土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
4)打設準備
2020/06/29
浄水場の敷地内に原水ポンプ所を構築する工事を担当した時のことである。地下2階で使用した型枠支保工の材料を解体・撤去して地下1階に転用するために、中床版に2ヶ所の「ダメ穴」を設けた。ダメ穴の寸法は0.7m×1.5mである。
「ダメ穴」とは施工上の必要性で一時的に設けられ、使用後は塞ぐ穴のことで、例えばコンクリート構造物の床版のコンクリートを打込むことで密室になる空間内に残された資材を搬出するために開ける開口部などである。
中床版のコンクリート(設計基準強度Fc=24N/mm2)を打込み後、4週強度が設計基準強度に達していることを確認して、地下2階の型枠および支保工を解体した。ダメ穴部に配筋された縦・横の鉄筋の中央部をガス切断し、コンクリートとの付け根から曲げ棒を使って鉄筋を上方へ折り曲げ、出来た空間から建枠など解体した材料を搬出した(図1)。
支保工等の材料を搬出後、折り曲げた鉄筋を元に戻し、添え筋をした(図2)。切断した鉄筋はSD345、D16であり、配筋標準図1)から鉄筋の重ね継手長(ラップ長)は40dとした(表1)。なお、コンクリート標準示方書2)には原則として折り曲げた鉄筋を元に戻して使用してはいけないと書かれているので、今回の鉄筋を曲げ戻して使用する手順等を施工計画書に記載し、工事着手前に発注者から承認を得ていた。
したがって立会検査を受ける予定はなかったが、たまたま巡回していた監督員から「短辺方向の鉄筋のラップ長が足りないのでは。」との指摘を受けた。D16のラップ長は40d=640mmである。図2に示すように、長辺方向の添え筋長(L1)は左右どちらの鉄筋に対してもラップ長(L2)として40dがとれているが、短辺方向の添え筋の長さ(L3)は600mmであり、ラップ長は300mm以下と40dを満たしていない。
当初より短辺方向の鉄筋のラップ長が40d未満であることは分かっていたので「施工計画書に記載し、承認済みではないか。」と言いたかったが、その場は引きさがり、本社の設計部に相談した。コンクリート標準示方書[構造性能照査編](2002)には、開口部周辺の補強筋として、「開口を設けたために配置できなくなった主鉄筋および配力鉄筋は、各断面において所要鉄筋量を満足するように、開口部の周辺に配置しなければならない」と書いてあり、そのように補強筋を組み立てた(図3)ことも設計部に伝えた。ダメ穴の四隅にはひび割れを抑制するために用心鉄筋も配置している。
設計部の助言によれば、この基準は一般的な開口部に対するものであり、今回のような一時的なダメ穴に適用されるものではない。しかし、ダメ穴を開口部として扱って補強筋を組み立てているのだから、埋め戻し部(開口部を塞いだコンクリート)はセグメントと考えれば良いとのことであった。ただし、セグメントが落下しないように適切な量のせん断補強筋は当然必要である。現場によってはダメ穴の端部にテーパを付けて、塞いだコンクリートが抜け落ちないように工夫することもある。
監督員にはコンクリート打込み前に撮影した開口補強筋(図3)の写真を見せて、ダメ穴を開口部として扱って鉄筋を組み立てていることを説明し、納得してもらった。
ダメ穴の寸法を決める際、資材が搬出できる大きさで極力小さい方が良いという先入観があったが、補強鉄筋を組み立てることで開口部として扱えるなら、例えばダメ穴の寸法を2m×2mと大きくすることで、支保工材の搬出を容易にすることができたのにと残念に思った。鉄筋の曲げ戻しはできるだけ大きな半径で行うのが良く、ダメ穴の寸法には余裕を持たせる方が良い。高速道路のランプでは4m×4mという例がある。
逆に、パイプサポートや幅が900mmの建枠を支保工の材料として使用することで、ダメ穴の寸法を小さくすることができる。
また、鉄筋のラップ長を確保するなら、図4に示すようにあらかじめ鉄筋の継ぎ手位置をダメ穴部にまとめることで、今回の問題は解決できる。曲げ戻しの代わりに機械式継手を採用することもある。ダメ穴の型枠にコンクリート打ち継ぎ用インサートを設置しておき、そこに全長にわたりねじが切られたボルト(鉄筋)をねじ込む方法である。この方法では折り曲げた鉄筋に干渉されないため資材の搬出が容易になる利点がある。
このようにいろいろなバリエーションが考えられるので、搬出にクレーンが使えるかや、資材の転用順序とストック方法などの条件を整理して、ダメ穴の位置・寸法を検討することが重要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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