土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2021/10/28
宅地造成の逆T型擁壁の基礎として、中掘り先端根固め工法によりPHC杭を施工した。PHC杭の仕様は、杭径φ700mm・杭長37m・掘削長40ⅿで、杭の構成は、下杭(A種)11m、下中杭(A種)10m、上中杭(A種)10m、上杭(C種)6mであった。施工地盤は、GL-3.0mまでは埋土層、GL-13.5mまではN値0~2のシルト層、GL-18.4mまではN値12~20の細砂層、GL-27.2mまではN値2~4の粘土層、GL-33.5mまではN値15~28の細砂層、GL-38.7mまではN値15~27の粘土層、それ以深はN≧50の支持層(砂層)となっていた。地下水位はGL-4.5mであった(図-1)。基礎杭の打設機械は、全装備重量112tの三点式杭打機であった。
基礎全体(全22本)の4本目の杭が、上杭を上中杭に接続してヤットコで所定の深度まで中掘り沈設している途中で、大きく沈下(自沈)した。杭頭の位置を検尺して確認したところ、設計よりも900mm沈下していることが分かった。
また、当該杭の沈設時の施工状況では、3本目までの杭とは以下の点が異なっていることが分かった。
・上杭沈設時の排土量が3本目までと比べて少なかった。
・沈設速度が、杭全長にわたって3本目までと比べて速かった。
沈設施工中の杭体の沈下の原因として、以下が想定された。
①支持層手前で土砂を排土する際に、粘性の高い土砂(粘土)がスクリュー全長に付着し、十分な排土量が確保できなくなっていた。
②オーガを上方に動かした際に杭先端部に負圧が発生し、吸引現象により杭が沈下した(図-2)。
③フリクションカットの効果で杭の周面摩擦力が減少し、沈下抵抗が少なくなっていた(誘因)。なお、フリクションカッタ(取付例;図-31))は、厚さ9mmとしていた。
そこで、5本目以降の杭の施工では、以下の対策を行った。
①上杭沈設に際しては、オーガ先端から注水を行いながらオーガの上下反復作業をこまめに実施し、粘性土を十分に撹拌することで粘性の高い粘土がスクリューに付着しないようにした。
②エアーコンプレッサーの吐出圧力を1ランク引き上げ(調達可能なレンタル品で1.03MPaから1.27MPaに変更)、空気圧を上昇して排土がスムーズに行えるようにした。
なお、沈下した当該杭については、自沈が止まった位置で根固め部の造成を行い(図-2)、基礎フーチングを部分的に厚く変更した形による構造計算により杭基礎の構造上問題がないことを確認し、発注者の承認を得たうえで、基礎底面を部分的に掘り下げて杭頭補強を実施した。
中掘り先端根固め工法では、通常、杭先端部にフリクションカッタを装着して杭周囲と地盤との摩擦を切りながら沈設を行うため、施工中や施工直後は周辺地盤の乱れが回復しておらず、杭の周面摩擦力が小さい。さらに大径杭になると、杭下端は1m以上余掘りして根固めを行う(セメントミルクと根固め部の土砂を撹拌混合する)ため、根固め部が硬化するまで先端支持力は期待できない。以上の点から、杭を所定の深度に沈設した直後の鉛直支持力は非常に小さく、杭の自沈に注意する必要がある。特に重量の大きい大径杭を軟弱地盤において施工する場合は、自沈が発生しやすいので、杭の沈設、根固めの築造、根固め築造後のオーガ引き上げの各工程において杭頭位置の管理を継続して行い、適切な杭の沈下防止対策を講じる必要がある。
例えば、現在の大半の杭打設機械には、杭沈設補助装置2)(図-4)が装備されており、オーガの上下作業範囲が小さい場合は杭体を保持しておく等、これを適切に使うことで杭の過沈下防止に役立てることが考えられる。なお、オーガを大きく引き上げるために杭沈設補助装置による保持を外す場合(杭の接続時や根固め作業完了後など)は、ワイヤー等で杭体やヤットコを保持して地上部に固定し過沈下を防止する(図-5;ヤットコ側面に板羽を取り付けて杭受け台に保持した事例)。
根固め完了後の杭の沈下に対しては、試験杭(通常は最初に施工する本杭)で確認した杭が安定するまでの保持時間に基づいた施工管理を行うことが重要である。ヤットコを用いる場合には、ヤットコと杭を一体にしたまま保持しておくことになるので、工程上必要となる数量のヤットコを用意しておく。
1) 公益社団法人 日本道路協会:杭基礎施工便覧,p.165,平成27年3月
2) 一般社団法人 コンクリートパイル建設技術協会:既製コンクリート杭工法の施工管理要領(中掘り工法編),p.27, 平成28年9月
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