土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2019/09/26
今回紹介するのは失敗事例ではなく、失敗を未然に防ぐために取り組んだ事例である。
当該工事は、高速道路盛土を横断する長さが約43mのカルバートボックス(内空高5.3m、内空幅6.6m、壁厚0.55m)を構築するものであった。コンクリートの施工は、長さ方向に3ブロックに分割して行った。コンクリートの打込みは、底版は4月と5月に、側壁・頂版は6月に行った。使用したコンクリートの配合は、30-8-25BBであり、呼び強度30N/mm2、スランプ8cm、単位セメント量335kg/m3、単位水量164kg/m3であり、セメントは高炉セメントB種であった。
3ブロックの側壁部には、下記のようなひび割れが発生した。
① ひび割れは、底版と側壁の打継部から頂版に向かってほぼ鉛直方向に発生している
② 1ブロック当たり、幅0.1〜0.4mmのものが1〜2本発生している
③ ひび割れの発生材齢は10日程度である
④ ひび割れは側壁を貫通している
⑤ 外気温が高い時期に施工したブロックほどひび割れ幅が大きい傾向にある
このようなことから、このひび割れは、セメント水和熱に起因する側壁コンクリートの温度収縮が底版に拘束されたことによる外部拘束型の温度ひび割れと推定した。
長さは異なるが同じ断面を有するカルバートボックスの施工が引き続き予定されていたため、温度ひび割れ対策として、膨張材の使用、高性能AE減水剤の使用、およびひび割れ誘発目地の設置を2箇所目のカルバートボックス(図1)と3箇所目のカルバートボックスで実施して、温度ひび割れ抑制対策の効果を把握することとした。1ブロックの打設長は7.28〜12.25mであり、コンクリートの打設は8月下旬から9月下旬にかけて行い、その時の打込み時のコンクリート温度は25〜32°Cであった。なお、発生応力の抑制効果を検証するため、熱電対によるコンクリート内部の温度、有効応力計による温度応力の測定と三次元温度応力解析なども行った。
コンクリート用膨張材は、材齢初期における膨張効果によりケミカルプレストレス(圧縮応力)を付与することで、引張応力を低減してひび割れの発生を抑制することを期待して使用した。ここでは、石灰系の低添加型コンクリート用膨張材(水和熱抑制型)をセメントに置き換えて(内割りで)20kg/m3使用した。
膨張材を使用した2箇所目、3箇所目のブロックとも側壁部に幅0.1〜0.2mmのひび割れが1あるいは2本発生し、その抑制効果は認められなかった。温度応力の測定結果においても、膨張材の特徴である材齢初期での圧縮力の導入(ケミカルプレストレス)が認められず、発生する引張応力の低減も認められなかった。
一般に、温度ひび割れの低減に対して膨張材は有効であるとされており実績も多数あるが、今回はそのような結果が得られなかった。その原因について明らかではないが、コンクリートの打込み温度が約30°Cと高かったため、強度が小さい段階で膨張反応が進行してしまい、十分な圧縮応力が導入できなかったのではないかと考えられた。また、マスコンクリートのひび割れ制御指針2016版によれば、マスコンクリートに膨張材を使用した場合の効果に関して、水和熱抑制型膨張材を使用しても低発熱性セメントと併用しない限り必ずしも温度上昇抑制効果が得られないこと、膨張材の使用によって温度ひび割れの本数、幅は小さくなるが、温度ひび割れの発生そのものは完全に防止できないことなどが報告されている。
高性能AE減水剤は、単位水量と単位セメント量を減少させることができるため、セメント水和熱による温度上昇量を低くすることで温度ひび割れの低減を図る目的で使用した。今回は、ポリカルボン酸エーテル系化合物系の凝結遅延形高性能AE減水剤を使用した。通常のAE減水剤を使用した配合に比べて単位セメント量を16kg/m3少なくすることができた。
高性能AE減水剤を使用した二つのブロックとも側壁部に幅0.1〜0.4mmのひび割れが1あるいは2本発生し、その抑制効果は認められなかった。温度応力の測定結果においても、発生する引張応力の低減は認められなかった。
ひび割れ誘発目地は、図2に示すように部材厚さの30〜40%を欠損させることでその部分にひび割れを誘発させ、ひび割れ発生位置を制御する目的で設置するものである。今回は、断面欠損率を40%とし、目地材の亜鉛メッキ鋼板にブチルゴムを張り付けて、止水性を確保するような構造のものを使用した。目地の設置はブロック長12.25mの場合には4.1m間隔で2箇所、ブロック長10.69mの場合にはその中央に1箇所とした。
