土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
3)打設後(養生・修繕等)
2019/12/25
コンクリート構造物では、設置される環境や供用条件等の影響を受けて様々な劣化現象が進行し、長期にわたり適切に供用していくために対策工事が実施される場合がある。今回のトラブル事例は、厳しい塩害環境に置かれる港湾構造物、具体的には鉄筋コンクリート製の桟橋上部工の補修工事である。梁の浮き・剥離や腐食ひび割れが顕在化した劣化部だけを部分的に断面修復(以下、部分断面修復と呼ぶ)した結果、数年後に補修部の再劣化が発生したものである。
桟橋上部工は梁と床版で構成され、下部工(鋼管杭等)に支持されて海面上に設置されるため、常に海水がコンクリート面に作用し、塩分がコンクリート表面から供給される。したがって、塩分の浸透による鋼材の腐食、かぶりコンクリートの浮き・剥離や剥落等といった塩害劣化が生じやすい。劣化状況の一例を写真1に示す。
今回の対象である桟橋上部工では、東京湾内に建設されて約20年が経過した頃から錆汁や腐食ひび割れ等の変状が確認され、その8年後に補修工事が実施された。変状は主に梁の下面(梁下面の高さはH.W.L.+75cm)に多く見られ、梁の方が床版よりも海面に近い位置にあるために塩分の供給量が多いことが推測された。なお、補修工事は2000年頃に実施されたが、その際の調査データや補修工事の記録は残っておらず、詳細は不明である。ただし、施設管理者の意向を踏まえ、補修費用をなるべく抑制するため、劣化が顕在化した部分のコンクリートだけをはつり取って断面を修復するような補修が実施された。断面修復材には、付着性に優れ、塩分浸透抵抗性の高いポリマーセメント系の補修モルタルが採用された。
補修工事から5~6年程度が経過した頃、写真2のような主筋に沿う腐食ひび割れや錆汁、かぶりコンクリートの浮き等が確認され、部分断面修復を行った箇所に再劣化が進行していることが分かった。
現在、このような再劣化は鋼材のマクロセル腐食によるものとして広く知られている1)。「港湾コンクリート構造物補修マニュアル」2)によると、断面修復材と未補修部の境界部に生じる局部的な腐食としてマクロセル腐食が図1のように紹介されている(文献2)の図を一部修正)。この概念図では、部分的に劣化(腐食による剥離・剥落等)の生じた範囲を鉄筋の裏側まではつり取って断面修復した後に、その両側の境界部付近の鉄筋の腐食が局部的に進行する様子が示されている。これは、この境界部を挟んで、既設コンクリートと断面修復材の塩分濃度の差が大きくなることや物性の違いにより鉄筋の電位差も大きくなり、境界部付近に大きな腐食電流が発生することでマクロセル腐食による劣化が顕在化する。
今回の桟橋上部工の補修工事では、腐食が生じた鉄筋のかぶり部分のみを部分断面修復したため、上記と同様に既設コンクリートと断面修復材の塩分濃度の差が鉄筋の上側と下側(かぶり方向の奥側と表面側)において大きくなり、部分断面修復範囲の全長にわたってマクロセル腐食が進行したものと考えられた。このようなマクロセル腐食の概念図を図2に示す。
なお、補修後13年経過時(再劣化が最初に確認されてから7~8年後)に実施した調査結果によると、補修部の鉄筋かぶりは70~80mmで、断面修復材の奥側(鉄筋の裏側)の既設コンクリートの塩分濃度(塩化物イオン濃度)は2~8kg/m3であった。この値は腐食発生限界塩化物イオン濃度(港湾基準では2kg/m3と規定されている)よりも大きく、断面修復した箇所の鉄筋の裏側で腐食が進行するのに十分な値であり、さらに断面修復材(鉄筋の下側)との塩分濃度差によってマクロセル腐食が進行したと考えられる。
このような再劣化に対しては、腐食を発生・進行させる原因となる塩分を鉄筋の周囲からすべて除去する方法(全断面修復)か、塩分が残存しても腐食を進行させないような防食法(電気防食等)を用いて、再補修することが必要である。具体的には、断面修復材に浮きが生じていれば、
