土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2021/12/24
工場施設の建設工事において、柱部が拡幅した鉄筋コンクリート擁壁の壁部に、図-1に示すようなひび割れが発生した。このひび割れは、コンクリートの打込み7日後に型枠を取り外した際に確認された。いずれも柱の近傍に発生しており、その幅は0.1~0.3mmであった。ひび割れは擁壁の両側で確認されており、貫通ひび割れであった。
擁壁の延長は24mで、柱は8m間隔で配置されている。壁厚は30cm、柱断面は50×50cm、擁壁の高さは3mである。
コンクリートは24-12-20BB(呼び強度24N/mm2、スランプ12cm、粗骨材最大寸法20mm、高炉セメントB種)の仕様で、施工は11月に行われた。底版コンクリートの打込みから2週間後に、壁と柱は一体のものとして同時に打ち込まれた。
このひび割れは、いずれも柱の近傍に発生し、柱から離れるに従って少し下方に向かうようなひび割れであった。よって、その原因は柱部と壁中央部(ひび割れの発生箇所よりも中央寄り)に打ち込まれたコンクリートの沈下量の違いであると考えられた。つまり、柱部は鉄筋量が多いために拘束が大きくなりコンクリートは沈下しにくく、壁部は鉄筋量が少ないために比較的沈下しやすい。よって、柱近傍の壁部では柱部のコンクリートに沈下が拘束されて、このようなひび割れになったと推測できる。
念のために打込み記録を確認したところ、高さ3m(4層で打込み、1層の高さは約75cm)を約45分で完了しており、30分当たり約2mの打ち上がり速度であった。コンクリート標準示方書では、30分当たり1.0~1.5mを標準としている。これらのことから、急速な打込みによってコンクリートが沈下しやすくなり、柱部と壁部の沈下のし易さ(拘束度)の違いによって、今回のようなひび割れが発生したと考えられた。なお、1層の打込み高さが大きかったため、締固めが不十分になりやすく、より沈下しやすかった可能性も考えられた。
ここで、このような構造物は柱部から打込むことが多いため、柱部から壁部に流れ出たコンクロートの凝結が進み、その後に打ち込まれた壁部のコンクリートとの層間でコールドジョイントが発生したようにも見える。しかし、打ち上がり速度が大きかったことや施工時期を考慮すると、コールドジョイントに起因するひび割れではないと考えられた。
対策として、このひび割れは構造的に問題となるようなものではないので、発注者と協議のうえ、コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針1)を参考に、工場が海岸に近かったことから主として鉄筋腐食に関する耐久性を考慮して、幅0.2mm以上のものについてセメント系注入材で補修した。
今後の同様の施工(連続する躯体で、体積当たりの鉄筋量が大きく異なるような部位がある場合)に当たっては、打込み計画(1層の打込み高さ、打ち上がり速度、打込み位置、締固めの要員など)を綿密に検討し、施工時にはこれらを適切に管理することが重要である。特に以下のような点に留意して計画するとよい。
・打ち上がり速度が大きくなり過ぎないように(30分当たり1.0~1.5mを超えないように)、コンクリートの出荷(搬入)や打込みの計画を検討する。
・1層の打込み高さは40~50cmを標準として打込みの計画を検討する(通常の高周波バイブレータの場合)。
・締固めを入念に行うため、余裕のある締固めの要員配置を検討する。
なお、コンクリートの沈下量の違いに起因して生じるひび割れの例として、ボックスカルバートの側壁と頂版を同時に打ち込んだ際に、側壁との境界部付近の頂版の天端にひび割れが発生する場合がある。このような事例では、側壁コンクリートの沈下が落ち着くのを待ってから頂版コンクリートを打ち込むような計画にする場合が多い(現場条件にもよるが、30分以上は待ってから打込みを再開する場合が多いと思われる)。
1) 公益社団法人 日本コンクリート工学会:コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針-2013 -,2013.4
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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