現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

3)打設後(養生・修繕等)

2020/09/29

雪掻きと凍結防止剤で短期間に
コンクリートの表面剥離が発生!

工事の概要とトラブルの内容

北地方(青森県)の沿岸域で6月に施工した岸壁の上部コンクリートにおいて、約半年後の1月末に表面剥離が発生した(図-1、写真-1)。

上部コンクリート(無筋)の配合仕様は普通18-8-40Nで、水セメント比は65%、空気量は4.5%として設計されていた。施工当日の天候は晴れで、打込み作業も計画通りに終了した。打込み完了後、上面に養生マットを敷設して7日間の散水養生を実施した。材齢28日を経過し、所定のコンクリート強度を確認した後は、この岸壁は作業用資機材の搬入・搬出や仮置きのために利用していたが、冬に表面剥離が確認されるまでは変状等は全く見られなかった。

この年は11月末から降雪が続き、最低気温も零下となり、海風の影響もあって、朝方を中心にコンクリート上面が凍結するようになった。そこで、凍結による作業員の転倒防止や作業性の向上を目的として、作業範囲を雪掻きしたうえで凍結防止剤を散布した。凍結防止剤は、12月中旬から表面剥離が確認される1月末まで、作業実施日にはほぼ毎日散布していた。

表面剥離は、主に凍結防止剤を散布した範囲において不規則に発生していたが、特に海に近い側に比較的多く発生しており、その深さは5~10mm程度であった。

図-1 岸壁の概要とコンクリートの表面剥離の主な発生範囲図-1 岸壁の概要とコンクリートの表面剥離の主な発生範囲

写真-1 コンクリート上面に発生した表面剥離写真-1 コンクリート上面に発生した表面剥離

原因と対処方法

今回の表面剥離は、発生時期が打込みから約半年後の冬季であったこと、発生位置がコンクリート全体ではなく局所的(変状自体に規則性はない)であったこと、膨張性の変形(剥離)を生じていたこと、直前の約2か月間は積雪と融雪が繰り返されていたことなどから、凍結融解の繰返しによるスケーリング(コンクリート表面がフレーク状に剥がれる現象)であると考えられた。このようなスケーリングは、凍害による変状の典型例の一つである。もちろん、表面剥離が局所的に発生していたことから、コンクリートの品質(水セメント比や空気量など)にばらつきがあったことも考えられ、締固めや表面仕上げの均一性が十分でなかった可能性も想定される。

気象観測の結果を詳しく確認したところ、12月上旬以降は日最低気温が0℃を下回り、日最高気温が0℃以上となる気温の変動が観測されており、外気に曝されるコンクリート表面では凍結融解作用が50サイクル程度は生じていたものと推定された。一般に、凍結融解によるスケーリングは、水セメント比の大きいコンクリートで生じやすく、また最低気温が低い条件であるほど劣化程度が著しく、劣化進行も速い。今回は、水セメント比が65%とかなり大きく、最低気温も低い条件(氷点下12℃)となっていた。

なお、コンクリートの上面に積雪がある場合は、コンクリート表面は外気に曝されず、雪が断熱材の働きをして日中も温度が氷点下のままで、凍結融解を繰り返さないことが知られている。しかし、今回の場合は、雪掻きをした範囲では日中は0℃以上になり、凍結融解が繰り返されたものと考えられる。

さらに、凍結防止剤の影響も無視できないのではないかと考えられた。既往の研究では、凍結防止剤に含まれる塩化物が凍結融解に作用することによって、凍害劣化(とくに表面剥離)の進行を促進させることが報告されている1)。また、室内実験ではあるが、水セメント比65%のコンクリートでは、塩化物を作用させた条件での凍結融解試験により、30~50サイクルの凍結融解でスケーリングを生じる結果が報告されている2)。したがって今回は、散布された凍結防止剤の影響もあって、約2か月という比較的短い期間で表面剥離に至ったものと考えられた。特に岸壁に近い範囲は、荷役作業等を行うために凍結防止剤を散布する頻度や量が多くなり、それが表面剥離を著しくした要因と考えられた。

表面剥離の補修は、コンクリートのぜい弱部を除去し、左官工法による断面修復を行った3)。まず、補修範囲の外周に深さ10~15mm程度までコンクリートカッターを入れ、ぜい弱部はすべて除去した。ぜい弱部の深さは最大でも15mm程度であった。その後、下地コンクリートの表面の吸水防止と付着性確保のためにプライマーを塗布し、ポリマーセメントモルタルを用いて仕上げた。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

今回のトラブルの要因としては、積雪寒冷地の冬季にコンクリート上面の雪掻きと凍結防止剤の散布を繰り返すことによって、凍結融解が繰り返される可能性を想定できなかったことが大きい。また、水セメント比の大きいコンクリートが使われていたことも大きな要因と考えられる。

そこで、積雪寒冷地で水セメント比の大きいコンクリートを施工し、早期から凍結防止剤を繰り返し散布するような場合は、設計や施工計画の段階でスケーリングへの対策を十分に検討しておくことが望ましい。このような条件に該当するケースは多くはないかも知れないが、今回のようなトラブルは、港湾施設に限らず多くのコンクリート構造物(付帯構造物も含む)においても起こり得る。

このようなトラブルの再発防止のための対策としては、以下の留意事項が考えられる。①コンクリート自体の耐久性を向上させる(水セメント比の低減、適切な空気量の確保、凍結融解抵抗性を向上させる表面含浸材の塗布など)。②コンクリート上面の排水を確実にする(排水勾配を確保して水捌けを良くする)。③凍結防止剤の散布量を減らす(例えば、作業範囲を限定してマット等による断熱養生を併用し、凍結しにくくする)。

参考文献

1) 日本コンクリート工学協会:融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会報告書・論文集,pp.24~37,1999.11

2) 遠藤裕丈ほか:スケーリング進行性評価に関する研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,pp.1129~1134,2009

3) 土木研究所:土木研究所資料 第4343号 コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)、pp.Ⅲ-1~26、2016.8

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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