土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2021/12/24
多目的ダム(中央土質遮水壁型ロックフィルダム)を建設する工事において、堤外に設置された取水設備(取水ゲート)のコンクリートに最大幅5mmのひび割れが発生した。この取水設備は、図-1、写真-1に示すように、地山に約45度で傾斜して設置する高さ約85m、幅3.8mの直線型多段式である。コンクリートは、1回の打込み高さ(リフト厚)の標準を2.0m、打込み間隔の標準を6日として、43回に分けて打ち込んだ。このうち、図-2に示すリフトにおいて図-3、写真-2に示すように最大幅5mmの大きなひび割れが発生した。このひび割れの特徴は以下のとおりであった。
・当該リフトは2月に打設され、ひび割れが発見された(発生した)のはその年の10月であった。
・ひび割れは、既に打ち込まれた下層のコンクリートから直角方向に発生し、斜め方向に角度を変えて箱抜き部分のコンクリートの上面に進展している。
・ひび割れ幅は、下層のコンクリートに接している面では0.2mm以下であるが、リフトの上面に近いほど幅が大きく、最大5mm程度である。
・他のリフトにも0.3mm以下のひび割れが発生しているが、当該リフトのひび割れの幅はそれらに比べて著しく大きい。
コンクリートの配合は、普通21-8-25BB(呼び強度21N/mm2、スランプ8cm、粗骨材最大寸法25mm、高炉セメントB種、単位セメント量285kg/m3)であった。
(1)ひび割れ原因の推定
ひび割れの原因は、以下のような理由および別途実施した温度応力解析結果から、外部拘束による温度ひび割れと判断した。
・ひび割れが発生したリフトの部材長が16mであり、その下方リフトの部材長10mより長いため、下層のコンクリートおよび地盤から受ける外部拘束が大きい条件となっている。
・下層のコンクリートとの打込み間隔が30日であり、標準打込み間隔6日の他のリフトに比べて長かった。すなわち、他のリフトより強度の大きいコンクリートに打ち継いだため、下層コンクリートから受ける外部拘束が他のリフトより大きい条件となっている。
・ひび割れの発生が外気温の低下してきている10月ということから、コンクリート温度も降下して温度応力が増加する時期と一致する。
・ひび割れが発生した取水口(箱抜き部分)の上縁には、図-4に示したように鉄筋が配置されていない構造となっており、ひび割れの発生原因となる引張力に対する抵抗力が小さい。
・ひび割れ面に、目違いや段違い等が認められず、かつ構造物周辺の地山、吹付けモルタル面にはひび割れ等の変状が認められないため、外力が作用しているとは考え難い。
(2)ひび割れの補修方法
発生したひび割れの処置について発注者と協議した結果、ひび割れの発生原因が外力によるものではないため、補修で対処することとなった。
ひび割れの補修工法には、一般に表面被覆工法、注入工法および充填工法などがある。どの補修工法を選定するかは、ひび割れの発生原因、ひび割れの形態(幅、密度、深さ、進行性など)、ひび割れ幅の変動、および構造物の環境条件(温度、湿度など)を考慮する必要がある。
当該構造物は、コンクリート打設後1年程度経過しているため、セメントの水和熱はほぼ収束していると考えられた。しかし、外気温の変化に応じてコンクリート温度も変化し、ひび割れ幅は年間を通じて変動するということを考慮する必要がある。例えば上記方法のうち、注入工法による補修を採用した場合、ひび割れ幅が最大5mm程度と大きいためエポキシ系よりもセメント系の材料が適している。ただし、当該位置は外気温の変化が大きいため、セメント系では、ひび割れ幅の変動に追従できない可能性が考えられた。そこで、ひび割れ追従性に優れた弾性系の材料を使用した充填工法が適していると判断した。また、防水性や美観性を考慮して表面被覆工法との併用が望ましいと考えて図-5のような補修を行った。
マスコンクリートは、断面寸法の大きなコンクリート構造物のことである。断面寸法が大きいと、セメントの水和熱が外部に放熱されにくくなるため、部材内部の温度上昇が大きくなりひび割れが発生しやすくなる。土木学会コンクリート標準示方書では、マスコンクリートとして取り扱うべき構造物の部材寸法は、おおよその目安として、広がりのあるスラブの場合には厚さ80~100cm以上、下端が拘束された壁の場合は厚さ50cm以上としている。このようなコンクリート構造物を施工する場合には、実際の施工条件や環境条件を考慮した温度応力解析を行って、ひび割れの防止対策あるいは抑制対策を行う必要がある。当該構造物のように、コンクリートを層状に打継いで施工するようなマスコンクリートの場合の一般的なひび割れ対策を以下に挙げる。
①セメント・混和材料による温度上昇量の抑制:材料
高性能AE減水剤などを使用して、単位水量を減じることで単位セメント量を低減して発熱量を抑制する。あるいは、水和発熱量の少ない低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなどを使用する。
②クーリング工法による温度上昇量の抑制:冷却
クーリング工法は、セメント水和熱による温度上昇量を抑制する方法であり、パイプクーリング工法とエアーパイプクーリング工法がある。パイプクーリング工法は、パイプをあらかじめコンクリートの中に埋め込んでおき、コンクリート打込み後に冷水を通水することで放熱を促進させて温度上昇量を抑制する方法である。エアーパイプクーリングは、水の替わりに送風あるいは冷気を送ることでコンクリートの内部から放熱して温度上昇量を抑制する方法である。
③コンクリート打込み高さの制限による温度上昇量の抑制:打込み高さ
1回のコンクリート打込み高さを小さくすると、温度上昇量を抑制することができる。今回の事例のように、下層のコンクリートを打ち込んでから、新たなコンクリートを打ち継ぐまでの間隔が長い場合には、打ち継ぐ最初の層の打込み高さを半分程度に小さくして(ハーフリフト)、温度上昇量を抑制することが有効である。
④ひび割れ制御鉄筋の配置:鉄筋
ひび割れの発生が予想される方向に対して鉄筋を直角方向に配置して、温度応力によって発生した引張力を鉄筋が分担することで、ひび割れ幅を小さくすることができる。今回の事例に対しては、このようなひび割れ制御鉄筋を取水口コンクリート(箱抜き部分)の上縁に配置することは有効である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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