土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
4)土留・その他
2021/11/29
今回のU字溝の床付け掘削面は、石積み擁壁の基礎面より深いため、50mの区間で石積み基礎があらわになっていた。このため、基礎下の床付け地盤が石積み擁壁の荷重で破壊し、滑落したものと考えられる。
擁壁の設計では、掘削等により前面土が撤去される場合があるため、通常、前面の埋土は安定計算に見込まない。このため、通常の逆T字擁壁では、短期間であれば、底盤基礎の深度までは掘削することができる。
しかし、石積み・間知ブロック擁壁の設計では安定計算が行われることは少なく、標準図で規格が決められているものがほとんどである。また、石積み・間知ブロック擁壁は、逆T型擁壁と異なり、基礎の接地面積が小さく、擁壁の自重が集中しやすい構造である。
今回の滑落は、図-1に示すように、基礎があらわになったことで、これまでカウンター荷重とバランスして支持していた基礎地盤が擁壁の自重を支持できなくなり生じている。
今回、工事経験者数名にヒアリングを行ったところ、通常の石積み・間知ブロックの施工では床付け掘削時に擁壁高さに見合った地盤の支持力が確認されるので、石積みがきちんと施工されていれば、このような事故はないはずであると言う意見もあった。しかしながら、今回のように①基礎下数十cmの素掘りを②50m全区間で行ったことで、石積み擁壁の滑落が生じており、支持地盤の強度を過信して、基礎下まで素掘りを行うことにはリスクがある。
一見、道路脇の側溝設置のため数十センチ素掘りすることは容易な工事とも思える。ところが、今回の事例のように擁壁の形状や土質状況によって思わぬ被害が生じる場合があるので注意が必要である。
原因が明らかなことから、対策としては以下の2点である。
①簡易な山留めの施工
既設擁壁の基礎より下を掘る場合、親杭横矢板、あるいは簡易土留めなどで保護する。親杭横矢板式の土留めの例を図-2に示す。
②分割施工
本事例では100mの施工範囲を2つに分けて施工を行っていた。既設構造物の基礎下を掘る場合、もう少し短くする必要がある。分割施工の長さについては明確な設計根拠はないが、今回の施工経験者へのヒアリングでは、擁壁の目地間程度という意見があった。
本事例では基礎前面の支持地盤を掘削しており、施工による影響が十分検討されていなかったか、軽視されていたものと思われる。工期に余裕がなく詳細検討が難しい場合もあるかもしれないが、不安なことがあれば、施工経験者にヒアリングを行うのも有効である。
土木工事では、事前検討で、その施工によりどのような事象が起きるのかを想像し、事前の対策を行い、施工に入ることが重要だ。特に今回の件のように、人身事故に繋がる可能性があるものに関しては、危険予測の検討と慎重な対策が必要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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