① 腐食発生限界塩化物イオン濃度を超える塩分を含むコンクリートを鉄筋の裏側も含めてはつり取って断面修復を行う。
② かぶり部分のみをセメントモルタルで再度断面修復して電気防食により補修する。
等の対策が考えられる。断面修復材に浮きが生じていなければ、上記のほかに、
③ セメント系の注入材を用いてひび割れ補修を行ってから電気防食により補修する。
等の対策も考えられる。なお、この桟橋上部工では②の方法で再補修された。
塩害による腐食ひび割れ等の変状が顕在化した桟橋上部工(港湾構造物)を補修する場合、再劣化を防止するためには、上記の再補修と同様の対策を最初から実施するように補修設計する必要がある2)。
塩害環境下に置かれる構造物(部材)では、劣化がすべて一様に進行するわけではなく、部材ごとにあるいは一つの部材の中でもバラツキをもって進行する。したがって、劣化の進行過程においては、今回のように部分的に剥離等の変状が顕在化することになる。しかし、劣化進行(鉄筋腐食)の原因となる塩分の供給は、通常は一つの部材の中でそれほど大きく異なることはないと考えられる。そのため、ある時点で剥離等の変状が顕在化している場合、その近傍でも剥離に至っていなくても鉄筋腐食は進行していることが多く、部分的に補修しても根本的な対策にはならない。
桟橋上部工の補修部における代表的な再劣化とその要因は表1のように示されている3)。今回の事例では、断面修復部の設計面における「はつり深さ(およびはつり範囲)の設定の誤り」による影響が最も大きいと考えられる。よって、その点を十分に踏まえた設計検討を行ったうえで、その他の項目に起因する再劣化も防ぐよう、設計・施工面での配慮が必要となる。なお、施設管理者の予算上の都合等により部分断面修復が実施されることもあり得る。しかし、設計者・施工者は施設管理者と協議して、厳しい塩害環境では数年で再劣化が生じる可能性があること、また構造物のトータルの維持費用(ライフサイクルコスト)がかえって増加することについて、認識を共有しておくことが必要と思われる。
補修の種類 | 再劣化の現象 | 再劣化の主な要因 | |
---|---|---|---|
断面修復部 | 鋼材のマクロセル腐食 | 設計面 | 調査データの不足 塩分浸透量のばらつき 鉄筋かぶりのばらつき はつり深さの設定の誤り はつり範囲の設定の誤り |
施工面 | はつり深さの不足(塩分除去不足) はつり範囲の不足(塩分除去不足) |
||
表面被覆部 | 残留塩分による鋼材の腐食 | 設計面 | 工法選定の誤り 調査データの不足 塩分浸透量のばらつき 鉄筋かぶりのばらつき |
なお、これまで述べてきた塩害劣化補修における再劣化の問題は、港湾構造物だけでなく、海岸沿いに構築された橋梁上部工等のように、飛来塩分や融雪剤等の外部から供給される塩分によって塩害が引き起こされた構造物の補修の際にも留意しておくことが重要である。
1) (一財)建設業技術者センターHP,現場の失敗と対策,コラム,断面修復工でのコンクリートの再劣化 -マクロセル腐食-,http://concom.jp/contents/countermeasure/column/ ,2016年3月
2) (一財)沿岸技術研究センター,港湾コンクリート構造物補修マニュアル,沿岸技術ライブラリーNo.50,pp.90~94,平成30年7月
3) (公社)日本コンクリート工学会,既設コンクリート構造物の維持管理と補修・補強技術に関する特別委員会報告書,pp.Ⅲ-40~41,2015年9月
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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