ひび割れ誘発目地は、いずれのブロックにおいても目地以外の箇所にひび割れは発生しなかった。誘発目地の効果については、その設置間隔を適切に設定することで、ひび割れの発生位置を適切に制御できることが分かった。
以上のように、カルバートボックスを対象とした温度ひび割れの抑制対策として、膨張材の使用、高性能AE減水剤の使用、およびひび割れ誘発目地の設置について比較を行った結果、ひび割れ誘発目地の設置が最も確実なひび割れ対策であることが分かった。なお、上記の対策効果については、温度応力が卓越している状態の結果であり、長期的には、乾燥収縮による応力が発生して複合することになるので、留意が必要である。
マスコンクリートにおける温度ひび割れの発生に対しては、表1に示すように、その対策レベルに応じたひび割れ発生確率と安全係数を満足しているか否かを解析的検討によって照査するのが一般的である。この安全係数は、コンクリートの打込み時期、構造条件、および施工条件などに応じた温度応力解析を行って以下のように算定することができる。
対策レベル | ひび割れ発生確率(%) | 安全係数γcr |
---|---|---|
ひび割れを防止したい場合 | 5 | 1.85以上 |
ひび割れの発生をできる限り制限したい場合 | 15 | 1.40以上 |
ひび割れの発生を許容するが、ひび割れ幅が過大とならないように制限したい場合 | 50 | 1.0以上 |
ひび割れ誘発目地の間隔は、目地の部分は当初から縁が切れていると仮定して、その間隔をパラメータとした温度応力解析を行って、所要の安全係数となるように決定するのが一般的である。2017年制定コンクリート標準示方書「施工編」では、目地間隔をコンクリート部材高さの1~2倍程度とし、その断面欠損率は50%程度以上を推奨している。
一般的な温度ひび割れ対策は、構造物の形状・寸法、拘束の条件・程度、コンクリートの配合、および施工環境などの種々の条件に応じて適切に選定する必要がある。特に、表-1に示したように構造物の要求性能に応じた温度ひび割れの対策レベルを適切に設定することが重要である。そして設定した対策レベルを満足させる万能な対策は現時点では存在しないため、表2に示したような様々な対策を工事条件に応じて事前に検討して選択することになる。
体積変化の低減 | 温度上昇の低減 | 水和熱が小さいセメントの使用 | 低熱ポルトランドセメントの使用 |
中庸熱ポルトランドセメントの使用 | |||
水和熱を抑制する混和材料の使用 | セメントの一部をフライアッシュで置き換える | ||
セメントの一部を高炉スラグ微粉末で置き換える | |||
セメント量の減少 | 粗骨材の最大寸法を大きくする | ||
スランプを小さくする | |||
細骨材率を小さくする | |||
高性能AE減水剤を使用する | |||
強度管理材齢を長期にする | |||
打込み温度の低下 | 高温のセメントは使用しない | ||
粗骨材の散水冷却 | |||
練混ぜに冷却水を使用する | |||
夜間あるいは早朝に打込む | |||
夏期施工とならない工程計画とする | |||
温度上昇量の低減 | パイプクーリング(冷却水)の実施 | ||
エアーパイプクーリング(空気あるいは冷風)の実施 | |||
収縮量の低減 | 収縮量を低減する混和材料の使用 | 水和熱抑制型膨張材の使用 | |
水和熱抑制型膨張材(低添加型)の使用 | |||
発生応力の低減 | ブロックの高さと長さの比(H/L)を大きくして拘束度を小さくする | ||
拘束体と被拘束体の打込み間隔を短くして拘束度を小さくする | |||
ひび割れ発生位置の制御 | ひび割れ誘発目地を設置してひび割れ発生位置を制御する | ||
ひび割れ幅の制御 | ひび割れ制御鉄筋を配置してひび割れを分散させて幅を小さくする | ||
短繊維補強コンクリートを使用してひび割れを分散させて幅を小さくする |
1)財団法人高速道路技術センター:カルバートボックス側壁部の温度ひび割れ対策―北関東道蓬田トンネル東工事―、EXTEC No.84
1)公益社団法人日本コンクリート工学会:マスコンクリートのひび割れ制御指針2016
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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