土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2019/10/30
地上11階建ての共同住宅の基礎として、プレボーリング杭工法による既製コンクリート杭(プレストレスト高強度コンクリート節杭+SC杭)を施工した(図1)。
杭の仕様は、下~中杭は節部径φ1000mm、軸部径φ800mmの節杭、上杭はφ1000mmのSC杭で、杭長L=33m(下杭13m+中杭13m+上杭7m)である。
施工地盤は、支持層および中間層に砂礫層を有する地盤(図1)であったが、プレボーリング後に杭の沈設を試みたところ、杭天端が設計レベルより約1.5m高い状態の高止まりが発生した。高止まりが確認された時点で、三点式杭打機で引抜こうと試みたが、引抜き不能であった。引抜けなかった原因としては、既製コンクリート杭の節部分が孔壁に当たった状態にあると想定された。
杭の高止まりの原因として、以下の2点が想定された。
①中間砂礫層での孔壁の崩壊(掘削液に水を使用したため、孔壁崩壊を防止できなかった。その結果、崩壊した礫分が掘削孔底に沈積した。)(図2、図3)
②中間砂礫層での孔曲がり
杭の高止まりの対処方法として考えられたのは、
A案:高止まり杭の載荷試験を行って支持力を確認し、所定の鉛直支持力が確認され、水平方向についても杭の耐力に問題がなければ該当杭をそのまま使用する。
B案:増し杭を行い、フーチングにも増し杭を考慮した変更を実施する。
C案:高止まり杭を引き抜いて再施工を行う。
の3案であったが、工期、経済性および近隣への影響等を考慮してC案を選定した。
杭の引抜きに当たっては、ウォータージェット併用ケーシング工法(施工径1.6m)で杭と地盤との縁切りを行った後に、杭にワイヤーをかけて80tクレーンで引き上げた。引抜いた杭は、無溶接継ぎ手のボルトを外して切り離し、下杭と中杭は廃棄処分して上杭は施工に再利用した。杭抜き跡は、杭施工時に発生した残土で埋戻しを行った後、杭打ち機で貧配合のセメントミルクを注入・攪拌して地盤改良を実施した。
杭の再施工では、根固め部の支持力確保のため、根固め部の径をφ1.6m(設計径φ1.3m)とし、根固め部の長さを0.5m長く(掘削深度は0.5m深く)した。
トラブル発生後の杭の施工対策としては、
①軸部掘削時から掘削液として、ベントナイト溶液(5%溶液)を使用する。
②地層の変化点付近(中間層を含む上下余裕範囲)では孔壁の安定を確保するため、掘削速度を遅くするとともに掘削攪拌装置の反復(ターニング)を1回行う。
③掘削時のオーガの鉛直性および杭挿入時の既製杭の鉛直性について、十分に管理・確認する。
の3点を実施した。その結果、以後の杭施工では高止まりが発生することなく、無事に施工を完了することができた。
中間層に均一な粒度の砂層や、本事例のような砂礫層が存在する地盤でのプレボーリング杭においては、中間層の崩壊による杭の高止まりトラブルが起こることがあり、孔壁の安定確保には特に注意が必要である。また、支持地盤が砂礫層である場合も、支持層中の砂礫の早期沈降(根固め液の攪拌不良)により杭の高止まりが発生することがある。特に大口径杭では杭沈設時の摩擦抵抗が大きくなることや、継手の多い長尺杭では杭の建込み完了までの時間が長くなり中間砂礫層や支持層中の礫の沈降が起こりやすいことなどから、高止まりのリスクが高くなる。
中間層を含む地盤におけるプレボーリング杭の施工にあたっては、高止まりのリスクを回避するために、掘削液にベントナイトやポリマー等の増粘剤を添加することや、中間層付近でのターニング回数を増やす等を作業標準として決めておくことが必要である。また、礫による掘削孔の曲がりが発生しないように、オーガの鉛直性や、杭挿入時の既製杭の鉛直性についても十分に管理・確認する必要がある。
なお、トラブルの事例や対応策については、「既製コンクリート杭の施工トラブル事例集」1)や「既製コンクリート杭施工管理指針」2)が参考になる。
1)既製コンクリート杭の施工トラブル事例集 平成22年3月 一般社団法人コンクリートパイル建設技術協会
2)既製コンクリート杭施工管理指針 平成28年3月 一般社団法人日本建設業連合会 https://www.nikkenren.com/publication/detail.html?ci=233
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