スパイラルオーガを引き抜く段階でオーガが傾斜した内側へ寄り、杭内面を削り込むように圧力をかけたこと、土砂の排土不十分で杭内に土砂が詰まり内圧が発生したこともあわせて起きたことが考えられる。(図-5)、
破損した杭への対策として、杭の支持力が不足することが懸念されたため、杭心から80cm離れた位置に同じ長さの杭を2本増し打ちした。
今回の事例は拡大翼が閉翼できなかったというよりも、建込みした翌日の作業開始時に杭打機の鉛直性、杭打機にセットした杭の精度を再度測定し確認すること、初期の沈設時での角度を再チエックすることが不足した状態で掘削・沈設したために起きたのではないかと思われる。
「杭基礎施工便覧」1)の中掘り杭工法の掘削・沈設には「杭の掘削・沈設は杭周辺地盤を乱さないようにし、所定の角度を保ちながら所定の深度まで杭を沈設しなければならない。杭の角度は初期の沈設時にほぼ決定される。また、初期の沈設時には角度が変化しやすいため、杭が地盤によって拘束されないうちに角度を再確認することが大切である。」と記載されている。
また、「既製コンクリート杭の施工管理」2)の中掘り拡大根固め工法の施工管理項目によれば、「杭の建て込み精度は傾斜1/100以内、杭打ち機の鉛直性は傾斜1/200以内であること。」とある。どちらも杭の傾斜は施工管理のなかで重要な事項と記載されている。
施工中は本来、杭の傾斜管理を行っているが、念のため底盤まで掘削して杭を露出させてからカットオフする前に杭本体にひびわれが出ていないか、傾斜している杭が無いか改めて目視確認することが重要である。本事例のように杭の破損が起きた場合は何が原因なのかよく調べることが大事だと気づいた次第である。
1)公益社団法人 日本道路協会:杭基礎施工便覧, p.176 , 平成27年3月
2)一般社団法人 コンクリートパイル建設技術協会:既製コンクリート杭の施工管理, p.311, 2017年4月
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