土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2020/06/29
鉄道高架橋の鉄筋コンクリート製高欄(以下、高欄)の打込みから2.5年が経過した時点(工事竣工後1.5年)で、伸縮目地の近傍にひび割れが確認された。
この高架橋は、図-1に示すような橋長40m(4径間)のRCラーメン高架橋で、張出しスラブの端部に高欄(高さ120.5cm、厚さ20cm)が施工されている。また、高欄と張出しスラブには、スラブを支える横梁の両端部にひび割れ防止のための伸縮目地(樹脂発泡体目地板、厚さ10mm)が設けられている。今回、ひび割れが確認されたのは、全16箇所(片側8箇所)の伸縮目地のうちの2箇所の伸縮目地の近傍であった。
2箇所のひび割れはいずれも、写真-1に示すように、高欄の天端から目地に向かって斜めに発生しており、ひび割れ幅は0.3mm程度であった。この斜め方向のひび割れは高欄の両側面に確認され、天端では繋がっていたため、貫通していると推察された。また、いずれのひび割れ発生位置においても、斜め方向のひび割れのほかに、天端の橋軸方向に幅0.5~1mm程度のひび割れが確認された。
さらに、点検ハンマーによる打音検査を行った結果、斜め方向の貫通したひび割れと伸縮目地で囲われた部分のコンクリートは浮きを生じていた。また、目地付近や型枠の継目のコンクリート表面には、ブリーディングや砂すじの跡を確認できた。ひび割れの確認された2箇所の目地の位置は離れており、ひび割れの発生した目地の位置と発生原因には特段の関連性はないようであった。防音壁の下部にはゴム製の緩衝材が設置されているが、高欄の伸縮を拘束するようなものではない。
なお、施工時の状況として、コンクリートの打込みは3月に実施され、気温は2.7度、曇天であった。コンクリートの配合仕様は27-12-20Nであり、高さ約1.2mを1層あたり約40cmの3層で打ち上げられていた。また、打込み後には寒中コンクリート対策としてシートで養生した囲い内を、ジェットヒーターを用いて12日間の給熱養生が行われていた。
施工時の状況やひび割れ部付近の目視確認などの調査の結果を踏まえて、日本コンクリート工学会の「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針」1)を参考に、ひび割れの発生原因の推定を行った。具体的には、ひび割れのパターンによる分類(ひび割れの発生時期、規則性や形態)、コンクリートの変形の種類による分類(収縮性か、膨張性か、沈下・曲げ・せん断によるものか)、配合による分類(富配合か、貧配合か)、打込み時の気象条件による分類(高温か、低温か)などにより、原因の絞り込みを行った。
その結果、「コンクリートの沈下・ブリーディング」「不適当な打込み順序」「急速な打込み」「かぶり厚さの不足」「不適切な打重ね」のいずれかに該当すると考えられたが、原因は一つに絞り切れなかった。
しかし、実際のひび割れの発生パターンやコンクリート打込み時の気象条件などを踏まえると、コンクリートの沈下・ブリーディングによる可能性が高いと考えられた。また、目地付近や型枠の継目などのコンクリートにブリーディングや砂すじの跡が確認されていることも、この原因の裏付けとなった。目地板の付近であるため、コンクリートの締固めが不十分であった可能性も考えられた。
さらに、コンクリートの沈下・ブリーディングによるひび割れの典型的な例を図-2に示すが、高欄の天端に確認されたひび割れは、目地部の貫通鉄筋(エポキシ鉄筋D13、長さ410mm)のほぼ真上に発生しており、図-2の右図に示すような鋼材による沈下の不均等によるものと推察できる。このひび割れの発生状況の概念図を図-3に示す。
一般にコンクリートの沈下・ブリーディングによるひび割れは、コンクリートの硬化前に発生するものである。しかし、このようなひび割れが竣工後に確認されたことに関しては、コンクリートの硬化後から竣工時までには軽微なひび割れに過ぎなかったことが考えられ、その後に風による防音壁の振動の影響などを受けてひび割れ幅が拡大したものと想定された。
今回はこのような事象が発生原因と考えられたが、目地の材質や厚み(薄さ)に起因してコンクリートの伸びによる発生応力の吸収効果が小さい場合や、コンクリート打込み時に目地部に異物が入ってしまった場合にも、今回と同様の斜め方向のひび割れが発生しやすいと考えられるので、注意が必要である。
今回のひび割れ箇所の補修は、ひび割れのある高欄の隅角部(浮きを生じている範囲)をはつり取ってセメント系モルタルで断面修復を行った。
今回のトラブルの主要な原因としては、寒中コンクリートの施工であり、コンクリートの沈下・ブリーディングが大きかったことが挙げられる。コンクリートの打込み時および締固め後の沈下は、主としてブリーディングによって生じる。ブリーディングとは、コンクリートの硬化までの間にコンクリート中の水分が上面に向かって上昇する現象である。また、型枠との境界に沿って水分が上昇すると砂すじが生じやすくなる。よって、沈下を抑制するためには、過度なブリーディングを生じないようにすることが重要であり、そのためのコンクリートの使用材料・配合および施工時の主な留意事項を以下に示す2)3)。
使用材料・配合に関しては、施工前の試し練りによる確認や過去の試験データ等を確認しておくことが望ましい。その結果、ブリーディングの抑制が必要な場合は、高性能AE減水剤等の減水効果の高い混和剤の使用や、骨材粒度・粒径・細骨材率を適切な範囲で配合設計することにより、必要なコンシステンシーを得るための単位水量を低減することも考えられる。また、単位粉体量を増加する方法(単位セメント量の増加やフライアッシュなどの追加)や、粉末度の高いセメントや増粘剤を使用する方法もある。
一方、施工時の過度な締固めはブリーディングを増大させるため、締固め管理を徹底する必要がある。ただし、締固め不足でも沈下は大きくなるので注意する必要がある。可能であれば、再振動締固めも有効である。また、打込み速度が大きいほど、1回の打込み高さが大きいほどブリーディングは多くなるため、適切な打込み計画とその管理が重要である。とくに気温が低い冬季には、凝結も遅くなるためにブリーディングが長く継続し、その量も多くなる傾向にあることから、十分に注意しておく必要がある。
なお、ブリーディング以外の原因として、前述のとおり、目地の材質や厚み(薄さ)に起因してひび割れが生じる場合があるため、過去の実績等を考慮して、使用する目地材の仕様についても検討しておくことが望ましい。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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