土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2020/05/01
ポンプ場放流渠の基礎として、PHC杭を施工した。杭仕様は、直径φ400mm、L=24.0m、掘削深度28.0mで、プレボーリング杭工法により施工した。地盤は、GL-5.5mまで軟弱な盛土層、GL-23.0mまで砂混じり(沖積)シルト、よく締まった砂層を経て、支持層はGL-27.0m以深の砂礫層(最大礫径50mm)であった(図-1)。支持層深度の不陸を考慮して、支持層への根入れは1.0mとなっていた。施工機械は、電動オーガーモータ付き三点式杭打機(オーガ駆動装置D-80KP:55kw)を使用した。
当該杭(施工開始から7本目)の施工で、プレボーリング掘削、根固め液および杭周固定液の注入攪拌工程を終了し、杭の建込みおよび沈設工程に入った。下杭と中杭の沈設が終了し、中杭と上杭を接続(溶接継手)して、最終の沈設工において沈設抵抗が大きくなり高止まりの兆候がみられた。具合的には、所定深度の2.5m手前付近で沈設抵抗が大きくなったので、杭に回転を加え、上げ下げしながら沈設を継続したところ、残り1.2mで急に抵抗がほとんど無くなった。杭体の状況確認のため杭を引き上げたところ、中杭と上杭の接続部から約1m下の位置で杭が破断していることが分かった(図-2)。
杭の破断面を確認したところ、PHC杭のコンクリート部に欠陥は見当たらず、PC鋼材(径7.1mm, 10本)も一般的な引張りによる破断形状であり、鋼材の異常が疑われるような兆候はみられなかった。さらに、場内に保管されている杭の外観を再度検査したが、ひび割れや傷は特に確認されなかった。
破損が発生した杭の回転沈設時のオーガ駆動装置の電流値を確認したところ、最大で400アンペア程度(トルク換算で6.5t・m)となっていた。このことから、杭のねじり破壊の許容値(3.21t・m)を大きく上回るトルクが作用して、杭体がねじり破壊したものと想定された。杭の回転沈設抵抗が大きくなった原因としては、支持層である砂礫層が崩壊した可能性や粒径の大きな礫などに起因して、杭先端部が拘束されたためと考えられる。さらに、杭が小径で許容トルクが小さいにもかかわらず、オーガ駆動装置が55kw(74HP)とやや高出力で、杭仕様とのバランスが悪かったことも影響していたものと考えられる。
トラブルがあった杭については、発注者および設計会社を含めて協議した結果、地中部の杭は残置し、増杭で対応することとなった(図-3)。
トラブル発生後の新たに施工する杭については、以下の対策を講じることとした。
・オーガ駆動装置の電流値とトルクの関係、杭の許容トルクと駆動装置の電流値の関係を図表化し(表-1, 図-4)、許容トルクの80%以下になるように、オーガ駆動装置の電流値により沈設管理する。
・オーガ駆動装置の電流値が上記の管理値を超え、さらに許容トルクをオーバーすることが予想される場合は、杭を引き抜き再施工を行う。
・杭の沈設抵抗を低減するため、掘削液の調合(崩壊性のある地層でベントナイトを使用)や掘削方法を修正(下部の砂、砂礫層でターニングを実施)しながら施工する。
これらの対策を講じた結果、残りの全ての杭を無事に施工完了した。
プレボーリング工法で施工する杭の回転沈設工においては、杭体の健全性を確保すると同時に杭を所定の深度まで確実に沈設するため、施工計画書作成時に沈設時の施工管理トルクを設定しておく。施工管理トルクは、杭体の許容トルクの70~80%とすることが望ましい。
施工機械の選定に際しては、杭径に応じた適切な機械を選定する。できればオーガ駆動装置にリミッターが装備されている機械を使用することが望ましい。なお、三点式杭打機はリミッターが装備されていないものが多いので、オペレータへ確実に指示する等の注意が必要である。
近年、杭の大径化に伴い、施工機械や装備も大型化している一方で、小径杭の取り扱いが多少乱雑になっている傾向がみられる。今回のようなトラブルを参考にして、施工者においては、小径の杭から大径の杭まできめ細かな対応が望まれる。
1)既製コンクリート杭の施工トラブル事例集, 平成22年3月, 一般社団法人コンクリートパイル建設技術協会
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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