土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
2)盛土・軟弱地盤
2020/08/31
台風で崩壊した山間部の道路の復旧工事において発生した補強土壁のトラブル事例である。
補強土壁は高さ8mで壁面勾配は1:0.3であり、壁面材には、鋼製枠を用いた。鋼製枠とは、エキスパンドメタルをL型に折り曲げた構造で、その内側に斜タイ材を設けて土圧の作用による開きを抑制している1)。壁面材の高さは、1段当たり0.5mで、16段積み重ねる計画であった。なお補強土壁の安定性を確保するために、補強材(樹脂製のジオグリッド)を図のよう配置した(図-1)。盛土に用いた材料は、現場付近のまさ土を主体とする砂質土であった。盛土の締固めは、ハンドガイドローラーを用いて所定の締固め度になるように十分に行った。壁面周辺は壁面の通りを揃えることに配慮して木製のタコや足踏みに加えてプレートコンパクターを用いて慎重に締め固めた。10段目の施工を完了した時点で、夜間にまとまった雨(日降水量30mm)が降ったため、翌日に土留めの状況を確認したところ、壁面のはらみ出し、壁面材のずれおよび地表面のひび割れと沈下が見られ、補強土壁が大きく変形した(写真1)。
補強土壁の変形は以下の2つの原因により生じたものと考えられた。
地形に関する原因としては、この現場は集水地形にあり、降雨量がそれほど多くなくても、背後の斜面や崩壊を免れた道路から表流水が集まりやすく、盛土に表流水が浸透しやすい状況にあったものと考えられた。その結果、盛土の含水比の増加により土が強度低下をおこした可能性がある。
また、施工方法に関する原因としては、壁面材自体の剛性が低いことから、締固めによって壁面が変形しないようにすることに気をとられ、プレートコンパクターは使用したものの、壁面材に近接する部分の土の締固めが不十分となっていた可能性が考えられた。
なお、この補強土壁は変形が大きかったため、補強や補修といった対策により施工を継続することは困難と判断し、壁面材と補強材および背後の盛土をすべて撤去した。再施工では、壁面材の周辺の土は、プレートコンパクターよりも大きい締固めエネルギーを与えることができるランマを用いて締め固めることとした。また、仮に、盛土内に水が浸透しても速やかに排水できるように、最下段は砕石層に変更した。加えて、施工期間中の盛土への水の浸透を防ぐ対策として、まとまった雨が予想される場合は、作業終了後、地表面をシートで覆って養生した。さらに、道路面にまくら土嚢を設置して、表流水が現場に流れ込まないようにした。以上の対応により、補強土壁を無事に構築することができた。
補強土壁工法では、地盤内に設置した補強材の引張力により地盤の崩壊を防いでいるため、補強材が効果を発揮するように地盤をよく締め固めて、補強材と地盤の間の摩擦抵抗を十分に確保しなければならない。加えて、特に壁面材の付近は締固め不足となりやすく、壁面のはらみ出しやずれが生じる場合があるため注意が必要である。また、排水対策工を施すことにより盛土内への水の浸透を防ぐことが重要である。せっかく締固めをしても、土が飽和して水浸状態になると、土の強度が低下し、補強効果も減少するため注意が必要である。
また、ここに示した補強土壁は、上下の壁面材同士を結合しない構造形式であるため、壁面の変形が生じやすいので、より一層の注意が必要である。なお、この点を解決する方法として、壁面材を上下左右に連結した形式の補強土壁2)も実用化されている。これらについても参考にすると良い。
1)ジオテキスタイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル 第二回改訂版 平成25年12月 ジオテキスタイル補強土工法普及委員会、一般財団法人 土木研究センター、p.77.
2) 例えば
https://www.mitsui-sanshi.co.jp/system/system_1rw01.html
https://geosystem.sakura.ne.jp/wall/ww
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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