「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2017/11/29
高含水粘性土を用いて急速に盛土を施工すると、盛土内に過剰間隙水圧が発生し、のり面のはらみだしや崩壊を起こすことが知られています。この現象は、水を多く含み、圧縮性に富んだ土に盛土の重量が作用して、土から水が絞り出される過程で生じる現象といえます。高含水粘性土として火山灰質粘性土(ローム)が特に問題になりますが、高含水・高圧縮性の性質を持っていれば、見た目は細かい砂のような材料であっても起こりうる現象です。ここでは常磐自動車道の盛土工事に使われた盛土材について紹介します。この土の施工直後のダンプトラックの走行試験の状況を写真に示します。砂のように見えますが細粒分を30~70%含み、砂質土と粘性土の性質を併せ持つ中間土を用いた盛土です。自然含水比が30~40%と砂質土としては高いため、過転圧になりやすく、ダンプトラックの走行によりわだちができています。手にとって土をこねてみると、低い透水性と高い保水性からか、土の表面から水が染み出すことはなく、ぷよぷよの「もち」のような性状を示します。
この土を用いた盛土(高さ10m)の試験施工の結果を図に示します。なお盛土の施工期間は約3か月で、完成の14日後から盛土に設けた観測孔により盛土内水位の観測を開始しました。断面図には観測から83日目の水位を示しています。さらにグラフには盛土内水位の経時変化と降雨記録を示しています。図より日降水量で200mm近い大雨があったにもかかわらず、盛土内水位に変化は見られません。また、この盛土は地山の湧水等の影響も受けない台形形状であることから、この水は盛土外から入ってきたものではないことがわかります。以上より判断すると、この水位は盛土の重さで絞り出された間隙水が観測孔に集まって形成されたものと考えられます。このことは、先に述べた盛土の重さで発生した盛土内の過剰間隙水圧が原因であることを裏付けています。
盛土をこのような厄介な材料を用いて安全に施工するために、水平排水層を対策として用いることとし、排水層の厚さ、長さとその配置が検討されました。断面図より、無対策のり面側の水位に比べて水平排水層が施工されたのり面側の水位が低くなっており、水平排水層に向かって盛土内の絞り水が排水されていることがわかります。もっとも効果があるタイプは、水平排水層の数が多く、かつ、層厚の大きいタイプ3であると思われましたが、実際はタイプ1の水位がもっとも低く、より大きな効果が得られました。この結果は理にかなっておらず、何か別の作用が働いていると思われました。実際、原因を詳細に調べると、タイプ1の盛土の下には別の工事で敷設した採石層(厚さ約500mm)が残置されていたことが判明しました。この採石層が基盤排水層として機能したことで、より大きな水位低下をもたらしたものと結論付けられました。この結果を踏まえて、本施工では、タイプ1のようなのり面の水平排水層に加えて、砕石による基盤排水層も設置することになりました。
完成後の盛土を見る機会がありました。のり面の植生が線状に濃くなっている場所に気付き、それが水平排水層の設置場所とわかり、盛土の絞り水が排水された効果を実感した次第です。
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