土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
4)新工法
2020/01/30
排水機場の基礎として、回転杭を施工した。杭の仕様は、軸部径φ406.4mm(羽根径φ812.8mm)×t=9.0mm×L=42.0m、SKK490(材質)である。施工地盤は、GL-37.65mまで砂混じり(沖積)シルト、中砂、礫混り粗砂を経て、支持層はGL-41.6m以深の砂礫層(粒径20~30mmの礫が混入)であった(図1参照)。設計では、支持層深度の不陸を考慮して、支持層への根入れは1.0mとなっていた。杭打設の施工機械は、電動オーガーモータ付き三点式杭打機を使用した。
当該杭の施工で、先端羽根部を支持層に貫入中に回転トルクが急激に上昇し、衝撃音とともに杭打機が振動した。これらの異常が確認された後、回転トルクが急降下した。
杭体の異常を確認するため、杭を逆回転で引き抜いたところ、杭頭部から約5.5m(杭下端から36.5m)の位置で、杭体が破断していることが分かった(写真1)。
当該杭の施工記録(図1)によると、回転トルクはGL-41m付近から徐々に上昇し、GL-41.5mで許容トルク(鋼管短期許容ねじりトルク)に到達したので、その後は回転速度を制御しながら砂礫層への貫入を続けたが、GL-41.9m付近で許容トルクをオーバーして杭体が破損したものと考えられる。支持層は、上記の礫径で密な状態のため、回転杭が貫入し始めると先端羽根による推進効果で、一気に貫入が進む状況であった。
オペレータには許容トルクを伝えてはいたが、杭打機に回転トルクのリミッター(機械的な制限機構)が装備されていなかったなかで、オペレータが所定の根入れ長の確保に気をとられて、杭体の健全性(変形や破断の可能性)に対する配慮が十分でなかった点は否めない。
杭体の破損の原因は、支持層である砂礫層に貫入中に(先端羽根部が地中の礫の作用を受けて)杭に大きな引込み力が働くことで、礫と杭の先端羽根部が噛み合って回転トルクが急激に上昇し、オペレータが許容トルク以内に制御することができずに杭体の破損に至ったものと考えられる。
トラブルがあった杭については、発注者および設計会社を含めて協議した結果、地中部の杭は残置し、増杭で対応することとなった(図2)。
これ以降の新たに施工する杭については、以下の対策を講じることとした。
・杭打機にリミッターを付けて、許容トルクの70%で(機械的に)回転トルク制限を実施
・支持層での杭体の貫入抑制、逆回転等の慎重な施工の実施
その結果、残りの全ての杭を無事に施工完了した。
回転杭の施工においては、杭体の健全性を確保すると同時に杭を所定の深度まで確実に打設するため、施工計画書作成時に施工管理トルクを設定する。施工管理トルクは、杭体の許容トルクの70~80%とする。
施工機械の選定に際しては、リミッターが装備されている機械を使用する。三点式杭打機はリミッターが装備されていないものがあるので注意が必要である。全周回転掘削機は、回転トルク値の数値管理ができず、ダイヤル出力での油量調整によるトルク制御となるが、やや小さい範囲で出力を調整する。
また、砂質土や礫質土でN値が高い(40程度以上)中間層では、先端羽根による推進力(引き込み力)が強く働くことにより、回転トルクが急激に上昇することがある。オペレータにはあらかじめ許容回転トルクを示して、回転トルクが大きくなりそうな状況においては、回転速度を落として杭体の貫入を抑制することや、杭を逆回転で少し引き上げて再度貫入するなどの杭体の健全性に配慮した施工を行うようにする。
杭の打止めには、試験杭で決定した管理指標(支持層に到達したと判断されるトルク、1回転あたりの貫入量、回転速度等)による確認と、支持層への必要根入れ長さ(原則1.0Dp(軸部径)以上)の確保が必要である。ただし、支持層地盤が想定より硬く、所定の深度までの貫入が困難となる場合は、長時間にわたって回転貫入すると、杭材が破断したり支持層を乱したりする恐れがある。したがって、無理に設計貫入量に至るまで根入れするのではなく、地盤調査や試験杭のデータを参考に打止め管理を適切に実施する必要がある。なお、所定の根入れ長が確保できなかった場合は、引抜抵抗力の検証が別途必要となるため、発注者、設計者等と十分な協議を行う必要がある。
1) 回転杭工法 施工管理要領 [Edition 1.0] 平成29年3月 一般財団法人 鋼管杭・鋼矢板技術協会 http://www.jaspp.com/shiryou/pdf/kaiten_2017mar.pdf
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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